正しい環境の評価がなされていない
八田耕吉
「環境に配慮した道づくり」の施工ワーキングにおいて、専門家会の環境評価には自然に対する評価に大きな誤りがある。正しい自然への評価がなされないまま、環境への配慮が出来るとは考えられない。名古屋市における「ヒメボタル分布調査」を元に、その問題点を整理する。
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自然を評価するには、生物多様性が重要であるということは良く知られるようになったが、相変わらずの貴重種保護が優先されている。ヒメボタルがその地域生態系において代表される種であるという観点から選ばれているのであり、その種だけが保護されればよいというものではない。佐渡の5羽のトキを環境省(庁)が捕獲したことにより絶滅したのに対して、中国では同時期に見つけられた7羽のトキの保護を地域ぐるみで行ったことによる保護に成功した例からも容易に理解できるであろう。
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生態系の保護を論じるには水系や地質などの地理的要因、気象学的要因、植生環境などの特徴をきちんと把握し、特徴種としてのヒメボタルの生息環境を保護する配慮が必要であることはもちろん、その種だけが生き残ってもえさとなる生物が生存していなければだめであろう。
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第3に、ヒメボタルの生息にとって重要なのは卵から幼虫、さなぎ、成虫を通しての環境がセットでそろっていることであり、成虫の飛翔地域をはずせばよいということではない。すべての環境がそろっていることはもちろんのことであるが、その種の生息に重要なのはむしろ移動が少ない、成長する幼虫期の生息環境が重要である。この点においても名古屋市が行った成虫調査は、精度や手法の欠点を無視しても調査に値しない。(あまりにも科学的根拠のない、初歩的な問題であるため、ここでは詳しくは省略する。)ここでは、市民における幼虫調査結果を参考にすべきであろう。
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分布状況で「ほぼ全域で確認」、「他地域で確認された」として、計画路線上にいなくなっても影響が少ない、配慮しているとされているようであるが、植物版レッドデータブックの監修にかかわった日本自然保護協会は「他地域に分布するという理由の元に生息地・生育地を奪うことが行われる限り、それらの種は確実にしかも非常に短時間のうちに絶滅してしまう」と書いている。
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その地域に生存できる個体群を維持するためには、その個体群の個体数、生息に必要な面積、そして、最適な環境が判らないときにはできるだけ広い面積で保護されなければならない。もし、その環境が不適となったときに良好な環境への移動が保障されなければ、その個体群は絶滅するであろう。そのためには、いろんな遷移の段階を持った景観(多様な生態系の集まり)が必要である。そのような景観を代表するのが、里山である。