「相生山緑地の道路建設に係わる検証委員会」の意見陳述書
八田耕吉
昨年10月(26日)に、道路建設課を訪れ、調査方法についてT主査とお話をしたとき、「あなたはヒメボタルを見たことがあるのか」と聞かれました。たぶん、彼は相生山の道路建設時に、市民からよく聞かされた言葉がつい出てしまったのではないかと思われます。確かに、自然のよさや、生物の素晴らしさなどは、実際に経験した人にしか解からないことであり、一度検証委員会のメンバーにもヒメボタルの見られる時期にぜひ来ていただきたいことを最初にお願いしておきます。
相生山の良さやヒメボタルの素晴らしさについては、この後何人かの方からお話があるかと思いますので、私はこれらを客観的に評価するための調査法についてお話させていただきます。前回の検証委員会において、ヒメボタルの幼虫調査が最大規模の調査と説明されていましたが、ただ単にトラップ(フイルムケース)の数が多いということだけでは、正確な分布や個体数推定の精度が高くなるとは限りません。大雨や、野生動物などによる捕食などの大量殺戮にもつながる危険性をはらんでいることにも注意を払わなければなりません。調査地域や調査対象昆虫の移動距離をも考慮した数の設定がなされておれば、必ずしも多いほうが正確とは限りません。
市民が行う調査には、そのような魅力的な表現も必要ですが、それよりも、この調査は市民団体「相生山緑地ヒメボタル幼虫調査実行委員会」が「兵庫県立人と自然の博物館」の八木剛さんの指導のもとに行われたものです。そして、市の調査ではなく、市民が行った調査です。このように適切な指導者のもと、広い範囲で行われた調査が結果的に最大規模と称されただけであります。
その上、第1回の検証委員会においてパワーポイントで紹介された資料5ページ目の幼虫調査は、「環境に配慮した道づくり」施工ワーキングにおいてルート変更された後に市民が行った調査です。ルート変更が幼虫の生息地域を破壊する可能性が大であることについては、「相生山の自然を守る会」の「提言書」において、私は「正しい環境の評価がなされていない」として幼虫調査の重要性について触れておきました。前回に示された資料は、幼虫調査後にルートの変更が決定されたかのように、「名古屋都市計画道路事業現況図」を載せるごまかしがなされています。新しく選任された検証委員の皆様には、どのように説明がなされていたのでしょうか。如何に優秀な専門家集団であっても、昆虫や生態学の専門家がいない「環境に配慮した道づくり専門家会」のような間違った認識でのルート変更が行われた結果、成虫の生息地をはずしたがために、幼虫の生息地の真ん中を通るというルート変更を行う、根本的な誤りを犯す結果となっています。
成虫調査についても、メッシュごとの目視による頻度調査が行われていますが、数少ない観察記録に加え、量的な把握がなされないまま行われています。調査は、1シーズン3回と少ないだけでなく、観察日及び観察時間がピーク時とは一致しているとは言えないだけでなく、発生時間、時期及び移動距離などの雌雄の違い(雌は後ろ翅がなく、飛べない)や、一般的に昆虫の場合はオスのほうがメスより早く羽化するなどの特性を考慮して行うためにも、ただ単なる分布ではなく、量的な把握が必要です。
昆虫の調査では幼虫の確認が可能な場合には、成虫の分布よりも幼虫の分布のほうが環境への適応性を見るのには適しています。特にホタルやトンボのように成虫に飛翔能力が高い場合は、成虫により分散拡大される開放型よりも、えさ生物や生息環境の悪化(乾燥など)による影響を直接受ける幼虫のほうが環境評価を見るのには適しています。その種がそこの環境にあっていれば、その種は定着するでしょう。
海上の森の自然は、ギフチョウやハッチョウトンボが生息していることだけが重要であるのではなく、2600種を越す昆虫が生息していることこそ重要であります。私たちの年間を通して週2回行った調査では、その日にしか確認が出来なかった昆虫が61%もあり、その日を逃すと見つからなかったかもしれない種が3分の2もいることを示しています。
生物多様性とは、その地域生態系(環境)を構成している多くの種により成り立ち、多くの種の存在によりヒメボタルも生存することが出来るのです。あくまで、ヒメボタルはその環境における代表種として扱われていますが、多くの生物種の存在により生存しているのであって、その地域生態系の一員でしかありません。
すなわち、ヒメボタルはその地域の多くの種が生息する環境・地域生態系の一員として生息しており、道路建設に伴う工事や構築物の影響が生物たちに及ぼす影響を知るためにも、そして改めて相生山の自然の重要性を検証するためにも、相生山全体の動植物の精度の高い調査が必要です。