住宅都市局都市計画部街路計画課 

名古屋市長                様                           2003.12.17

名古屋市都市計画道路3・5・79号弥富相生山線への意見

八田耕吉

 

「名古屋都市計画道路3・5・79号弥富相生山線の変更理由書」には、「都市計画の必要性」として「・・・道路には、安全・快適な利用という機能性に加え、環境負荷の低減、沿線環境との調和などを求めています」とされ、「特に、名古屋都市計画道路3・5・79号弥富相生山線は大規模な緑地に挟まれていることから、『自然環境等に配慮した道路整備』として位置づけられています」と書かれているにもかかわらず、あえて緑地の中を横切る道路を計画している真意がわからない。「昭和32年に都市計画決定」されたときに未整備であった区間が渋滞の原因かのように書かれているが、この相生山緑地を残す形で自然に配慮した都市計画道路が考えられたのでは。40年以上前の先人が残した緑地を、21世紀は環境の世紀であり、環境万博を打ち出しているお膝元で、あえて環境破壊につながる道路建設が必要なのはなぜでしょうか。愛知万博に市民参加の「環境に配慮した道づくり」が、人が自然を造るということが如何にばかげているのかを示す自然破壊の実験例として展示するためなのでしょうか。

 

以下に、この計画道路の問題点を具体的にあげる。

l   「野並交差点や島田交差点では渋滞」が「シミュレーション」により・・・相生山交差点から昭和高校方面へ抜ける所要時間が約半分になる」とされているが、昭和高校前の渋滞は今でも大変で、多くの車が住宅地の生活道路(旧市街地なので狭く入り組んでいる)にはいって危険がよりいっそう増すと考えられる。面倒なシミュレーションの計算をしなくても、今以上の車が昭和高校前の交差点に集まれば、1信号で数台しか通過、右左折することができないような交差点での渋滞は所要時間の短縮をはるかに超えることは容易に予測できる。

l   インスペクターと称する「道づくり専門家会」による提言書作りは、従来型の事業アセスのような造ることを前提とした事業計画作りであって、「環境に配慮した」とあえて言うならば、「道づくり」の専門家でなく、きちんと自然環境がわかる専門家を入れて環境への影響調査および予測をやることからはじめなければならない。道づくり、擬似自然づくりの専門家でなく、きちんと自然を評価できる生態学の研究者によって正確な自然評価からはじめなければ間違った自然観を市民に植えつけることになる。

l   「施工ワーキングのススメ」のなかで「インスペクターの講義(第2回施工ワーキング)特集」に「ワークショップは最高の工事現場」と書かれているように、立派な人工環境造りを前提とした「施工ワーキング」に表されているとおり、この道路は河川で見られるような国土交通省の生き残り策としての金(近ではなく)自然工法、他(多ではない)自然型工法の実験モデルに使われているとしか思えない。

l   ヒメボタルへの影響を小さくする」ために計画路線を沢筋から斜面上部へとずらしているが、一番深い谷筋のところを通過することには変わりがない。あたかも環境影響に配慮したかのような錯覚であって、ヒメボタルの生息地を横断することには変わらない。ヒメボタルの調査が目視によるメッシュ内のカウントで書かれているが、科学的な調査にはほど遠く、主観的な域を脱していないだけでなく、生態系保護での配慮はもちろんのこと、個体の保護に対する生息環境の保全についても理解がない調査である。

l   ヒメボタルはゲンジボタルやヘイケボタルのような水中生活者でないために飼育が難しいだけでなく、生息環境の再現は非常に難しく、改変による影響予測は十分な生態的な研究がなされていない本種では難しい。そのために保全措置は回避、低減、代償のうち、低減、代償措置の可能性はなく、回避のみである。本種の生息地は局限されており、このようにまとまった個体群が維持されてきたのは、広い面積で残されてきた緑地政策を行なってきた名古屋市の緑地行政の財産である。この緑地を分断する道路計画は、名古屋市の都市計画に携わってきた先輩が築いてきた環境保護への思いを踏みにじることにもなる。

l   道路設計のシェルター部、よう壁部、橋梁部などの整備案が示されているが、個体群保護への影響を和らげるためにこの手法が良く使われる。知多半島の鵜の集団保護にシェルターが使われて成功したかのようであったが、現在は増えすぎて生態系のバランスを壊すなど周辺にも被害が拡大している。個体および個体群保護は気をつけなければ生態系の崩壊につながることも視野に入れておかなければ、一時的に増えてもえさの不足や捕食性の天敵や病気の蔓延により全滅する危険性をも含んでいる。

l   よう壁工法について自然系の専門家と思われる二人の委員が小動物の移動について述べられているが、長良川の魚道のときにも誰が誘導するのかと聞いたが、動物は臆病でいつも同じ獣道を使うが、新しい道(コース)を造るなどの危険な行為は極力避けるものと思われる。もしそのようなコースを使えば、そこには待ち伏せをする捕食性の動物が集まってくることにもなる。

l   市民を巻き込んだ環境教育を行なうのには、トンボ池などのビオトープ作り的な発想によって行なうのでなく、科学的な論文、調査に基づいた根拠の元に行なうべきである。きちんとヒメボタルや植生・生物相調査を含んだ環境調査を市民と一緒に取り組んではいかがでしょうか。もちろん、造園や採集・栽培・飼育屋さんでなく、生態学を学んできた研究者の指導の下に行なわなければ信頼性のあるデータとして使えない。

原点に戻ってきちんと調査することからはじめることを要望する。