3つの「環境影響評価実施計画書」には、「生物多様性の確保および自然環 境の体系的保全」の項目に植物、動物、生態系として各1ページ書かかれている だけで、環境共生型の万博アセスメントにしては生態学的な視点がみられない. もっとも9月19日に行われた万博協会と市民団体15団体との意見交換会において 、「万博の会場計画の立案には生物の専門家は入っていない」と言い切っていた ことからも想像できよう.万博の実施計画書に資料としてあげられている新住と 道路の「環境への配慮」では相変わらずのファウナリストと注目すべき動物種の リストがあげられているだけで、調査・予測・保全対象の調査項目を貴重種など の特定種に限定している.その中でも生態系の中の上位性では「食物連鎖に着目 した調査」として「フクロウを頂点とする陸域の食物連鎖の関係性」など特定種 の生息に限定している.生態系や生物の多様性に対する認識のずれなどに関して は雑誌「科学」8月号の「万博は環境と共生できるか」の中に、「東海地方の里 山の自然誌−万博アセスに生態学的視野を−」として書いているので読んでいた だきたい.ここでは、これらの3つの事業(万博、新住計画、名古屋瀬戸道路) の基礎データとされる調査報告書について述べる.
「2005年日本国際博覧会に関わる環境影響評価実施計画書」には、植物988 種、哺乳類22種、鳥類130種、昆虫類2,279種が「既存調査において確認された」 と挙げられている.フローラおよびファウナ・リストの作成は、市民グループの 海上の森ネットワーク(引用でなく活用)の調査報告書「96年度版瀬戸市海上の 森調査報告書」(1997年4月)も加え、「3つの既存調査結果を活用」としてい る.後の2つの既存資料は万博の「環境への配慮」ではなく、先行事業としての 「瀬戸市南東部地区新住宅市街地開発事業環境への配慮」と「名古屋瀬戸道路環 境への配慮」があげられており、1993年から調査が行われている.関連した事業 でもある東海環状自動車道の調査は、1989年度からおこなわれている.
これまでの調査に比して、既存調査の「環境への配慮」の道路編では、調査 日は1993年4、5、8、11月の4日間、1996年4〜7月、10月の37日間、1997年6 月の4日間の延べ45日と1996年の調査日数が増えている.同様に新住でも調査日 は1995年7月より1996年6月までに77日間と、かなり密度の高い調査を行ってい る.それらの確認種は道路1,401種、新住1,435種、海上の森ネットワーク1,035 種(1996年1月〜1997年1月)となっている.
事業アセスと称する大金を使って行う年何回かの調査が、いかに採集の専門 家を動員した大がかりな調査を行っても、その地域の多様な生物環境をどれだけ 把握できるだろうか.これはいかに精度の高い調査を行っても、あくまで点でと らえているにすぎず、線あるいは面でしかとらえることはできない.市民グルー プや自然保護協会、野鳥の会などが行う自然観察会の活動は毎週変わる季節や気 候の変化、昨年の春の低温や7月の猛暑などを実感し、その環境の変化をより早 く、より詳しく知ることにもつながってくる.
万博の事業計画ができあがる前に行う調査は、事前調査に位置づけられると 考えられるが、後であげるように多くの部局による調査のラッシュがみられる. たとえ事業アセスであっても、アセスが行われる前に自然がなくなっては意味が ない.
現在も、森島委員会(4月22日の説明会で「委員長の森島先生が早いうち におこないなさいといわれたので1月からおこなっている」と説明)の調査が1 月から継続して行われているようであるが、種類数や貴重種の調査などをいつま でもおこなわずに、既存資料の分析を科学的に行い、生のデータの公開を含め、 市民に広く情報の公開をし、市民と共通の情報を共有し、広く検討を行い、市民 と行政が同じ机上で、生のデータをもとに検討してはいかがであろうか.過去に 行われた「多様性保全」の調査などにいくつかの誤りが、自然保護協会(「20 05年愛知万博構想を検証する」1997)を始め多くの市民グループにより指 摘されてきたが、素直に指摘を取り入れて改善すべきことは改善し、まちがいに ついては誰にでも理解のできるかたちで公表すべきである.
今回の既存資料の中には、愛知県商工部万博誘致対策局から出されていた「 瀬戸市南東部地区環境調査(自然環境)報告書[改訂]」(平成7年6月)、お よび「瀬戸市南東部地区に生息する生物の多様性に関する調査」(平成8年8月 )が使われていないだけでなく、市民グループの報告書を使っています.引用文 献として使うことはあっても、勝手に資料として使うのはいかがであろうか.加 えて万博協会の前身ともいえる万博誘致対策局が行った調査報告書を使わないの は、他の部局(土木部)や市民グループがおこなった調査結果の方が信用あると いうことだろうか.それともこれが「関連事業との連携」なのだろうか.
この資料以外に県農政緑地課が行った「瀬戸市南東部地域自然環境保全調査 (水辺・湿地調査)」、「同(雑木林)」、名古屋瀬戸道路関係で行った「道路 改築工事の内環境調査業務委託名古屋瀬戸道路(その1)−国指定天然記念物( 魚類)生息調査報告書」、「同(その2);環境への配慮(予測・評価編)の元 資料?」,「同(その3);環境への配慮(現状調査編、参考資料)の元資料? 」,「同(その4)副題なし(イタセンパラ)」、「万博を記念する公園検討調 査報告書」など情報公開をおこなって初めて出てきたものを始め、「博物館構想 」,「東海環状自動車道」などの既往の調査を部局の壁を取り払い、広く市民に 公開し、「環境への配慮」の調査との整合性を明らかにすることが必要である.
愛知県が行った現地調査「瀬戸市南東部地区環境影響調査」で確認された昆 虫類は1,028種とされているが、リストでは1991年からの調査を含んでおり、520 種(1992年度)、753種(1993年度)、1,028種(1994年度)と調査を重ねていく ほど記録された種類数が増えている.すなわち、1992年度の調査によって記録さ れた種(520種)に加えて、新たに233種、275種が加えられている.
1994年度に新たに加えられた種にはリスト中に@マークがあるだけで、その 年に何種が記載されたかはわからない.各年度に採集されたリストや採集時期が 「1991年度から1995年度」とだけ記載されているだけなので正確にはわからない が、同じ地域の調査において採集時期や方法の違いによって半数ぐらいの違いが 出ていると考えられる.このことは、まだまだ調査回数を増やすことで記録は増 えるものと思われるが、ただ採集回数を増やせばいいのではなく、レベルの低い 調査でも採集時期や方法によっては充分その地域の特性は把握できる.
1995年度の生物多様性の調査(単年度)では455種と、今までの地方誌や環 境調査などで見られるリストづくりと比べて、植生別動物相調査やスィーピング 、ビーティング、ベイト・トラップ、ライト・トラップなどの調査法やルッキン グ調査を含めているにもかかわらず採集種類数が貧弱である.植生別動物相調査 では7月、8月、10月の3回の調査だけであるために、春の調査時期を含まないな ど季節的な落としを含めて調査方法に問題が多い.たとえばライト・トラップ調 査は8月の2日間のみであるため、早春のころに羽化するカゲロウ、カワゲラ、 トビケラなどの水生昆虫、秋から冬に発生する蛾類などに抜けているものが多い .
自然保護協会の報告書(1997年6月)にも「植生とゾーニングの仕方の関係 がおかしい」と書かれているとおり、水系や地形、植生などを考慮に入れたゾー ン引きとは思えない.水系・地形・植生図とゾーニングとを重ね合わせてみると 水系・地形・植生と関係なく線引きしていることは歴然である.Cゾーン(森林 体験ゾーン)とBゾーン(自然との触れ合いゾーン、「瀬戸市南東部地区開発事 業環境共生計画報告書」では保護エリア)の間に水系や地形を分断する形でAゾ ーン(主要施設・緑地地域、活用エリア)が入り込んでいるだけでなく、保護エ リアが川の最も下流に位置している.さらに植生とは関係なくゾーニングされて おり、開発中心に区切られているとしか思えない.
このことは、無意識?のうちにあらわれており、「Bゾーンにおける保全活 用のあり方についての検討結果」(1997年9月)では図の作成においても意識的 に抜かれている.「森林と人との博物園構想」(1997年)に於いても「国際博の 主会場等となるAゾーン」という前提で考えられている.「図II.2−2保全特 性によるユニット区分」、「図II.2−3環境資源の分布状況」や「図II.3− 3現存植生図」など(以下の図も同じ)では、A、Bゾーンで区切られる生態的 な境界がないことをごまかすために、Aゾーンを意識して色塗りされていない.
調査地点の設定などにも同様に表れており、「新住・環境への配慮(参考資 料)」の底生動物調査地点では、Aゾーンには調査地点が1つもなく、調査地点 番号1,3,4,7,8と間が抜けている.抜けている地点2は、地図の位置関 係からすると地点3の海上川の上流の北海上川であろう.地点5と6は、地点7 の屋戸川、および吉田川の上流の調整池によって破壊される予定の沢が考えられ るが、如何であろうか.
万博計画では「篠田川、海上川、吉田川の3つの水系の保全」について「湿 地及び水辺林」の重要性について触れておりながら、底生動物の調査は「新住・ 環境への配慮(参考資料)」の1995年9月と1996年2月の調査しかない.ただし 、なぜか(現状調査編)でなく、(参考資料)なのかはわからない.調査方法は 一般的に有機汚濁の調査に使われる生物による水質判定法(ベック−津田α法) が使われている.公害の現況把握としてとらえるのであれば、そしてファウナ( 動物相)あるいは地域個体群の基礎資料であれば、むしろ陸上昆虫の調査のよう に基礎調査としての定性的な調査(同β法)が一般的であろう.
万博関連の工事などの影響をみるためには、有機汚濁の影響より、むしろ土 砂による影響や底質の変化が与える影響の方が大きいと考えられる.この調査法 では、瀬だとか底質などいくつかの採集条件をそろえるために、採集される種類 数が少なく表れる欠点がある.海上の森ネットワークで調査された調査結果(水 生昆虫)と比較しても、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類の3つの類で比較 すると県の調査では27種、海上の森ネットワークでは約倍の53種である.水生昆 虫では幼虫だけで同定するのは極めて困難であるため、海上の森ネットワークで やられたようなライトトラップなどによる成虫の調査による確認も必要である.
植物については農地林務部がおこなった4人の研究者名がはいった報告書「 瀬戸市南東部地域自然環境保全調査(水辺・湿地)」、「同(雑木林)」(1998 年3月)がある.市民グループの報告書を既存調査として活用したり、県の土木 部が出した「環境への配慮」を使うのであれば、同じ万博を誘致するためにある 県商工部万博万博誘致対策局から出された「瀬戸市南東部地区環境影響調査」や 「瀬戸市南東部地区に生息する生物の多様性に関する調査」を始め、同21世紀 国際博覧会推進局からでている「Bゾーンにおける保全活用のあり方についての 検討結果」(1997年9月)などの活用による、多くの部局が発注した部局の違い だけによる同じ目的の調査は減らしていただきたいものである.
多くの調査結果が含まれているためか、リストの中には、ナミアゲハとアゲ ハ、ヤマトシジミとシジミチョウ、ナミテントウとテントウムシなど、同じ種で ありながら異なった種名の重複を含め、単純ミスが目立つ.リストすら専門家の 目が通っているのか、疑問すら感じる.
すべての調査報告書には、ルッキング調査がどの程度含まれているのかなど 調査方法の違いによる各調査の採集データの記載がない.「環境への配慮」では 調査日時が書かれるようになったが、鳥類や底生動物の調査のようにそれぞれの 調査日の目録リストがないために、調査の信頼性に対する検討をも妨げている. リストだけでなく、1991年から1993年にかけて行われた調査も含めて、明らかに されていない調査の方法や日程などを含む詳細な内容の公表が望まれる.私は2 つの「環境への配慮」の生データ(元資料)の情報公開をかけたが、新住ではコ ンサル会社の報告書にも全く生のデータが含まれず、リストのみであった.
最近では標本の提出だけでなく、底生動物の現地調査でみられるような、各 調査日における各調査地点ごとの採集リストを出すことが義務づけられている所 が増えていると聞くが、ここにも愛知県の後進性がでているように思われる.
同様に「道路・環境への配慮」の情報公開の結果は、「注目される種の確認 状況」として5ページのコピーが提出された.内容は注目される種の確認ブロッ クに確認された年・月のみが書かれており、確認数は空白であった.新住と同様 に生のデータの提出は義務づけしていないとのことだった.
今回の情報公開のときに文書名がわからないので土木部道路建設課に尋ねた ら、「森山先生のリストにないものです」との返事だった.「道路・環境への配 慮」の元資料は、「道路改築工事のうち道路環境業務委託調査報告書(その2) 」であった.
新住の元資料で「環境への配慮」と違っていたのは、短時間で目を通したた めに動物関係以外は解らないが、鳥類のルートセンサス結果と「予測・評価編」 の「種ごとの予測結果」であった.前者は公聴会で日本野鳥の会の森島氏が指摘 したものに対して、「夏鳥と冬鳥の入力ミスだ」と回答した部分である.これに 対
して訂正がなされていたが、さらにミスがあったことについては、森島氏の原 稿(本誌)を読んでいただきたい.
後者の「種ごとの予測結果」はほとんど「道路・環境への配慮」の同タイト ル部分と同じであるが、確認地点の部分が新住と道路によって違うだけで、「広 く確認されていることから影響は小さいと予測される」、「生息確認地の一部が 消滅すると予測される」など、表現も同じである.ただし、「新住・環境への配 慮」と「元資料」とでは、確認地点のブロックが違っていたり、bやd−2ブロ ックが抜けていたり、「bブロック内の生息地は消滅する」が「本地区内で実施 される事業による影響は小さい」などに変わっている点である.
ギフチョウの調査では食痕調査が行われているが、カンアオイを食する昆虫 にはキイロマルノミハムシや8種類以上の蛾類が倉田忠によって報告されている .調査期日が「1995年6月8日:調査区域の概況把握、6月18日:調査地点の選 定及び写真撮影等予備調査、1996年2月15日:各調査地点における植生調査及び 写真撮影」となっている.食痕の調査日がいつなのか特定できないが、若齢中( 4月中旬から5月上旬)における食痕はある程度区別できると思われるが、2月 はもちろん幼虫が分散した遅い時期(6月)では,ギフチョウの食痕と特定する ことはかなり難しいと思われる.
さらに、食痕の確認地点が、海上の森ネットワークで行われた卵の調査によ り卵が確認されていない地域も含まれている.ギフチョウの産卵は、必ずしも食 草のスズカカンアオイの分布と一致しておらず、食草のより好みか環境の選択か はわからないが、かなり選択性があると思われる.両調査結果の刷りあわせをし てはいかがだろうか.
ギフチョウの調査を「羽化前に1回、羽化から産卵期間内に2回程度実施す る」となっているが、今年の発生時期(3月下旬から4月上旬)は終わっている .調査が既に終わっているとすれば、今回の計画書において手法の検討をせずに 行ったわけであるから、手法に誤りがあれば来年の春にやり直すことになる.
「多様性に関する調査」では、「植生別動物相調査結果から見た生物多様性 」を分析しているが、ライトトラップでは「スギ・ヒノキの幼令林」が多様度が 最も高く、スウィピングでも「コナラ−アベマキ群落」や「「アラカシ−ツブラ ジイ群落」より「「スギ・ヒノキ植林」と「スギ・ヒノキ幼令林」多様度が高く なるという奇妙な結果になっている.
多様性の調査をおこなうには、調査地点がその植生を判断するために十分な 環境になっているか、各植生の林縁環境の重要性を見落とさないかなど非常に難 しい点をクリアーしなければならない.むしろ里山の構成要因としての個々の生 態系の多様性を認識するためには、植物群落に依存する昆虫相の特徴をとらえる ことは必要であるが、生物群集の多様度の大きさの比較はあまり意味をもたない .里山はいくつかの生態系の寄り集まりで構成されていることが重要であって、 どの植生が多様性があるのかはあまり必要ではない.
生物群集の多様度を見るために「シンプソンの多様度指数」を使っているが 、定量的な採集法を使えない陸上性昆虫の評価には不適切な評価法である.その 上少ない採集個体数に比して種類数が多いので、数値の持つ意味があまり反映さ れなく、むしろ種類数だけでも十分であろう.里山は多様な生態系の集まりであ るという観点からは、「昆虫類の地点別出現種数」の中にある「各地点でのみ確 認された種数」に書かれている植物群落の違いによる特異性の高さ(40%から 60%)に着目すべきであろう.
里山生態系は、特異性の高い集団が環境の変化を受けて容易にこわされるこ とであり、そのこわされやすい多くの集団の集まりであり、いくつもの遷移の過 程をもっていることであろう.そしてモザイク状に入り組んだ植生環境の駆け引 きによる林縁環境も生み出されるのであり、新たに創出されるものではない.生 物の多様性を種類数や貴重種が多いことと勘違いして、種類数や貴重種の多さを 競い、ファウナリストと注目すべき動物種の種の保護を保全としている.生態系 の保全を考えるためには生態系を維持する多くの生物の関係や、その環境を代表 する普通種の数量的把握が重要であろう.
海上の森のトンボ類は、現在私達の調査を含め64種が記録されており、里山 の丘陵から低山帯を代表する種であるヤマサナエとニシカワトンボが広い地域に 多くみられる.海上の森のような平地性の里山でよくみられた、山麓から平地流 にかけてみられるキイロサナエやオオカワトンボなどの平地性の種は、最近では 生息場所も限られ、個体数も非常に少ない.現在、そのような生息場所に当たる ところは、最初に手をつけられて壊されてきた所でもあり、海上の森でも河川改 修などの開発により瀕死の状態にある.
「自然環境の保全と創出」の「ゾーニングと保全の基本的な考え方」のなか では、レッドデータブックの危急種について扱っている.「土地利用に関する危 急種等の保全策」でも同様に特定種への対策が記述されている.しかし、これら は生息環境の創出を保全と勘違いしている.
「生物多様性の確保及び自然環境の体系的保全」として、「動物」ではハッ チョウトンボ、ゲンジボタル、ギフチョウがあげられており、相変わらず危急種 等の保全策と結びつけている.そして、「評価手法及び環境保全措置の考え方」 の中に「代償措置」として、「動植物の移植等の代償処置を検討する場合には」 として、移植が今ある自然に変われるものと考えている.さらに特定種の移植が 生態系の保全と同意義にとらえられている.
さらに、「造成による影響の検討」の中では、「生息地の移動、代替しうる 環境の整備、近自然工法の採用、植生の維持、管理等、人為的な保全策を含めて 検討する必要があると考えられる.」などと述べている.このような特定種の保 全を、野外でおこなう栽培・飼育と勘違いをしていることにより起こると思われ る.
私達の調査では、今年の産卵は非常に狭い範囲でしか確認できなかった.過 去の調査結果から比較すると、人や車の出入りによる負荷と、卵の採集による影 響が出始めている.県の過去の調査(1996年)ではカンアオイが広く分布してお り、食痕調査結果からも充分保全できると結論づけている.カンアオイを食べる 昆虫には現在8種以上が確認されており、区別は困難である.海上の森のように ギフチョウの分布の末端では、カンアオイがあるにもかかわらず、産卵が行われ ないことがある.
たとえば、静岡県産のギフチョウの幼虫はヒメカンアオイを食するが、海上 の森にいるギフチョウが食べるスズカカンアオイを食しないことが知られている .産卵を促す特定な要素もわからないまま、今ある生息地を失うことは絶滅する 危険性が予知される.昨年、今年とギフチョウの生息が激減している現状から考 えても、広い範囲で保全することを考える必要がある.移植による保全が出来る と考えているようであるが、ギフチョウの移植の失敗例は多く聞くものの、成功 例は聞いていない.
移植による保全は特定な植物の個体の移植には技術的に可能であっても、個 体群や生態系の保全とはなり得ない.たとえそのような環境を創っても、ギフチ ョウがその環境を気に入らなければ、我慢するより逃げていくであろう.過去の 移植の結果などの調査を行い、そして公開して意見を聞けば、それがいかにあほ らしい発想であるか気づくであろう.