ボウリング調査による生態系への影響(1999.2.20)

1.  里山生態系に対する無理解による破壊行為
A.保全に必要な大きさ
 会場予定地の「海上の森」は都市化が広がった平野部に、岬状に突き出した先端部に位置しています。その上、最近では周辺部の開発が著しく、現在では陸の孤島化された自然が取り残された状態で維持されています。このような生態系を維持するためにはまとまった面積の保全を考えなければ、生態系を維持することは出来ません。なぜなら、他の地域から分断されることにより、移動が不可能な種はその地域で種が持続するために必要な個体数が確保されなければ、その地域から消えてしまいます。

B.里山に対する認識の誤りによる過ち
 里山は雑木林で代表される生態系のように考えられがちですが、草地、田畑、あぜ道、小川、湿地、ため池、人工林など小さな生態系の集まりです。これらの小さな生態系がパッチ状に入り組み、相互に関与し、境界ではそのときどきの複雑な生態系をもつくり出しています。これらの小さな生態系は非常に壊れやすいため、そこにすむ生物達は周りの環境へ移動することが可能でなければなりません。

C.地域生態系
 「海上の森」には、この地特有な生物達がすんでおり、新たにつくり出されるものではありません。里山の生物相は多様な小生態系の集まりであることを反映して、種類数は多い。珍しい種が少ないということであまり重要な生態系ではないという認識が分類学者などの自然史の専門家などに言われていますが、私達のごく身近な環境が破壊されることにより秋の七草であるフジバカマやキキョウが見られなくなりました。里山は長い時間をかけてつくり出された「人と自然との共生」であり、自然の豊富な周囲の環境よりその地域にあった里山という生態系をつくり出した結果です。多くの種を失ってきましたが、原生自然で見られない種や、湿地などの小生態系特有な種も残してきました。

2.  ボーリング調査の直接的な破壊行為
A.植生の破壊
 貴重種に対する配慮を神経質におこなおうとしているようですが、貴重種がそこに存在する理由を考えずに残しても意味がありません。直射日光の侵入による土地の乾燥や照度の違いが環境に与える影響は、伐採した木に与える影響以上に大きく影響を与えます。同様に人や機械による踏みつけの影響は踏みつけられた草木だけでなく、土壌環境にも大きく影響を与え、一時的な植生環境の変化を与えます。

B.植生環境の切断による影響
 動物は人を非常に恐れます。岐阜県で最初に捕獲されたカモシカは人への恐れによりショック死したと言われています。通称獣道と言われるいつも同じ道を通る動物の通り道は、非常に憶病な動物達の自衛手段です。ネズミや昆虫などの小動物はその道を開放された空間で切断されると行き来が出来なくなります。そこにいた個体が移動をすると移動先の個体群に密度圧がかかります。

C.人や工事に対する忌避行動
 鳥や動物が音に対してとる忌避行動は、渡り鳥も含めて繁殖期の営巣活動に与える影響が大きいことはよくしられています。人や工事が出す音だけでなく、人自体がいる行為だけが動物に与える影響は我々が考えている以上に大きく影響を与えます。たとえば、今年のギフチョウの調査において、調査期間中に行われた測量の調査により、本年度は全く産卵していないという結果が見られるなどの大きな影響がでています。