里山の指標となるギフチョウの生態調査
<名古屋女子大学公衆衛生学ゼミ>加藤 眸 *神原未季 桜井友香 八田耕吉
【目的】2005年に開催された愛知万博は、2002年には旧青少年公園の閉鎖、2003年造成、2004年会場建設工事、その後2005年に万博開催を経て、2006年現在、閉幕、復元工事に至っている。自然環境を現す指標昆虫の1つであるギフチョウをその変遷と比較して調べることにより、その生息地域の環境条件・環境破壊の進行度を見ることを目的とした。さらに、愛知万博による生態系への影響と自然の保全の必要性について検討した。
【方法】調査地域は愛知万博長久手会場と瀬戸会場とした。調査期間は成虫は4月の上旬から下旬まで、卵と幼虫は4月上旬から5月中旬まで行った。成虫調査は羽化して山頂部で飛翔する(ヒルトップ)ギフチョウを捕獲または目視し、捕獲した場合は翅にマーキングをおこなった後に放して、地図上に捕獲場所を記入した(標識捕獲法)。卵・幼虫の調査はギフチョウの食草であるカンアオイの葉の裏についている卵・幼虫の数を数え、同時に測量図上に株と葉数・産卵数(幼虫)を記録した。
【結果と考察】
1 成虫および卵の経年比較
長久手会場における成虫の飛翔は、2006年は4月13日〜27日に見られた。観察個体数は3匹と非常に少なかった。過去のデータと比較しても、2001年217匹、2002年85匹、2003年50匹であり、年々減少している。博覧会協会の調査では、2002年は2001年(23匹)の2倍、2003年は2001年の約3倍と年々増加傾向にあり、2006年には2001年の約4倍まで増加している。また産卵数は、私たちの調査では2001年416個(卵塊数67)、2002年2106個(同335)であり、公園閉鎖により一般の人の入り込みがなかったことと新たに産卵地が見つかったことにより大きく増加したと考えられるが、博覧会協会の調査では、会場全体で2002年は2001年(1500個)の約8割であり、2002年の公園閉鎖は人の出入りもなく、ギフチョウにとってはゆっくりと産卵を行うことができたにもかかわらず、2001年の閉園時よりも減少している。その後私たちの調査では、2003年は造成工事により1/3にまで減少、2004年は会場建設工事、2005年は万博開催中のため調査はできなかったが、2006年にはさらに1/10まで大きく減少していた。
2 カンアオイ株数の減少
ギフチョウの産卵は、幼虫の食草であるカンアオイの生育と関係していると考えられるため、株数の減少も検討した。2003年は万博の造成工事が始まり、私たちの調査地のうち、産卵数が多く確認されていた場所が3ヶ所なくなるなどで約1/3にまで減少した。2005年は産卵期間が万博開幕と重なり、多くの人の出入りと閉幕後の復元工事によりさらに減少したと考えられる。
3 1株あたりの葉の枚数
長久手会場の調査では、2002年における1株あたりの葉の枚数は4.3枚であったのが、2003年には会場の整備による下草刈りが行われたために、新たな群生地(平均8.2枚)が見つかり、平均枚数は5.5枚に増加した。瀬戸会場では、2001年では1株あたり4.6枚であったのが、2003年は4.0枚、2004年には平均2.1枚と減少している。2006年には、長久手会場も平均2.8枚と小さな株になっている。ギフチョウの餌となるカンアオイの減少は、今後のギフチョウの生息に大きな影響を及ぼす危険性があると考えられる。