2005年日本国際博覧会に係わる環境影響評価書(案)への意見

財団法人2005年日本国際博覧会協会
会長 豊田章一郎 様

2002年 4月25

1 提出者  (住所) 愛知県海部郡佐屋町西保字西浦771

        (氏名)  八田耕吉

 

2 意見及び理由

      2005年日本国際博覧会に係わる環境影響評価(案)」は、平成1110月に出された「2005年日本国際博覧会に係わる環境影響評価書、青少年公園等編」の調査地域、項目などの不備を補うために、平成1210月に「愛知青少年公園及びその周辺における環境調査結果について」、及び「2005年日本国際博覧会にかかわる環境影響について−検討状況報告書−」が出された経過後、大きく会場計画や輸送計画などが変更、環境への負荷が増大したにもかかわらず、「評価書の修正」で済まされる範囲ではない。

 

      2005年日本国際博覧会に係わる環境影響評価書、青少年公園等編」、及び「2005年日本国際博覧会にかかわる環境影響について−検討状況報告書−」では、「注目すべき生物種」として扱われている。「環境影響評価の進め方」には、「環境影響評価の項目」に「生態系」の項が抜けているのは、海上の森における扱いと違って、明らかに「生態系の存在を青少年公園は整備された公園なので必要ないという判断と思われる。環境影響評価における「生態系」を、「典型性」、「頂点」としての生物種の保全として誤解されているようだが、小学校の教科書を開いて「生態系」の定義を今一度勉強してもらいたい。「生態系」とは、「生物及び無機的環境により統合された生産者・消費者・分解者により物質の循環・交代をつかさどるエコ・システム」である。生態系を保全するということは、物質循環、食物連鎖で学んできたように群集及びその構成者の存続が保障されなければならない。「予測及び評価」には、個々の種に対して、「回避または低減する」との紋切り型に終始しており、「生態系の構造や機能にも影響を与えるものと予測されるが、その程度は不確実である」とされているのならば、調査をきちんと行って生態系における回避・低減の根拠を示すべきである。

 

      「予測及び評価手法、(2)動物、ア調査手法、注目すべき動物種」、「工事・存在・供用による影響」を「予測・評価」をしているが、「工事」では、「重機の稼動、切・盛土の土工、夜間照明」、「存在」は「土地の改変や工作物」、「供用」では「採取、騒音発生、夜間照明、農薬」と直接的な影響に絞られている。海上の森でも見られた、ボーリング調査との名目での工事や測量などによる人の入り込みなどによる影響が考えられる。例えば、工事期間には入ることが出来ない公園内でのギフチョウの採取や、供用期間中に採取・採集や踏み圧の影響を考えるよりも人の多さで逃げてしまうことの影響を予測すべきである。海上の森でのギフチョウの産卵への影響がアセス調査(測量、ボーリング)をする調査者による影響や、調査法(ベイトトラップ)による影響からも予測されるように、調査、関連事業を含んだ周辺の工事をも含めて影響予測を出すべきである。

 

      夜間営業による照明や騒音、花火やレーザー光線などが鳥や夜行性動物、昆虫などへの追い出し、回避などの影響が考えられる。21世紀新年のカウント・ダウンでの花火による白鳥の追い出しは有名である。たった一発でも、オオタカなどの野生動物にとっては、充分に追い出しの原因になるであろう。

 

      夜間照明の影響は、照明時間の延長が暗期時間の短縮などによる発芽抑制、花芽形成、成長阻害など植物に影響を与えるだけでなく、夜行性動物だけでなく、動物全般の追い出しと、ガ類などの害虫や病気の発生などにも影響が出てくることをも視野に入れなければならない。同時に、肥料や農薬の散布が生態系の底辺を支える小さな生物達に与える影響は、自然のバランスを崩すだけでなく、生態系を支える生物層が貧弱になり、害虫などの薬剤抵抗性のある菌など、特定な種の大発生が予測される。

 

      直接的な池の改変による水質、土砂の流入などの影響を抑えても、環境の変化、水位及び移植、移入、特にコイなどの放流を含め、多(他)自然型、近(金)自然工法などを取り入れること自体が変化を与えることを考慮に入れなければならない。現在ある生態系に手を加えれば、たとえ良い環境を作り出しても、現在ある生態系のバランスを損なうことになる。

 

      「環境要素−環境要因マトリクス」の注に、「河川等の取水」、…「排水の発生」、…「エネルギーの使用−石油系の燃料の使用」については除外した」としているが、「2005年日本国際博覧会基本計画」には、循環型社会、ゼロエミッションが書かれている。下水については長久手町へ持ち出し。ゴミについては、廃棄物として「発生抑制、分別の徹底、再資源化」と言っているが、飲食等で出るゴミを含めて、会場内での処理なく、市町村への持込を考えているようでは、ゼロエミッションのモデルとしてなりえない。もちろんエネルギーやCO2の排出量の負荷を森林などの炭酸同化作用だけではまかなえないだろう。1500万人が1時間20リットルのCO2を排出すると、2030リットル×12時間×1500万人=36億〜54億リットルになるが、森林の吸収率を計算しなくても、おそらく会場のCO2濃度は名古屋市の350400ppvをはるかに上回ることは充分予測される。

 

二酸化窒素、浮遊粒子状物質、二酸化硫黄、騒音、振動などで、影響の予測を環境基準値以下として、「環境への影響は低減が図られるものと判断」とされると環境基準値以下であれば、工事、供用時の環境悪化は許容範囲内と考えているようである。人体等に影響を及ぼすのは平均したものでなく、長時間被爆されたのが蓄積されてくる結果として現れるものである。さらに、浮遊粒子状物質や騒音の一部では環境基準を上回ったときには、「計画の熟度に応じて影響の更なる低減に努めるとともに、必要に応じて適切な措置が講じられるよう」など、他人事のような保全措置が書かれている。環境影響の回避・低減は、工事中には、「排出対策型工事機械、工事車輌の最新排ガス規制車の活用促進」、供用時の「アクセス交通は鉄道系に積極的に誘導、シャトルバスは低公害車」と書かれているが、予測の根拠となる数値が示されていない。環境への負荷は平均的な数値や80%の値でなく最大値でとるべきである。

 騒音における工事用車輌の「走行速度は制限速度の50km/h」とされているが、現在の渋滞状況をまったく考えにいれない予測は、まったく現実的でない。この車速で換算されたバックグランド濃度でなく、排気の多い交差点を中心に実際の値を導入すべきである。日進市や長久手町の市民がおこなった二酸化窒素の値が高かったダンプ街道の値(.6から0.ppm)から想像しても、大幅に増えると考えられる。現在、周辺でおこなわれている関連事業、東部丘陵線の拡幅工事に伴うダンプカーが排出している排気ガス、騒音を目のあたりに見ると、そこに住んでいる住民の許容限度をはるかに超し、精神的肉体的な苦痛をまったく無視している。住民に対する思いやりや心が欠落した愛知県および名古屋市の環境行政への取り組み方が問われるだけでなく、環境万博を謳うことすらはばかれる状態である。当然のことながら、これらの関連事業の環境影響は、相乗的に働くと思われる。あわせて、総合的なアセスの再評価が必要となることは明らかである。海上間アクセス、関連事業を含めたアセスの再実施を求める。

 

      「予測及び評価手法」でも、相変わらずの「実行可能な範囲内で回避・低減」と、「影響が不確実であると判断された場合には、追跡調査」と「工事による影響」の項目だけでなく、「存在による影響」、「供用による影響」でも述べられているが、工事を進めながらやる追跡調査の結果が出たときには手遅れであったときに、果たして追跡調査を行った結果をどのような形で反映できるのでしょうか。今度日本で新たに万博が計画された時にでも使うと言うのでしょうか。

 「モニタリング調査計画に従って追跡調査を実施する」として、本評価書での評価をあえてさけているとしか思えない。「予測の不確実性」が生じた時には、事業を中断して調査をするか、より危険性の低い方法を講じるなどの検討が必要であろう。

 

      第3編、第1章、第3節「更なる環境負荷低減のための環境保全措置と妥当性検証」が挙げられているが、当然のことながら環境への負荷・低減の可能性のある手法があるならば、最大限保全措置を生かしていくべきである。本アセスメントは、この「更なる環境負荷低減のための環境保全措置」を前提とし、更に環境への影響を回避することを目指すべきである。

 

      第3編、第2章、第1節「基本計画に対する総合評価」の表2−1−1「時系列的評価のための比較マトリクス」は、評価の基準がはっきりしないために、評価の判定「+」、「−」の意味が理解できない。あえて「+」に評価判定を持ち込むためのごまかしとしか思えない。もし比較するのであれば「0案」のような基点を設け、「第I案」、「第II案」は「−何点」、「+何点」として、「基本計画」はその両者に対して何点加えるのかを示すと比較結果が容易に判断できる。そうしなければ、会場面積、場所、アクセス道路などまったく違う3案を比較する時に、個々の環境影響の大きさが個々の条件においては比較できるが、それぞれの「+」、「−」の大きさの違いが数量化されていないために足し算することが出来ない。

 

以下、「生物の多様性の確保及び自然的環境の体系的保全」の項目に対して、昆虫を中心に問題点を指摘する。

 

      ハッチョウトンボ

海上の森のハッチョウトンボの生息確認地の2、4、5地点が本来の生息、発生地と思われる。私達の調査では、4番の南側にも小数ながら見られる。さらに、2番の北側の休耕田(廃田)にも、1999年に多数目撃されているが、その後草が生い茂ったために見られなくなった。同様に、青少年公園においても、現在ささ池上部の湿地が安定した生息、発生地と思われるが、かきつばた池など条件が整えば定着することが考えられる。今後、工事が進められれば、一時的にも生息に適した環境が突然出来る可能性が考えられるが、安定した環境が確保されない限り集団殺戮になる危険性が考えられる。湿地の遷移段階の多様な段階を持った多くの湿地が、ハッチョウトンボの移動距離内にいくつかあることが種を維持できる条件である。ささ池の湿地だけが守られれば良いというものでなく、また直接改変域でないから良いということでもない。「想定集水域内の改変面積は…25%程度と予測された」とされ、「特に湿地を涵養する地下水文環境が変化する可能性は否定出来ない」としているにもかかわらず、「その程度は不確実である」とし、モニタリング調査と称する追跡調査でごまかそうとしている。

現在、ささ池の湿地面積の減少は湧水量の減少か、上部の木の生い茂りによる日陰部分の増大か、落葉の堆積による富栄養化によるためなのかを明らかにしておかないと、湿地の乾燥化と草の繁茂などによる生息適地の減少が危惧される。この様な微小な生態系の動態を解明し、保全のモデルを作るほうが真の環境博にふさわしいのでは。想定集水面積が25%もの減少が予測される時に、影響の程度が不確実であるならばなおさらきちんと調査をしておかなければ、追跡調査結果が出たときには手遅れであるなど、湿地の回復が望めない危険性が予測される。

 

      ギフチョウ

成虫及び卵調査の時期が相変わらず不適切である。予算を決めて調査しているから日程調整をギフチョウの発生にあわせて考えるという視点が欠けている。年によって気温とかにより大きく左右されることは常識であるが、例えば、我々の青少年公園における平成13年の調査では、4月の10日頃から17日までが発生のピークであった。評価書に記載されている日程では青少年公園の調査結果だけでは十分な発生量の把握が出来ない。今までの我々の経験によると、海上の森でのギフチョウの発生は青少年公園やその周辺地域よりも約1週間送れてでている。もしそれほど遅れていないと考えても、この調査日程が発生時期を的確につかんでやられた調査結果とはいえない。卵の調査日程も両調査場所ともに4月23日から25日と同様であるが、海上の森の発生が遅いと、すべてが産卵したかは疑問が残る。

海上の森におけるギフチョウの評価が抜けている。「直接改変域」には少ないながらもスズカカンアオイ、ギフチョウの飛翔、産卵が確認されている。さらに、私達の観察においても、1999年までは吉田川沿いにはギフチョウの飛翔、産卵は少なかったが、2000年、2001年は赤池の上流で多くが観察されている。このことは、1998年、1999年のボーリング、測量などの調査による追い出しと、それに伴う立ち木、下草の除去などにより林内の見通しがよくなったためにギフチョウの侵入が見られたためと思われる。南地区と西地区の境界の谷沿いには、スズカカンアオイが自生しているが、今後この周辺の開発が進むとギフチョウが産卵にくると考えられる。このことは、ギフチョウが里山の整備(下草狩りなどの手入れなど)と関わっている所以でもあろう。ハッチョウトンボと同様、里山を代表とする指標種は、生息地の悪化を移動することにより生息を維持してきた。この連続性を断ち切ることは、ギフチョウの生息をも危機に陥れることになる。

青少年公園では、海上の森を遥かにしのぐ高密度の生息域であり、広範囲にわたっている。特にキャンプ場から南側の森林体感ゾーンにかけて、成虫の飛翔域であるキワニスの森と、産卵場所である会場予定地南部の道路周辺は東海地方では類を見ないほどの高密度である。公園といった管理された利点と保護のしやすさから考えれば、まさにギフチョウの楽園とでも言えよう。今年の天候の不順(発生前期の高温と中・後期の低温)が心配されるが、森林体感ゾーン内の改変によってスズカカンアオイが踏み荒らしや追い出しがされないことを前提とすれば、工事期間(2005年まで)の間に産卵地域及び産卵数を記録すればギフチョウの保護・保全に大きく貢献できるデータが蓄積されるであろう。公園内でのギフチョウなど、特定種の保全はホタルの保全(放流)事業と同じで、生態系保護とはならない。

 

      ゲンジボタル

「評価書(案)」には、「典型性の観点」、ゲンジボタルの生息に必要な水環境」として、数行書かれているに過ぎず、「直接改変による影響は回避または低減」、「予測の不確実性も考慮し、地元住民等が実施するモニタリング調査に協力」と旧アセス以前の評価書にまで後退している。

地元住民等が実施すると書かれているのは、「山口ホタル研究会(瀬戸市)」のことと思われるが、「山口ホタル研究会名簿」を見る限り地元住民とはほど遠い「地域街づくり協議会副会長」や「町内会長」が連なっており、通常の市民感覚とは違った「住民の意見を聞いて進めております」と言ったお役所感覚である。オブザーバーにいたっては、万博関連の事業者(万博協会、東部丘陵)、自治体(県推進局、建設部、瀬戸市)の課長補佐クラス仮名を連ね、唯一アドバイザーに大学研究者が一人いるだけである。吉田川のホタルを愛し、保護活動をと願っている市民は、地元に限らず多くいると思われる。広く呼びかけてはどうだろうか。

「評価書(案)に書かれている調査結果は、「吉田川ゲンジボタル保護について」と同一と思われる。「吉田川ゲンジボタル保護について」の中に「開発計画に係わる問題点と保護の方針」、「保護対策」が書かれているので、この内容で言及する。

「開発事業の内容及び影響」には、「吉田川本川下流部及び水路部の大部分が影響を被るものと予測される。特に水路部への影響については、ホタル生息水路の多くが消滅し、残される水路は2箇所となる」とか書かれており、アドバイザーの研究者も幾度か同様な発言をされている。「影響軽減緩和策」には、「スケジュールにゆとりがないこと、…工事を調整しながら自然遷移による回復を待つことは期待薄であること、の2つの理由から、…影響軽減を図ることは困難であると判断された」とされている。

平成10年の調査では、本川の発生より、並行して走る水路で多く見られたが、11年に水路沿いの草が刈られたために下流へ移動している。さらに13年ではさらに下流と上流の狭い水路に移動が見られるなど生息環境の変化と生息域が追い詰められていることが推察される。「復元策」では、「ホタル避難場所」、「タネの保全、室内での避難飼育」などの従来型の保全が述べられており、種としてのゲンジボタルの保護策である。生息環境全体の保全と、河川の生態系、地域特有な河川環境についての保全の視点が欠けている。

 

l          ホトケドジョウ

「ホトケドジョウが確認されている区間は、…生息水域に対する直接改変は回避されている」とされているが、改変域から流れ出る土砂等の影響は砂防ダムによる影響をも含めてきちんと評価しなければならない。今後、モニタリング調査は当然であるが、更なる保全措置の検討をおこなうべきである。

 青少年公園の「注目すべき魚類」に書かれているホトケドジョウ、カワバタモロコは、「直接改変は…回避されている。ただし、…生息環境変化が生じる可能性は否定出来ない。」とされているにもかかわらず、「モニタリング調査計画に従って追跡調査を実施する」として本評価書での評価をあえてさけている。工事を進めながらやる追跡調査の結果が出たときには、手遅れであったときはどうするのでしょうか。「予測の不確実性」が生じた時には、事業を中断して調査をするか、より危険性の低い方法を講じるなどの検討が必要である。

 

l          オオタカ、フクロウ、ハチクマ

「営巣木及び営巣中心域内は、いずれも直接改変域からは1km以上はなれていることから、営巣木および営巣中心域内の直接改変等は回避されている」と書かれているが、オオタカの滑空にとって1kmがどれぐらいか、かなり器用に飛ばないとはみ出しそうである。

「国際博会場関連オオタカ調査検討会から示された配慮事項に従う」とされているが、オオタカ、猛禽類の専門家は2名しかおらず、地元の委員には鳥類の専門家どころか、動物の専門家すらいない。現在、非公開でおこなっている委員会がほとんどなくなっているにもかかわらず、貴重種・生息地保護などの理由にこだわっているが、そのような場合には一部非公開の手段をとっている会議もあるので参考にすべきである。当検討会は、非公開だけでなく、質問書や意見書への回答を拒んでいる非民主的な委員会である。公開することにより、中での議論が円滑になるという前例も多いので、時代に即した運営を取り入れなければ、いつまでも時代遅れな愛知県のイメージは払拭できないであろう。先進的なアセスをおこなうためにも、貴協会による市民や真の専門家を取り入れた委員会の設立と運営を希望する。

「オオタカ・フクロウ生息圏における主要餌生物群の現存量とその量的関係」として現存量の算定を行なっているが、根拠があいまいなことは抜きにしても、「オオタカに関連した主要餌生物群の階層別現存量」で、「中型鳥類に植物食や雑食の種が多く含まれる(評価書では、削除されている)」ことを考慮しても、陸生昆虫(210g/ha)と中型鳥類(220g/ha)との現存量がほぼ同じであることは考えにくい。さらに、陸生昆虫は中型鳥類にのみ食べられるとは限らない。むしろ、高次の動物の餌量は、個々の摂食量により算出したほうが正確であろう。なお、行動圏内での物質やエネルギーの収支を見るのには、植物などの生産量が大きく効いてくると考えられる。陸生昆虫類の現存量は、「陸生昆虫類の環境類型別重量測定結果(調査面積5*5m)」をもとに算出(評価書に記載した方法)したとされているが、特に陸生昆虫の採集に当たってはコドラートの設定場所や回数、採集者の熟練度などで大きく左右される。通常、階層別現存量において、食物連鎖の上位は一桁づつ摂食によりエネルギーが減少するという10%の法則が言われている。必ずしもそうであるとは限らないとしても、少なくとも上位者が下位のものを食べて、消化・吸収するならば、10%程度のエネルギー量を越えるとは考えられない。むしろ種子・果実の現存量が120kg/haであったのが、陸生昆虫の現存量210g/haになるとされる3桁の減少のほうが現実的である。なぜなら、我々が食べる量を考えて、体重の増減を創造しても明らかである。

「主要生物の補食・被食関係模式」では、栄養段階やグルーピング、食物連鎖の主要経路が明らかに間違っており、これらをもとに行なった「現存量の算定」の根拠にはならない。誤りの原因の一つは、あえて陸域・河川域・池沼域と分けることにより主要経路で結ばれる生物群とが一致しなくなっていることであろう。2番目に草食・雑食・小型肉食・大型肉食に生物群をくくることにより、異質なものが混ざってしまうことと考えられる。そのために、階層だけでなく食物連鎖の経路に矛盾、間違いが起こっている。最低限、常識的な範囲の食物連鎖や栄養段階を理解している専門家の意見を取り入れて、そして批判に耐えうる再評価を行なうべきである。