「環境影響評価実施計画書の問題点」(1998.5.23)
現状調査
1. 相変わらずのリストだけである。
既存の調査結果に基づいたファウナリストが上げられているが、関連事業の調査結果のみである。万博海上予定地の資料は県商工部万博誘致対策局が出した「瀬戸市南東部…」、「…生物の多様性に関する調査」などがあるにもかかわらず、あえて市民団体の報告書が挙げられている。影響の面から見ても地域を広く拡げ、期間も長くとるのはいいことであるけれど、現在既に調査(ボーリング)や周辺工事などの影響が出ていると思われることからも、ただ単にリストを挙げるだけでなく時間や地域といった面からも分析の必要がある。(東海環状自動車道環境影響評価参考資料には平成元年4月から調査)
2. 生データを含めた、既存資料の分析
過去に自然保護協会を含め多くの団体から指摘されている調査データの公開を含め、追加、補充および分析調査も含めておこなう必要がある。
3. 調査地域の拡大
目的に応じた手法で行うことにより、専門家を含んだ精度の高い調査が期待される。ただ調査回数を増やし、種類数を競うだけであれば、ファウナリストの作成は本来市民団体などが行う地道な調査で多くはカバーできる。既存調査結果にある3つの資料にある昆虫類の確認種数は時期、期間、地域が違っているがほぼ同数である。事業が与える環境への影響を評価するためにも、調査地域を拡げて行ったほうがよい。
ゾーニングに見られる自然評価価値のずれ
1. ゾーニングの根拠が開発優先である
自然保護協会の報告書にも「植生とゾーニングの仕方の関係がおかしい」と書かれているとおり、水系や地形、植生などを考慮に入れたゾーン引きとは思えない(水系・地形・植生図と重ね合わせてみると歴然)。シデコブシなどの分布
2. Aゾーンの評価が低く評価されている
里山への評価が無意識のうちに調査地点の設定などにあらわれており、「Bゾーンにおける保全活用のあり方についての検討結果」では図の作成においても意識的に抜かれている。
「Bゾーンに見られる保全活用のあり方についての検討結果」に見られる、「森林と人との博物園構想」に於いても「国際博の主会場等となるAゾーン」という前提で考えられている。例えば、「図II.2−2保全特性によるユニット区分」、「図II.2−3環境資源の分布状況」、「図II.3−3現存植生図」など(以下の図も同じ)ではA、Bゾーンで区切られる生態的な境界がないことをごまかすためにAゾーンを意識して色塗りしていない。
保全に対する考え方保全の問題点
1. 保全を植栽や移植による都市公園やビオトープなどの疑似自然と勘違いしている
里山の形成を人の手を入れることと勘違いしており、時間のスケールや人口、労作力、エネルギー量など違いを理解していない。
2. 保全活用など利用が前提となっている
地域や開発の利便性からゾーン分けなどが行われ、あとで代償処置としてエコ・コミュニティや森林(もり)と人の博物館(仮称)構想がつけ加えられたと思われる。
3. 保全地域の面積が小さい
生態系の保存はその特殊な植生や貴重種の保存ではなく、いくつもの遷移の過程をもったモザイク状に入り組んだ植生環境の駆け引きによるいくつもの小環境の集まりである。Bゾーン、Cゾーンを分断するAゾーンの設定自体が保全区域に指定されるBゾーンの存続さえも危うくさせている。海上の森のように平地に岬状にせり出し、周りが開発の波が押し寄せている孤立した地形では、そこにいる生物たちは急激な変化が起こったときに逃げ場を失う危険性が高い。そのためにもできるだけ広い地域が必要とされる。現在の海上の森を含んだ猿投山に連なる地域全体に広げて保全する必要がある。
ギフチョウを始めヒメタイコウチ、ハッチョウトンボ、ゲンジボタルなどの里山に昔は普通に見られた昆虫やサワガニ、ドジョウなどがほとんど見られなくなったのも現在の開発の進行が生物種の個体群を維持するのにはあまりにも小さかったためであろう。
海上の森に見られるギフチョウは岐阜県(北)から分布を広げてきたと考えられているが、周囲に食草のスズカカンアオイ(三重県から)が広く分布しているにもかかわらずギフチョウが分布していない地域が広く見られる(末端現象)。このような分布の先端地域では生息地が点在し、分断されるために、それぞれの個体群を維持するためにも大きい範囲の保全を必要とされる。