意見書

平11年4月5日

(財)2005年日本国際博覧会協会 および

愛知県知事 神田真秋様

1 提出者 (住所) 愛知県(以下略します 上杉)

      (氏名) 八田耕吉

2 準備書の名称 「2005年日本国際博覧会に係わる環境影響評価準備書」

         「新住宅市街地開発事業環境影響評価準備書」

         「名古屋瀬戸道路環境影響評価準備書」

3 意見及びその理由

第2章「事業の目的及び内容」

p.7「先行して整備される新住宅市街地開発事業の一部区域及び既存の造成地(上之山町地内)の適切な利用を前提として」

 造成後とわずかな西地区のアセスに限定し、地域整備事業に区域を分散することにより「万博事業への影響の低減と回避」をおこなっている。

「連携」が「準備書の時期を合わせる、全体として統一された資料を作成する」のであれば、この3事業を総合アセスと位置づけ、一つのまとまった準備書を作るべきである。この3つの準備書は、読む側にとって整合性を読み取るのが非常に困難にされているだけでなく、万博の開催のためにおこなわれる地域開発事業の影響を分散することに使われているだけである。3つの準備書に書かれている中で、それぞれの事業の内容が鮮明にされないだけでなく(そのためにやっていると勘ぐられるが)、学生のレポートのページ稼ぎのように同じことが図・表を含めて多すぎる(紙代の節約も含んで)。

p.7「閉鎖時間帯を設けず24時間連続して開催する期間を設ける」

 24時間型の現代社会をつくり出してきた反省が、「基本理念」に書かれている「技術がリードする文明に、…つつましさと謙虚さ」であるとしたら、「もう一度失われた叡智を注ぎ込み」をすることこそ傲慢と言わざるをえない。「基本理念」を「自然の叡智」に対する「「人間の叡智や傲慢」の新たなる挑戦と」されてはどうか。

p.8「来場手段及び場外駐車場の位置等アクセス交通の計画については、現在検討が進められている公共交通機関や道路整備計画、ITS(高度道路交通システム)等最新の交通システムの具体化に合わせて検討する必要がある」

 万博開催の計画では当然最初に検討する課題であって、「想定入場者数約2,500万人、計画基準日における入場者数275,000人」の輸送計画を今ごろ検討するような計画は不完全なものとして受理されない。

p.11「施設配置計画案の検討結果において、環境への負荷低減の観点から第1案を選択する」

p.18「第1案の分散配置に比べ、…第2案の方が約3%増加する。」、「環境への負荷低減及びエネルギーの効率的利用の観点から第1案を選択する」

アセスメントにおいて2案を検討する場合に、負荷量の少ない案を検討するならば、負荷量の大きい案になったときには再度アセスのやり直しになる。当然、負荷量の大きい案に対して低減、回避処置を考えておかなければならない。「複数案」の検討は同時に行い、相対的な評価をすることであり、段階的に行うことではない。

p.16「森の中を様々な来場者が無理なく回避するために、…通路(水平回廊)及び現道の活用により歩道のネットワークを形成する。また、要所に休憩や展示のための溜まり空間を設ける。」

これが「回避」の原形か。イベント空間からあふれた人たちのたまり場を分散しようと考えているようであるが、多くのイベント嗜好型の人間が歩行者空間へ行くとは考えられない。現在「海上の森」に来ている人たちとは違った人種が来るのであり、このような案をたてた「自然」をテレビで映し出される世界を茶の間で見ることを「自然の叡智」と考えている人たちがつくる「水平回廊」と称するショーウインドーを見て歩くことになるでしょう。

「万博を記念する公園検討調査報告書(「12の森の構想」の原形が書かれている)」にエコミュージアムとして「自然探勝路利用密度:2m間隔に1人、or0.03人/m2」とされているが、まさしく地下街の雑踏である。

 

第3章、第2節、II「生物的環境の状況」

p.101「ファウナ(動物相)の概要」に「および学識経験者等の意見に照らして抽出される注目すべき動物種として」

「注目すべき動物種リスト」に環境庁が新たにレッドデータブックに追加したホトケドジョウ、メダカが抜けている。追加して調査を行うべきである。

「注目すべき理由(抽出根拠)」に「第2回自然環境保全基礎調査(環境庁1981)」が使われているが、「レッドデータブック」の様に出来るだけ新しい資料・観点で行われるべきである。最近メダカやホトケドジョウなどが追加されたように、里山に代表される生物の減少が目立ってきており、ただ単に過去の資料を引用するのではなく、「学識経験者等の意見に照らして抽出」したにしては最近の現状をあまりにもしらないようである。トンボでネキトンボやルリボシヤンマが挙がっているが、むしろオオルリボシヤンマ、オオカワトンボやキイロサナエなどこの地域の特性を考慮に入れた選定を行うべきである。

他にホンサナエ、ダビドサナエ、オジロサナエ、ミルンヤンマ、コシボソヤンマ、サラサヤンマ、ハネビロエゾトンボなど、近年失われてほとんど都市近郊で見られなくなった低山帯の渓流や林間湿地などの良好な止水域に見られるトンボ類やオオムラサキ(確実にいる)、ルリタテハ、テングチョウなどの蝶類など環境指標性の高い種においても精密な調査が必要である。

 

第2編、第1章「調査結果の概要並びに予測及び評価の結果」

[生物多様性の確保及び自然環境の体系的保全]、第16節「動物」

p.587 「ファウナリストの集計」、「昆虫類・・2301種*」、「*:学名不明34種含む」

 「種の同定にいたっていない記載種については割愛」と書かれているが、既存の調査で使われた「環境への配慮」には、トビムシの8種のうち7種は「・・の1種」である。種名が特定しにくい分類群には生態系の底辺を占める種が多くあり、その多様性が上位種の生存にかかわっている。種の多様性を見るためには、それらの種の多さが重要になってくる。

 属あるいは科で同定が止まっている種を省いているにもかかわらず、和名だけで学名が記載されていないものが含まれている。既存資料として市民グループが行った調査の報告書をそのまま引用しておりながら、県商工部万博誘致対策局の調査報告書が使われていない。市民グループが行った調査の方が信頼性が高いとの評価でしょうか。さらに学名不明の中に既存の調査として県が行った調査が含まれている。学名より和名の方が重要と考えているのでしょうか。市民グループが出した報告書と目的や対象が違うので、当然正確を記すためにもコンサル業者から学名の提示がなされるべきである。ホソバトビケラの学名が不明になっているが、ホソバトビケラの学名がカスリホソバトビケラの所に入っている。学名の重要性に対する認識がない。

p.590「上記リスト内の記載種以外にも、オオルリボシヤンマ、ウスズミカレハ、オオムラサキ等の…、確認地の情報がないので表中に記載しない」

 前述の県万博誘致対策局が行った報告書にはオオルリボシヤンマが挙げられているにもかかわらず、採用しなかったことはこの報告書を敢て使いたくないとしか思えない。縦割り行政だけでは理解し難く、市民グループの調査の方が他の部局より使いやすいことがあるのだろうか。他にも農地林務部が出した検討委員や専門家による調査が行われており、氏名も明らかにされている報告書がある。

 オオムラサキなどの3種が「各認知の情報がないので表中に記載していない」とされているが、「既存調査(市民グループの調査報告書)」には、286種以上の県の調査において確認されていない種がいる。これらの種をそのまま「昆虫類確認種リスト」に挙げているが、チエックはしたのか、したならいかなる方法で区別したのか。

p.641「ハッチョウトンボ」

「主要施設地区による影響」にある「No.12地点の消失…は大きな影響を与えないと予測される」と書かれているが、ハッチョウトンボの本来の生息地は林間の開けた向陽湿地でなく(夏季には全く目撃されない)、No.12のような「土取り跡地等のは裸地の崖際に成立した湿性草地(地点3〜4及び9〜12)」と考えられる。このようながれ場を不毛の地ととらえるのでなく、東海丘陵要素の特徴ある生物相を育んできた湿地を形成してきた非常に重要な地域と認識すべきである。

これらの水源となる尾根筋の開発は大きく湿地の成因に大きく影響を与えることになる。

p.644「ゲンジボタル」

「ゲンジボタルの生息河川に対する主要施設地区(本事業で改変)による直接改変は行われないことから、影響は回避できるものと判断した」と、万博のための「地域整備事業」で土地の造成に対する責任がないかのように書かれている。

「道路の横断(橋梁)による影響」を「回避・低減させるために、以下に示す保全措置を講ずる」として「できる限り保全する」とあいまいなことが書かれている。ゲンジボタルの行動圏や生活史を考慮した具体的な保全措置が挙げられなければ、ただ単に他の河川でやられている放流事業を行うだけに終わる。

「河川区間内への直接改変による影響」で、細かく各河川の改変個所が書かれているが、川は上流から下流まで一体化したものであるという認識がまったくない。そこの部分だけ代償処置を講じても、上・下流部への影響を免れることは出来ない。いかに、「実行可能な範囲内での低減と、代償を」はかっても、吉田川だけでなくすべての河川でゲンジボタルは見られなくなるであろう。具体的な「実行可能な回避・低減と代償処置」を示すべきである。ゲンジボタルの移植の多くの失敗例を是非集めて、研究されると如何にばかげたことを言っているか分かるでしょう。藤前干潟の人工干潟で言われたように(環境庁だけでなく、多くの人の笑いものになったように)、今ある自然を壊して造り物で換える思想はもういい加減にしてほしい。

p.647「ギフチョウ」

 「調査をした平成10年は当該地域でのギフチョウの発生が極めて少なく」と、ギフチョウの発生数の少ないのを一過性と判断されているようであるが、最近の人の入り込み、特に測量等により毎日林内に入ることは、ハイカーが道を歩くのとは大きな違いがある。この人為的な影響はギフチョウの忌避行動につながったと考えられる。

「成虫の調査日」が3月30,31日、4月2〜8日、14〜17日となっている。この年の発生のピークは私たちの調査では12日頃であった。初見日は3月下旬から4月上旬頃と思われる。この調査日では前半は少なく、後半では15日頃には翅の痛んだ個体が多かった。ギフチョウはこの時期には、産卵行動にはいるために調査地域の選定が大きく左右される。この頃になると時間帯により活動する場所が変わってくる。調査地点は川沿いが多いが、ギフチョウは午後2時頃までは山頂専有性が知られており、その後雌が産卵のために落葉樹林に入り込む。詳しい調査方法等がわからないが、トランセクト調査などの詳細な調査をやられたとは思えない調査結果である。

「卵・幼虫」の調査は5月11〜15日とされているが、この地域ではこの年は4月20日頃から産卵が始まっていると考えられる。5月の中旬では多くが2齢か3齢の幼虫になっており、幼虫も分散が始まる不適当な時期である。多くの愛好家?が採集に来ており、かなり荒らされた後である。万博が来ることにより、この地域のギフチョウの値が上がったためでもある。保全をするには、このような採集圧を取り除く必要がある。すなわち、海上の森で万博をやらなければ、誰も採りに来ないでしょう。

「吸蜜植物」にサクラとツツジが挙げられているが、この地でのサクラの吸蜜はこの地域のギフチョウの研究家でさえ、2例しか目撃していない。むしろスミレ類やハルリンドウへの飛来例が多くしられている。これらの植物の分布調査など、保全策が必要になるだろう。

「この地域のギフチョウの特異性」については岩波の「科学」に触れた通り。

 

第17節「生態系」

p.757「オオタカ、フクロウ生息圏における主要餌生物群の現存量とその量的関係」など

オオタカや餌生物の現存量が書かれているが、餌摂取量や生産量が示されていない。「予測及び評価結果」には、突然「2つがいのオオタカの営巣中心域に直接改変がおよばない」と、今まで見てきた餌量の関係が何も使われていない。食物連鎖の底辺となる生物の量や、オオタカの狩猟範囲が何も考慮されないまま「階層構造の変化は比較的小さい」、「実行可能な範囲で低減できる」と決めつけられるものではない。意識的にとしか思えない行動権の範囲が示されているが、少なくともこの地域一帯を利用していることは十分に想像できる。

フクロウにおいても「3つがいのフクロウの生息が推定…フクロウを頂点とする食物連鎖系の1/3で上位種の欠落が生じる」とされている。1/3の餌生物の減少は、1つがいの生息を危うくするだけでなく、3つがいの絶滅におよぶ。「相乗影響により、いずれかのユニットのつがいが消失」という予測は、生物にとって1日でも餌がなくなると死を意味するということの理解がない。フクロウがいかに飢えに強くても、底辺の生物は非常に弱く、乾燥や餌不足は上位種にも大きく影響を与えている。人間は少ない食べ物を分かち合い、少しづつ食べながら生き長らえることができるが、動物は今あるものは食べつくしてまでも、明日のために餌を残すことはできない。

このような生態系の基本さえ知らないで行う「保全措置」は、自ら言う「不確実性の高い「代償処置」で補うものではない。

 

資料編p.163「昆虫類確認種リスト」

コフキイトトンボ、コバネアオイトトンボが載っているが、コバネアオイトトンボは1970年代後半以降の愛知県での記録がなく、「環境庁の新RDBには、NT(準絶滅危惧種)にランク付けを予定」されている種である。この2種が本当に記録されているとすれば、保全策の検討が必要になる。ミスだとすれば調査者、同定者、学識経験者のレベルを疑う。

「甲殻類確認種リスト」にサワガニ、ザリガニなどが「H10年の調査」にしかのっていない。「環境への配慮(新住)」の「底生動物調査結果」にはサワガニだけがある。意識的にAゾーンだけ省いた調査地点であるが、他の3種も充分見られる。市民グループが行った調査報告書には全分類群が入っていなかってもいいが、「生態系」にまで配慮したアセスメントを行うならば、充分「実行可能な範囲」の調査項目であろう。プラナリアが多く見られるが、どこにも記載されていない。

サワガニがこの地域の河川において、多く見られるのは特筆すべきことで、このような小河川の保全をしていく上においても、きちんと河川生態群集として押さえておく必要がある。

 

 以上、意見について、まとめて一覧表的な回答でなく、個人宛てに回答していただくようお願いします。