「環境への配慮」の問題点
八田耕吉
現地調査と既存資料の取り扱い
1993年から行っているが、96年4月までの間がなぜか欠落している.
今回の既存資料の中には、愛知県商工部万博誘致対策局から出されていた「瀬戸市南東部地区環境調査(自然環境)報告書[改訂]」(平成7年6月)、および「瀬戸市南東部地区に生息する生物の多様性に関する調査」(平成8年8月)が使われていない.
この資料以外に県農政緑地課が行った「瀬戸市南東部地域自然環境保全調査(水辺・湿地調査)」、「同(雑木林)」、名古屋瀬戸道路関係で行った「道路改築工事の内環境調査業務委託名古屋瀬戸道路(その1)−国指定天然記念物(魚類)生息調査報告書」、「同(その2);環境への配慮(予測・評価編)の元資料?」,「同(その3);環境への配慮(現状調査編、参考資料)の元資料?」,「同(その4);副題なし(イタセンパラ)」、「万博を記念する公園検討調査報告書」など情報公開をおこなって初めて出てきたものを始め、「博物館構想」,「東海環状自動車道」などの既往の調査を部局の壁を取り払い、広く市民に公開し、「環境への配慮」の調査との整合性を明らかにすることが必要です。
前述の県万博誘致対策局が行った報告書にはオオルリボシヤンマが挙げられているにもかかわらず、採用しなかったことはこの報告書を敢て使いたくない、としか思えない。準備書では、「上記リスト内の記載種以外にも、オオルリボシヤンマ、ウスズミカレハ、オオムラサキ等の…、確認地の情報がないので表中に記載しない」と書かれている。
縦割り行政だけでは理解し難く、市民グループの調査の方が他の部局より使いやすいことがあるのだろうか。他にも農地林務部が出した検討委員や専門家による調査が行われており、氏名も明らかにされている報告書がある。
オオムラサキなどの3種が「確認地の情報がないので表中に記載していない」とされているが、「既存調査(市民グループの調査報告書)」には、286種以上の県の調査において確認されていない種がいる。これらの種をそのまま「昆虫類確認種リスト」に挙げているが、チエックはしたのか、したならいかなる方法で区別したのか。
「準備書面三」の26ページに「原告らは、…標本は採集すべきでなく、」といっているが、スミレサイシンの情報提供と採取、オオムラサキなどの標本を市民グループに提出させた経過から出されたことである。
詳細な調査データの公開を
すべての調査報告書にはルッキング調査がどの程度含まれているのかなど調査方法の違いによる各調査の採集データの記載がない。「環境への配慮」では調査日時が書かれるようになったが、鳥類や底生動物の調査のようにそれぞれの調査日の目録リストがないために、調査の信頼性に対する検討をも妨げている。リストだけでなく、1991年から1993年にかけて行われた調査も含めて、明らかにされていない調査の方法や日程などを含む詳細な内容の公表が望まれる。
私は2つの「環境への配慮」の生データ(元資料)の情報公開をかけたが、新住ではコンサル会社の報告書にも全く生のデータが含まれずリストのみであった。同様に「道路・環境への配慮」の情報公開の結果は、「注目される種の確認状況」として5ページのコピーが提出された。内容は注目される種の確認ブロックに確認された年・月のみが書かれており、確認数は空白であった。新住と同様に生のデータの提出は義務づけしていないとのことだった。最近では標本の提出だけでなく、底生動物の現地調査でみられるような、各調査日における調査地点ごとの採集リストを出すことが義務づけられている所が増えていると聞くが、ここにも愛知県の後進性がでているように思われる。
今回の情報公開のときに文書名がわからないので土木部道路建設課に尋ねたら、「森山先生のリストにないものです」との返事だった。「道路・環境への配慮」の元資料は、「道路改築工事のうち道路環境業務委託調査報告書(その2)」であった。
調査者、同定者名を明らかに
昆虫類確認種リストは学名出なく、和名で記載されている.学名より和名の方が重要と考えているのでしょうか.市民グループが出した報告書と目的や対象が違うので、当然正確を記すためにもコンサル業者から学名の提示がなされるべきである.そのためか、準備書では、ホソバトビケラの学名が不明になっており、ホソバトビケラの学名がカスリホソバトビケラの所に入っている。学名の重要性に対する認識がない.同様に、学名不明種にハリグロリンゴカミキリと書かれているのは、ヘリグロリンゴカミキリの間違い(両種とも記載)、ムネアカホタルモドキはムネアカホソホタルモドキの間違いであり、単純に学名不明種と扱わずに転載するならばよく調べて行なうべきである。もっとも県が行なった調査結果で出てきているルリエグリゴミムシダマシはルリゴミムシダマシ、ヤマトクサカゲロウはニッポンクサカゲロウと思われる。「学識経験者の判断」を仰ぐとしたら、このようなイージ・ミスをするのでなく、市民グループが出した報告書と目的や対象が違うので、当然正確を期すためにもコンサル業者から学名の提示がなされるべきである。
調査による自然破壊
昆虫採集是非論の中に、人が採るだけでは絶滅しないとか、人の目で探して捕まえられる虫の数は多寡が知れているとか、いわれる.しかし、一網打尽にするベーツトラップやライトトラップのような誘引法は規模など注意して行わなければならない.海上の森には多くのオサムシの仲間がいます.この仲間はガの幼虫やミミズ,カタツムリなどを食べる肉食性です.彼らが多くいることは,彼らのえさとなる小昆虫や土壌性の動物が豊富であることを示す指標にもなります.96年の5月頃に半日歩くと,道路上を歩いているオサムシを20〜30匹以上見つけることが出来ました.しかしここ2年ほどは,調査や採集マニアによる影響でほとんど見かけなくなりました.それは後ろのはねが退化しているために飛ぶことが出来なく,移動範囲が狭いため地域により色や点刻が微妙に違うことです.私から見ると同じ種なのですが,この変異がマニアにとって魅力的で,そのうえ紙コップの中にえさを入れて集まった虫を一網打尽にとれるためです.海上の森で、土の中に埋めた紙コップに佃煮になるほど一杯入ったのを見かけたが,県のベイトトラップ調査の調査方法を見ると1カ所に二十個もしかけています.1996年には1回の調査で7地点,4回の調査で、なんと560個の紙コップを埋めたことになります.
同じ地域の調査において採集時期や方法の違いによって半数ぐらいの違いが出ていると考えられる。このことは、まだまだ調査回数を増やすことで記録は増えるものと思われるが、ただ採集回数を増やせばいいのではなく、レベルの低い調査でも採集時期や方法によっては充分その地域の特性は把握できる。
これまでの調査に比して、既存調査の「環境への配慮」の道路編では、調査日は1993年4,5,8,11月の4日間、1996年4〜7月、10月の37日間、1997年6月の4日間の延べ45日と1996年の調査日数が増えている。さらに、新住でも調査日は1995年7月より1996年6月までに77日間とかなり密度の高い調査を行っています。それらの確認種は道路1,401種、新住1,435種、海上の森ネットワーク1,035種(1996年1月〜1997年1月)となっており、県の3年間の調査と比較して市民の1年間の調査は決して見劣りのするものではないことは明らかであろう。
事業アセスと称する大金を使って行う年何回かの調査がいかに採集の専門家を動員した大がかりな調査を行っても、その地域の多様な生物環境をどれだけ把握できるだろうか。これはいかに精度の高い調査を行っても、あくまで点でとらえているにすぎず、線あるいは面でしかとらえることはできない。市民グループや自然保護協会、野鳥の会などが行う自然観察会の活動は毎週変わる季節や気候の変化、昨年の春の低温や7月の猛暑などを実感し、その環境の変化をより早く、より詳しく知ることにもつながってくる。
万博の事業計画ができあがる前に行う調査は事前調査に位置づけられると考えられるが、後であげるように多くの部局による調査のラッシュがみられる。たとえ事業アセスであってもアセスが行われる前に自然がなくなっては意味がない。
植物については農地林務部がおこなった4人の研究者名がはいった(これからのアセスメントには、信頼度を上げるためにも非常に重要なことである)報告書「瀬戸市南東部地域自然環境保全調査(水辺・湿地)」、「同(雑木林)」(1998年3月)がある。市民グループの報告書を既存調査として活用したり、県の土木部が出した「環境への配慮」を使うのであれば、同じ万博を誘致するためにある県商工部万博万博誘致対策局から出された「瀬戸市南東部地区環境影響調査」や「瀬戸市南東部地区に生息する生物の多様性に関する調査」を始め、同21世紀国際博覧会推進局からでている「Bゾーンにおける保全活用のあり方についての検討結果」(1997年9月)などの活用をすることにより、多くの部局が発注した部局の違いだけによる同じ目的の調査はできるだけ減らしていただきたい。
2つの「環境への配慮」は、調査地域がわずかにずれているだけで、広く万博会場のアセスメント調査で一本化すれば、手間と金を節約できるだけでなく、調査による環境への影響を軽減できたであろう。それが真の環境への配慮であろう。「種ごとの予測結果」はほとんど「道路・環境への配慮」の同タイトル部分と同じであるが、確認地点の部分が新住と道路によって違うだけで、「広く確認されていることから影響は小さいと予測される」、「生息確認地の一部が消滅すると予測される」など表現も同じである。ただし、「新住・環境への配慮(予測・評価編)」と前述の「元資料」とでは確認地点のブロックが違っていたり、bブロックやd−2ブロックが抜けていたり、「bブロック内の生息地は消滅する」となっているのが「本地区内にもあるが、…本地区内で実施される事業による影響は小さい」などに変わっている点である。「影響は小さい」とする、地域個体群の維持に必要な量および面的な数値の根拠があれば、教えていただきたい。
都合の悪い調査結果の省略
調査地点の設定などにも、同様に現れており、「新住・環境への配慮(参考資料)」の底生動物調査地点ではAゾーンには調査地点が1つもなく、調査地点番号1,3,4,7,8と間が抜けている。抜けている地点2は地図の位置関係からすると地点3の海上川の上流の北海上川であろう。地点5と6は地点7の屋戸川、および吉田川の上流の調整池によって破壊される予定の沢が考えられる。あえて調査をしたにもかかわらず、意図的にはずした理由は何であろうか。一般的に川の調査は上流から下流までを通して始めて全体像がつかめ、比較も可能になる。あたかも、長良川河口堰でおこなわれたサツキマスやカジカの調査で揖斐川と木曽川におけるデータの隠ぺい工作のようである。
底生動物の調査は「新住・環境への配慮(参考資料)」の1995年9月と1996年2月の調査しかない。ただし、なぜか「現状調査編」でなく、「参考資料」なのかはわからない。その上、「予測・評価編」には何の記載もない。「昆虫類確認種リスト」に含まれているのか。あわせて、ライトトラップ、ベーツトラップの区別もリスト中に記載があるとデータの信頼度が上がるのだが。
調査方法は有機汚濁の調査に使われる生物による水質判定法(ベック−津田α法)が使われている。公害の現況把握としてとらえるのであれば、そしてファウナ(動物相)あるいは地域個体群の基礎資料であれば、むしろ陸上昆虫の調査のように基礎調査としての定性的な調査(同β法)が一般的であろう。α法には、底質や流速などに条件があり、その条件に合う調査地点の選定などに問題が生じる危険性が高い。
万博関連の工事などの影響をみるためには、有機汚濁の影響より、むしろ土砂による影響や底質の変化が与える影響の方が大きいと考えられる。この調査法では、瀬だとか底質などいくつかの採集条件をそろえるために、採集される種類数が少なく表れる欠点がある。海上の森ネットワークで調査された調査結果(水生昆虫)と比較しても、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類の3つの類で比較すると県の調査では27種、海上の森ネットワークでは約倍の53種である。水生昆虫では幼虫だけで同定するのは極めて困難であるため、海上の森ネットワークでやられたようなライトトラップなどによる成虫の調査による確認も必要である。
「予測結果」に注目される動物種だけで、多様な生態系を構成している生物層に対しての項目が欠落している
相変わらずの調査リストだけである。「既存文献資料による調査」は県商工部万博誘致対策局が出した「瀬戸市南東部…」、「…生物の多様性に関する調査」などが挙げられているにもかかわらず、内容には何ら反映されていない。「文献調査で確認された注目される動物」の項目では、あえて市民団体の報告書が挙げられていない。ただ単にリストを挙げるだけでなく、過去の多くの調査を元にした計経時的な比較や、地域全体の中の生態学的特徴といった面からも分析の必要がある。東海環状自動車道環境影響評価参考資料には平成元年4月から調査をしており、現状調査が抜けている1994年、1995年度は上記調査がある。あたかも都合のいいとこだけのつまみ食いであるならば、予測・評価に同意かされているのか明らかにすべきである。
それらをあわせた準備書の中に昆虫の種類が2300種記載されています.これは全ての種ではなく,「何々の一種と」書かれている種名が実施計画書の昆虫リストの中に200 種類以上あるのです.昆虫などの名前を確定することを同定といいますが,分類群の科とか属までしか区別できないために,とりあえず「何々の仲間」と言っているのです.
その200種を見てみますと,これは名前を決めるところまで、専門分野では研究が進んでないだけでなく,それらは非常に小さな虫たちで、皆さんがあまり関心がないだけでなく,「なんだこんな虫」というわけで見捨てられていた虫達で,虫屋にとっても無関心のうちに見捨てられているものが大半なわけです.
たとえば,土や落ち葉などの有機物を分解する生態ピラミッドの底辺にいる「トビムシ」という昆虫の仲間は,8種のうち7種が「何々の一種」で記載されています.このような小さな虫達を食べて上位の生き物達が育まれているわけですから,この生態系を保つためには,このような我々の目に触れない小さな生き物は非常に大切で,多くの種と数がいるということです.これらはその2300種から外されているものですから,多分,海上の森だけで昆虫は3000種近くいると思います.数年前に出された「愛知県の昆虫」のリストには,6063種いることになっています.それは五十年もの間,つまり戦後から現在までの全ての記録を調べて6000種ほどです.このうち何分の1かはもういなくなっているかもしれません.愛知県中の昆虫の半分以上の種類が,海上の森にすんでいることになります.愛知県のわずか0.1 %という、限られた面積にすんでいるということです.海上の森が非常に生物の多様性が高いということは,誰が考えても間違いはないと思います.雑木林や田畑,人工林や湿地などの多様な景観を構成している里山が,分類学者たちには価値の高いと言われるシイなどの純林で構成される森よりも多様性が高いということです.
自然保護の取り組みは,1970年代くらいまではいわゆる貴重主義,または珍品主義が言われてきたわけです.たとえば天然記念物のヒサマツミドリシジミというチョウが自然保護の対象になってきたわけです.しかし,そういう考え方だけではもはや自然が守れないということに,まったく気がつかないうちに,海上の森のような、非常に身近な自然が,この20年から30年の間にほとんどなくなってしまったのです.
この様な生態系全体を見た視点や、多様性が成り立つ里山の重要性を抜きにした「予測・評価」や「保全策」では、従来型のアセスメントでおこなわれている「一部の生息確認地が消滅する」、「広く分布している」、「十分離れていることから影響は少ない」などと根拠もなく書かれてきたのと同様である。「周辺に広く確認されていることから、環境保全目標は達成される」という名のもとに、メダカやドジョウなどの今までごく普通に見られた多くの生物達が失われてきたことは、レッドデータブックに関わってきた自然保護協会も警鐘を鳴らしている。
意味のない保全目標
「予測評価編」の最後に「事業による影響は小さいと予測されることから、環境保全目標は達成される」と書かれています。個々について議論すべきですが、2行ないし数行で書かれているために想像を駆使して書くことは困難なので、多くは次の3種のコメントに集約されると考えて書きます。
ギフチョウ
「…ブロック内の一部の生息(卵塊)確認地は消滅すると予測される」、「産卵場所がかなり分布し、…吸蜜植物も残ることから、環境保全目標は到達される。」となっているが、海上の森のようにギフチョウの分布の末端では、カンアオイがあるにもかかわらず産卵が行われないことがある。
たとえば、静岡県産のギフチョウの幼虫はヒメカンアオイを食するが、海上の森にいるギフチョウが食べるスズカカンアオイを食しないことが知られている。産卵を促す特定な要素もわからないまま、今ある生息地を失うことは絶滅する危険性が予知されます。1998年、1999年とギフチョウの生息が激減している現状から考えても、広い範囲で保全することを考える必要があります。移植による保全が出来ると考えているようですが、ギフチョウの移植の失敗例は多く聞きますが、成功例は聞いておりません。
移植による保全は特定な植物の個体の移植には技術的に可能であっても、個体群や生態系の保全とはなり得ない。たとえそのような環境を創っても、ギフチョウがその環境を気に入らなければ我慢するより逃げていくであろう。過去の移植の結果などの調査を行い、そして公開して意見を聞けば、それがいかにあほらしい発想であるか気づくであろう。
ハッチョウトンボ
「生息確認地の一部が消滅すると予測されるが、…周辺に広く確認されていることから、環境保全目標は達成される」と書かれているのは、準備書では、「主要施設地区による影響」にある「No.12地点の消失…は大きな影響を与えないと予測される」と書かれているが、ハッチョウトンボの本来の生息地は林間の開けた向陽湿地でなく(夏季には全く目撃されない)、No.12のような「土取り跡地等のは裸地の崖際に成立した湿性草地(地点3〜4及び9〜12)」と考えられる。このようながれ場を不毛の地ととらえるのでなく、東海丘陵要素の特徴ある生物相を育んできた湿地を形成してきた非常に重要な地域と認識すべきである。これらの水源となる尾根筋の開発は大きく湿地の成因に大きく影響を与えることになる。
ゲンジボタル
「事業により本地区内の一部の生息確認地は消滅すると予測されるが、予測対象区域内には広く生息が確認されており、その生息確認知は残されることから、環境保全目標は達成される」と根拠となる数値も示されないままにお墨付きを与えている。これをもとに準備書では、「ゲンジボタルの生息河川に対する主要施設地区(本事業で改変)による直接改変は行われないことから、影響は回避できるものと判断した」と、万博のための「地域整備事業」で土地の造成に対する責任がないかのように書かれていることへの「環境への配慮」の責任は重い。
環境保全目標なるものが何か記載されていないので、妥当な目標かどうか判断できない。そのためか、準備書や評価書には、「道路の横断(橋梁)による影響」を「回避・低減させるために、以下に示す保全措置を講ずる」として「できる限り保全する」とあいまいなことしか書かれていない。ゲンジボタルの行動圏や生活史を考慮した具体的な保全措置が挙げられなければ、ただ単に他の河川でやられている放流事業を行うだけに終わる。
評価書等で見られる「河川区間内への直接改変による影響」で、細かく各河川の改変個所が書かれているが、川は上流から下流まで一体化したものであるという認識がまったくない。そこの部分だけ代償処置を講じても、上・下流部への影響を免れることは出来ない。いかに、「実行可能な範囲内での低減と、代償を」はかっても、吉田川だけでなくすべての河川でゲンジボタルは見られなくなるであろう。具体的な「実行可能な回避・低減と代償処置」を示すべきである。ゲンジボタルの移植の多くの失敗例を是非集めて、研究されると如何にばかげたことを言っているか分かるでしょう。藤前干潟の人工干潟で言われたように(環境庁だけでなく、多くの人の笑いものになったように)、今ある自然を壊して造り物で換える思想はもういい加減にしてほしい。
保全目標が「注目される動物」だけでは、新しいアセス法のポイントである生態系が抜け落ちたことになるが、あえて限定するとしても種の選定にいくつかの問題がある。アオマツムシにいたっては論外ではあるが、「侵入種」として扱っているのは今までとは一歩前進であるが、「…生息確認地が消滅する・・」と予測した根拠を示してほしい。侵略者の絶滅がはかれれば、これこそ万博の目指す人類の知恵の勝利(叡智)であるが。(委員の岐阜大学の武田さんの研究室でアオマツムシの研究がやられていたので、是非万博会場で実験していただきたい)
「注目すべき理由(抽出根拠)」に「第2回自然環境保全基礎調査(環境庁1981)」が使われているが、「レッドデータブック」の様に出来るだけ新しい資料・観点で行われるべきである。最近メダカやホトケドジョウなどが追加されたように、里山に代表される生物の減少が目立ってきており、ただ単に過去の資料を引用するのではなく、「学識経験者等の意見に照らして抽出」したにしては最近の現状をあまりにもしらないようである。トンボでネキトンボやルリボシヤンマが挙がっているが、むしろオオルリボシヤンマ、オオカワトンボやキイロサナエなどこの地域の特性を考慮に入れた選定を行うべきである。
他にホンサナエ、ダビドサナエ、オジロサナエ、ミルンヤンマ、コシボソヤンマ、サラサヤンマ、ハネビロエゾトンボなど、近年失われてほとんど都市近郊で見られなくなった低山帯の渓流や林間湿地などの良好な止水域に見られるトンボ類やオオムラサキ(確実にいる)、ルリタテハ、テングチョウなどの蝶類など環境指標性の高い種においても精密な調査が必要である。
「甲殻類確認種リスト」にサワガニ、ザリガニなどが「H10年の調査」にしかのっていない。「環境への配慮(新住)」の「底生動物調査結果」にはサワガニだけがある。意識的にAゾーンだけ省いた調査地点であるが、他の3種も充分見られる。市民グループが行った調査報告書には全分類群が入ってなくてもいいが、「生態系」にまで配慮したアセスメントを行うならば、充分「実行可能な範囲」の調査項目であろう。プラナリアが多く見られるが、どこにも記載されていない。
サワガニやプラナリアがこの地域の河川において、多く見られるのは特筆すべきことで、このような小河川の保全をしていく上においても、きちんと河川生態群集として押さえておく必要がある。
魚類ではカワバタモロコのみが挙げられているが、この時点ではレッドデータブックにはメダカとホトケドジョウは挙がっていなかったが、ホトケドジョウは記録されている。その後メダカは広久手第1池でビン付けにより捕獲されている。(私の経験では、一度もビン付けでメダカは採集したことはないが、委員の駒田によると浅いところで採れたので間違いないそうである。レッドデータリストの発表頃なので、持ち込まれた可能性あり。その後の記録は聞かない。) カワバタモロコは局地的に浅い池などに残されているため、水質の悪化と水量の減少、外来魚の侵入から守れば比較的の越される可能性が高い。むしろメダカやホトケドジョウの保護のほうが難しいと思われる。この時点で「選定区分の基準」に惑わされずに、地域での広い知識が導入されるべきである。 「…などこの地域の特性を考慮に入れた選定を」、「…近年失われて殆ど都市近郊で見られなくなった低山帯の渓流や林間湿地などの良好な止水域に見られるトンボ類や、オオムラサキ、ルリタテハ、テングチョウなど環境指標性の高い種においても精密な調査が必要である」とした準備書に対する意見に対して、「本環境影響評価で注目すべき種とした根拠は、…および学識経験者の判断によるものであります」と貴重種に偏った評価手法に対しての意見であるにもかかわらず、従来の貴重種をそのまま使うといったことに対する反省がない。
「メダカ、カワバタモロコ、ホトケドジョウなど新たに指定された絶滅の恐れのある淡水魚を調査に追加し、影響回避の対象とすべきである」に対する「準備書に対する私への見解」に対しての回答は、「新たに追加された魚類のレッドリスト種に係わる調査を実施し、その結果を踏まえ評価書を作成しました」となっている。しかし、「注目すべき動物種リスト」に3種が追加されているが、「予測および評価結果」の「その他注目すべき動物種」にメダカについてのみ追加されている。
「新たに出現する調整池の湛水面につながることで…実行可能な範囲で影響を低減できるものと判断した」とされているが、メダカの生息にとってダム(調整池)のような大きく深く、そして広い水面が適切でないだけでなく、広い湖に適した魚や水生昆虫などの捕食者により絶滅されるであろう。