公聴会

「瀬戸市南東部地区新住宅市街地開発事業」、「名古屋瀬戸道路」への意見(1998.6.14)

前提

 両事業の先に出されるべき環境影響評価実施計画書の説明会、及び追加調査の結果をもとに出される準備書に対しての公聴会が再度行われること。
 あわせて、公述人の選にもれた72名の公述会が行われることを前提として陳述します。

はじめに
 この2つの案は、名古屋瀬戸道路においては瀬戸・豊田都市計画道路と限定したものとされており、東海環状自動車道路や現在ある東名高速道路、猿投グリーン道路、それらに接続される関連道路、若宮八草線などの計画路線とは切り離されています。新住宅市街地開発事業も同様に市街化区域、市街地開発などのいくつかの事業と切り離せないにもかかわらず、形だけ取りつくろうために行おうとしています。これらの事業は万博事業と同様に連携して行うべきです。法的義務がないなど理由を挙げて説明をいかに行っても、社会的判断や市民感覚を補うには充分になるとは考えられません。
 同様にアセスメントに関する理解の差にも大きく開きを感じます。今迄の方たちからも多くの疑問が挙げられたように、代替地の検討を含む代替案なきアセス、公聴会は陳述人の意見を聞くだけの場や、意見書や質問に対する回答などの保障、既存資料の信憑性を補うためにも生データや調査者・審査会などの公開、両事業が先行する連携など実施計画書や案の概要の何倍もの問題が挙げられます。
 たとえば日本自然保護協会の意見書は36ページにもおよび、愛知万博の環境アセスメントに意見する市民の会でも12ページにわたっています。これらの問題点をお話するには10分の時間はあまりにもすくなすぎます。ただ単なるイベントとして行う講演会や市民動員型の植樹などではなく、多くの市民レベルで行われているシンポに出かけて耳を傾けてください。多様な人の意見を聞く必要性は、この点を少しでも解消するためにも必要と考えられます。
 先日の意見交換会でお話した点に一つもお答えが貰えないまま、打ち切られてしまいましたので、再度誠意ある回答を得るために公述意見をお渡しいたします。
 そしてこの公聴会の多くの意見も、言わせっぱなしで終わらないよう、出た意見と回答を市民に広く公表することを希望します。
 時間的制約があるため、私は公述意見の要旨にも書きましたように、生態学的な視点の欠落にしぼってお話します。
 両計画案には現状調査の不備と、生態系保全に対する認識のずれが見られます。このまま環境影響評価(アセスメント)が行われれば、重大な自然環境に対する影響を見落とす恐れを感じます。
 3つの「環境影響評価実施計画書」には、「生物多様性の確保および自然環境の体系的保全」の項目に植物、動物、生態系として各1ページ書かかれているにしか過ぎず、植物、動物相のリスト作成と生態系を含み注目すべき種に限られています。生態系の中の上位性を「食物連鎖に着目した調査」とした特定種の生息に限定しているなど、生態系や生物の多様性に対する認識がずれています。実施計画書には里山の重要性と多様性を含む生態系の理解がないがために起きる問題と、アセスメントを真面目に行えば解消できる点とがあります。

1.調査手法について
 調査結果の分析は相変わらずのリストと貴重種の羅列のみであります。点でとらえた調査でなく、時間や地形、植生、水系などの広がりを持った線や面でとらえた調査や分析を行わなければ生態系を視点に入れた調査とはいえません。現在すでにギフチョウ、オサムシなどの昆虫にも、調査や周辺工事などの影響が出ています。オサムシは餌に集める採集法であるベーツ・トラップ(誘殺法)や、冬に冬眠している道路わきのがけを掘るオサ掘りにより、激減しています。同様にギフチョウも採集などの影響や、人や車による回避行動が見られます。

1)ギフチョウの調査
 「羽化前に1回、羽化から産卵期間内に2回程度実施する」となっていますが、今年の発生(羽化)時期(3月下旬から4月上旬)は終わっています。終わっているとすれば、今回の計画書において手法の検討をせずに行ったわけです。手法に誤りがあれば来年の春にやり直すことになります。
 私達の調査では今年の産卵は非常に狭い範囲でしか確認できませんでした。過去の調査結果から比較するとかなりの影響が出始めています。県の過去の調査(H.8生物の多様性に関する調査)ではカンアオイが広く分布しており、食痕調査結果からも充分保全できると結論ずけています。カンアオイを食べる昆虫には現在8種以上が確認されており、区別は困難です。さらにここのギフチョウは他地域のギフチョウがヒメカンアオイを食べるのに対して、この地域に島のように隔離された状態で残るスズカカンアオイを食べています。海上の森のようにギフチョウの分布の末端では、食草があるにもかかわらず産卵が行われないことがあります。産卵を促す特定な要素もわからないまま、今ある生息地を失うことは絶滅する危険性が予知されます。昨年、今年とギフチョウの生息が激減している現状から考えても、広い範囲で保全することを考える必要があります。
 移植による保全が出来ると考えているようですが、ギフチョウの移植の失敗例は多く聞きますが、成功例は聞いておりません。長野オリンピックや各地のゴルフ場開発にともなって大がかりな移植が行われていますが、その後5年、10年後の報告は聞こえてきません。過去の移植の結果などの調査を行い、予測、保全処置に生かすためにも、公開して意見を聞くことを盛り込むことを希望します。

2)普通種が貴重種に
 何処にでもいると言っているうちにドジョウやクワガタムシが珍しくなった例を挙げるまでもなく、里山が貴重な自然になり、ギフチョウやホタル、多くのトンボ達も姿を消してきました。海上の森にはオサムシやヤマサナエ、カワトンボなどのトンボ類や、昆虫ではないがサワガニも多く、彼らの餌となるカやハエなどの小昆虫をはじめ、蛾の幼虫、ミミズなどを含めた土壌性動物の豊富さを物語っています。
 海上の森には62種をこえるトンボが記録され、豊富さを誇っているが、その中でもハッチョウトンボなどの希少種だけでなく、多様な生息環境を代表する種が含まれています。里山を代表するカワトンボにはニシカワトンボ、オオカワトンボ、ハグロトンボが生息しています。ニシカワトンボは多く見られますが、里に近い平地の緩やかな流れに棲むオオカワトンボとハグロトンボは現在非常に狭い地域にわずかに残されているだけです。これらも屋戸川の入り口で見られる多自然型工法などにより、いなくなるでしょう。
 このような普通種でありながら、その生態系の代表となる指標的な役割を持った種や、その地域において多く見られる優占的な、そして生態系の底辺を担う種の定量的な評価法を取り入れなければ、生態系の把握にはほど遠いと思われます。上位種の保全で見られる特定種の保全は、種の維持のために行う栽培・飼育と違い、多自然型工法やビオトープのような動物園や箱庭的感覚では生態系の保全が出来ない。この思い上がりが「新しい地球創造:自然の叡知」などといったテーマを作り上げているのでしょう。疑似自然をつくっても生物たちは戻ってはきません。

3)より広い調査地域を含んだ生態系を考えた調査を
 「生物多様性の確保及び自然環境の体系的保全」に書かれている「調査手法」や「予測手法」では、相変わらずの「注目すべき種」などの特定種の保全にとらわれており、生態系に関する理解のなさが表れています。
 里山は地形や水系、植生、生物群集などが長い時間をかけてつくり出してきたもので、その地域特有な多様な生態系と、多様な遷移の過程を含んできたものです。現在の大型機械による開発とは、時間、労作力、エネルギー量などスケールが大きく違います。回りに開発の波が押し寄せている「海上の森」のような陸の孤島化したところでは、そこにいる生物たちは急激な変化が起こったときには逃げ場を失う危険性が高くなります。
 「海上の森」は三国山・猿投山に連なる岬状にせり出した非常に特殊な地形や貧栄養な土岐砂礫層に代表される特殊な環境にあります。野鳥や哺乳類だけでなく、移動性のある昆虫類を視点に入れた、より広い、猿投山をも含めた地域にまで調査地域を拡げる必要があります。

2.情報の公開と共有
 種類数や貴重種の調査などをいつまでも追加調査としておこなわずに、既存資料の分析を科学的に行い、生のデータの公開を含め、市民に広く情報の公開をしてください。「多様性保全」の調査などにいくつかの誤りが指摘されてきましたが、素直に指摘を取り入れて改善すべきことは改善し、まちがいについては誰にでも理解のできるかたちで公表すべきです。
 今回の既存資料の中に、今まで使われていた「瀬戸市南東部地区環境影響調査(愛知県商工部万博誘致対策局)」や「瀬戸市南東部地区に生息する生物の多様性に関する調査(同)」の報告書を使わず、市民グループの報告書を使っています。引用文献として使うことはあっても、勝手に資料として使うのはいかがと思います。この資料以外に県農政緑地課が行った「湿地調査」、名古屋瀬戸道路関係で行った「天然記念物イタセンパラの調査報告書」などの公開を始め、「万博を記念する公園」、「博物館構想」,「東海環状」などの既往の調査を部局の壁を取り払い、広く市民に公開して、市民と共通の情報を共有し、広く検討を行い、既存調査結果として使われている「瀬戸市南東部地区新住宅地開発事業環境への配慮」、「名古屋瀬戸道路環境への配慮」との整合性を明らかにすることが必要です。情報公開ワーストワンの数少ない情報だけでも、いろいろ野鳥を始め数多くの問題が指摘されています。もうぼつぼつ市民と行政が同じ机上で、生のデータをもとに検討してはいかがでしょう。
 学識経験者の科学的な機能が充分果たされないまま、「学識経験者の意見によりますと」などと使われていますが、審査会などの公開による研究者の良心と自己責任のもとでの発言がなければ、いつまでも科学的根拠のないまま、事業者も自信を持って事業を進めることは出来ません。新しいアセスに科学性を持たし、いつまでも旧態然とした枠から解き放されることを、そして胸を張れるモデルを作ることをお願いします。

3.予測及び評価の手法
 「評価手法及び環境保全処置の考え方」も2ページしかなく、「実行可能な範囲で行う」、「検討する」、「慎重に行う」など具体的なことが全く述べられていません。具体的な計画がなされていないために影響予測が立たないようであれば、計画が出されたあとにもう一度実施計画書を出し、説明会を再度開くか、海上の森ではおこなわないなどの、数複の案の相対的な評価を行った結果、計画を決めるべきであります。
 「会場内は可能な限り緑化する」と書かれていますが、具体的な手法や計画を明らかにしてください。ビオトープや緑地公園的な保全策では箱庭を創り出すだけで保全策にはなりません。同様に特定種にしぼった保全、移植では生態系の保全にはならないことを理解し、更地などの緑化や都市公園などに知恵をお出しください。愛知県は緑化センターや青少年公園、農業センターなどの他県に誇れる立派な緑地公園がたくさんあります。ぜひ真剣に代替地の検討を進めてください。

自然を壊してつくる実験場はいりません
 再度繰り返し、いいます。
自然を壊してつくる実験場はいりません。