新海池 生き物教室

 

ため池の意義

 ため池の歴史は古く弥生時代の稲作が始まったころからだと言われ、その後水田の広がりと共にため池の規模も大きく、数も増えてきた。愛知県では比較的新しい江戸時代に造られたものが多く、犬山の入鹿池や豊明の勅使ケ池などのような大きな池が造られた。現在では農業用のため池としての役割は、愛知用水(1961)や豊川用水(1968)などの導水により必要とされなくなった。しかし、このところ夏には毎年のようにおきる渇水により、三河地方や知多半島などでもため池の必要性が見直されている。

都市周辺では身近な水辺や自然との出会いなどの環境教育の場や、感性などの精神的な豊かさを求める場として見直されてきた。

 

名古屋のため池

ため池は農業用の灌漑用水として使われていた昭和40年(1965)には、360あった。農地の宅地化や愛知用水からのパイブラインを通しての導水などがすすみ、約30年間に3分の2がその姿を消した。現在あるため池の約半分(76)は緑区に、残りの半分が守山区にある。

 

新海池の概要

新海池は今から約860年前の江戸時代初期(1634年)につくられ、最近では1986年に一部埋め立てと底泥の浚渫を含んだ護岸等の改修工事が行われた。池面積は10万平方メートル、乎均水深1.9メートル、最も深いところで2.5メートルである。水質は1970年代には工場排水の流入により、水の華(藍藻)で覆われる悪臭のたちこめる池であった。1982年には集水域の下水道の整備が進み、やや水質は改善された。その後流入水は雨水が主で、一部ゴルフ場の雑排水とプールの排水が流入している。COD,BODが10ml/1、全りんが0.1ml/l以上で環境基準のV類型の基準値を上回っている。

 

新海池の生物

 池の南側の周囲にはヨシが広がり、水面にはヒシ(水草)が拡がりつつある。

 水生動物ではシオカラトンボやイトトンボ類の幼虫(ヤゴ)と小型のゲンゴロウ類やユスリカ類などの水生昆虫、サカマキガイ、ミズムシ、アメリカザリガニ、テナガエビ、ウシガエルなどが見られる。

 魚ではコイ、フナ、モツゴ、ヨシノボリに加え、外来魚のブラックバス、ブルーギル、

カムルチーが見られ、特に最近ではブルーギルが増えて他の魚種を抑えている。

 

日本の淡水魚

 淡水魚と言われるものの中にはアユやウナギのように海と行き来しているものと、一生川や池ですごすものとがある。この一生川や池ですごす大陸性淡水魚の多くは、平地の川や池に棲んでいる。日本全土で約100種ほどいる中で、東海地方には50数種が棲んでいる。それぞれの川や池には、その環境にあった魚たちが長い時間をかけて分布を広げ、1つの川や池には多くて20種ぐらいの魚が見られる。もっとたくさんの種類の魚が同じ池や川に見られないのは、それぞれの池や川の中で長い時間をかけてプランクトンや水草、貝、エビなどとの関係をつくりあげた独特の世界であるため、新しい魚が容易に侵入できないためである。

 

外来魚の侵入

 現在東海地方にもブラックバス、ブルーギル、雷魚(カムルチー)、カダヤシ(タップ

ミノ)を初め多くの外来魚が見られる。しかし、1878年に琵琶湖に移入された草魚をはじめとして、ハクレン、チョウセンブナ、ヒメマスなどの多くは定着しなかった。このことは侵入魚の入り込むすき間がなかったためと考えられ、近年の水質汚濁などの環境の破壊などによる水生生物相の貧弱さが新たな外来種の侵入を許す結果となっている。

 

外来魚の害

 琵琶湖などのように多様な環境をもつ水域では外来魚の侵入や定着は難しく、カムルチ一とタイリクバラタナゴ、ブラックバス、ブルーギルぐらいである。

ブルーギルの仔稚魚(全長約1.5cm迄)はケンミジンコを食べている(モツゴと競争関係にある)が、その後主としてユスリカを食べる幼魚期では灌漑用ため池などの小さな水域には競争相手はいない。原産地である北米でのブルーギルの成魚の主食はユスリカの幼虫(赤虫)や水草である。しかし、日本では幼魚時代はユスリカなどを食べているが、大きくなると本来ブラックバスの餌となるスジエビやヌマエビを食べている。北米原産のオオカナダモの繋茂によりエビ類がため池などに増えたため、エビ類をおもに食べる魚種がいないのと併せてブルーギルがはいりこむ隙間ができたためと思われる。2年目の4月から5月頃の未成魚は他の魚の卵や仔稚魚を補食する。ブラックバスはフナやオイカワなどを補食しており、日本では琵琶湖で見られるハス以外魚食性の種がいないためにカムルチー同様入り込んできたと考えられる。新海池で見られるのと同様に琵琶湖でもブルーギルが優占してきていると言われている。特にため池などの閉鎖された小さな水域においては、卵や仔稚魚に対する補食圧が在来魚種への淘汰圧として大きくかかってくる。

 

ブルーギル

 1960年に日米修好100周年を記念して、当時の皇太子(現在の天皇)夫妻が訪米した時に、シカゴの水族館から4種の魚(幼魚)が寄贈された。この中の3種は病気などで繁殖もせずに死んだが、ブルーギルだけが持ち前の大食と雑食で繁殖に成功した。 1960年代の後半には琵琶湖で確認され、1975年ごろには琵琶湖全域、そして淀川水系へと拡がった。同時に琵琶湖では淡水真珠の母貝であるイケチョウガイの人工増殖用にブルーギルが利用された。二枚貝の幼生の時期には魚の鱗や鰓などに寄生するため、幼生の着生や仔貝の生存率が高いブルーギルが試験的に放流された。

丈夫で飼いやすく60cm水槽で飼育が可能であるが、成長が遅く成魚になるのに5年以上かかる。同時に雑食性が強く、ミミズ、練り餌、ワーム(疑似餌)などで簡単に釣れるし、引きは強く、めったにバレルことはなく釣り魚として各地で放流された。

 

外来魚の駆除

 確実な駆除法はないが、1つはこれ以上に生息地を増やさないこと。第2はブルーギルもブラックバスも繁殖期(5月下旬から7月上旬)に産卵床を守る親魚を除去すること。両種共ヨシ帯から少し沖合いの浅い砂地にすり鉢状の巣を造り、侵入者に対して攻撃をしかける。同様に親魚を釣り上げることも効果がある。第3は消極的ではあるがヨシや石れきなどでモツゴやヨシノボリなどの稚魚の隠れ家や浅瀬などを造ったり、餌となるエビなどを増やすためにオオカナダモなどの水草を植えて共生をはかる。最後はおいしい料理法を考え、名物にして売る。クジラをはじめ、人間が食べるために採り尽くした生物はたくさんある。

 

ブルーギルの料理

 ブルーギルもブラックバスもバス科で釣り魚の対象として導入されたが、キャッチ・アンド・リリースというスポーツとしての釣りと、ミミズなど生きた餌を触らないですむルアー(疑似餌)の手軽さがうけて一大ブームとなった。もともと釣りは食べるためにおこなう行為で、在来種の生息を脅かす外来種の駆除のためにも料埋法の研究が必要である。

 カムルチー(雷魚)は刺し身で食べると大変おいしいそうだが、有棘顎口虫という恐ろしい寄生虫がいる。淡水魚には同様な寄生虫がいるので生食は避けるぺきであるが、加熟すれば煮ても、焼いても、揚げてもおいしい魚である。はらわたを出し、塩水で洗ってから揚げにするかムニエルが美味である。