「老朋友と新朋友」(1999.6 生活と環境)
八田耕吉
現在、中国内陸部の農村においても、公害が急速に広がってきている。1991年より、中国貴州省における少数民族の生活環境調査(本誌41巻(1996)8号から12号で連載)をおこなってきた。その中で、中国における水質汚染を中心に、環境NGOとして「カンナ麺澱粉製造工場の排水浄化」に取り組んできた。この調査で多くの友だちが日本だけでなく、中国にもたくさんできた。
私たちは調査を通して多くのことを学び、成果に満足するが、現地の人たちとの交流は途絶えることが往々にしてある。中国での老朋友(古くからの友だち)は興義市外事弁公室主任の黄海量さんや、自治州外事弁公室主任の陳恩錫さんたちであるが、現在多くの人たちは当時の職は退いているが、訪中の際には毎回必ず集まって再会を乾杯で迎えてくれる。黄さんは毛沢東を思わせる風貌で、海の量ほどお酒を飲む豪傑である。陳さんはすらっと痩せた学者をおもわす風貌をしており、物静かな方である。
このプロジェクトは「少数民族の生活調査」をとおしてできた二人の老朋友の働きにより、中国政府の許可を取り付けることができた。
中国に限らず国際共同研究において政府の許可を取り付けることは難しく、中央集権の中国において地方の小さな市の環境保護局との共同研究の許可を取り付けることはさらに難しいことであり、現地での老朋友たちの働きは大変であったに違いない。
この水質浄化の計画は、日本での公害汚染のひどい時代を調査・研究してきた仲間たちに呼びかけ、賛同してくれた数人で始まった。
日本には新人類と称する若者たちがいるが、中国では日本人の感覚では理解しがたい習慣がある。現在の中国は市場経済の導入により、1国2制度のもと「豊かになれるものから豊かになれ」と言われている。すなわち、あるものが出すのが当たり前なのである。
カンナの塊茎より澱粉を製造するには、地上部の枯れている冬から春におこなう。現地入りするには、上海で1泊、昆明(雲南省)で1泊、そしてジープで1日走って興義市(貴州省)に着く。その夜は久しぶりの再開で乾杯を重ね、明日からの調査の打ち合わせもそこそこに床に着く。
次の日の朝現地入りすると、最盛期である12月なのに工場は操業されていない。共同研究者の市環境保護局の担当者は「カンナ芋が少ないので今年はもう終わった」という返事で悪びれる様子もない。「私たちの調査はボランテイアで、今回も滞在費などは自己負担で一人10万円以上かかっているのだ」と怒ったら、新朋友は「私たちがコーデイネートするので10万円は飲める」と澄まして言う。
今年も老朋友・新朋友たちとの再会に乾杯。