新アセス法は生かされるか
Does it make use of new Assessment law?
−東海地方の事例をもとに検証する−
- that the case of the Tokai district is verified in the place.
名古屋女子大学 八田耕吉
企画の趣旨
東海地方における環境アセスメントは、長良川河口堰で代表されるように多くは1960年代に計画されたが、「名古屋飛ばし」で先延ばしされてきた。その後、東海地方ではバブル期になって、環境破壊型の公共事業が一気に急浮上してきた。唯一1960年代に造られた鍋田干拓(農水省)も、その後30数年たった現在もその使用が決まらないでいる。米余りを受けて見直しがおこなわれたはずの中海宍道湖淡水化事業や諫早湾においても何ら教訓として生かされていない。現在、農地の需要がなくなったため、「木曽岬干拓地整備事業」として野外体験広場や建設発生土ストックヤードとして整備することとなり、2001年には方法書、その後3年以上もかかって準備書の公告がおこなわれ、3年間の生物調査を実施している。
このように、環境アセスメントも、生物調査が複数年おこなわれるようになり、制度として整ってきたかのように思われるが、事業者による環境影響評価委員会や県の審査委員会の委員、あるいは反対運動をも含めた市民・自然保護グループの中にも生物系の専門家が少なく、社会科学系や自然科学系では工学系の委員が多数派を占めている。さらに生物系の委員の中でも生態学をやっている者よりも分類学関係の研究者が多く、実際に工事等で影響を受ける自然生態系での影響を的確に判断されているとは思えない現状である。本シンポでは生物系の専門分野で、アセスメントおよび調査の結果、予測、評価について意見を述べるなど東海地方でのアセスメントを中心に関わっている方々に発言していただく。今回、それぞれの事業アセスメントについてお話を頂くが、東海地方のアセスメントに広く関わっておられるので、どのアセスメントにもご意見があると思われますので、特に標題にとらわれずにご発言いただく予定である。
藤前干潟については、伊勢湾に残るわずかな貴重な干潟を、ごみ埋立て処分場にしようという名古屋市の計画が、市民の大きな批判を呼んだ。この事業のアセスは名古屋市の要綱によるものであったが、その手続きの中の市の審査会の手続きで、渡り鳥への影響が避けられない、という評価がでたことが、藤前埋立て中止の大きな要因になった。このことは、市民に自然保護の機運が高まり「環境影響が軽微」から「環境への影響がある」とされ、代償措置としての人工干潟に対して環境省が「否」と方向が一変したかに見えた。
藤前干潟においては干潟の生物の専門家がいないことを市民からの指摘・要望を受ける形で野鳥の専門家を専門委員として委嘱した。その結果調査の不備が指摘され、追加調査をおこなった結果シギ・チドリの飛来地として重要であることが、オーストラリアをはじめとしたラムサール条約加盟国により干潟の重要性が指摘された。それに加え、「藤前干潟を守る会」などの市民グループによる調査により、干潟生物(アナジャコなど)による浄化作用などが明らかになり、「鳥類と干潟の生態系に及ぼす影響は明らか」と環境影響審査委員会が市長に答申、そして公表された。
しかし、現在準備書が出される段階となった設楽ダムの方法書では、調査期間が方法書の確定以前で終わることや、既往調査が昭和53年からの調査結果が使われるなど、長良川河口堰を思い出させる旧泰然としたままである。さらに、事業者側の技術検討委員と評価委員、県の審査委員会委員とが同じであるなど、依然としてどこにも顔を出している昆虫や植物の分類学者などの常連が入っており、鳥類の専門家が欠けている。
徳山ダム建設予定地周辺は国内有数の大型猛禽類(イヌワシ、クマタカ、オオタカ)の生息地であることがわかり、「ダム審議会」の指摘を受けて「ワシタカ類研究会」を設置した。研究会は「猛禽類保護のためには一時工事を中断して、調査をするよう」求めたが、要求を受け入れられなかったために4名の委員のうち3名が辞退した。その後、調査結果の分析を日本自然保護協会に依頼したが、自然保護協会は「生息調査が調査に値しない、工事を中断して調査のやり直しを求めた」にもかかわらず、「治水・利水のため不可欠、完成工期の遅延は許されるものではない」としてダム本体の着工に踏み切った。
長良川河口堰については、1963年から1968年にかけておこなわれた「木曽三川河口資源調査報告書(KST報告)」をアセスメントと位置づけたが、正式には環境影響評価(アセスメント)はおこなわれなかった。その後、水需要予測が大きく外れたために、1980年代後半に利水から治水への転換がおこなわれた。1988年に漁協者の着工同意と同時に、20年以上前のKST報告をアセスメント調査と位置づけ、閣議了解事項として河口堰本体工事に着手するという強硬に及んだ。工業用水の再利用による水余りを、工業用水用の送水管をつかった知多半島への住民の飲み水として供給、農業用水ははるか上流の木曾川のおいしい水を田に入れるなど、住民の健康をも脅かすという住民無視をおこなっている。
同時に計画された矢作川河口堰が1998年に建設省(現・国土交通省)の審議委員会の答申を受けて「休止」が決定したにもかかわらず、徳山マダムについては、1957年に電源開発として閣議アセスの除外項目として始められたが、木曽川水資源開発基本計画(フルプラン)の施設として1998年に水資源開発公団(現・水資源機構)により事業認定を受け、2007年度の完成を目指している。1999年に「ウオータープラン21」で2000年予測値の75%に下方修正したにもかかわらず、利水容量の一部を洪水調節および灌漑容量への振り替えにより、総貯水量の見直しなしに総事業費2500億円に加え1000億円の増額をした。さらに、長良川河口堰の水余り批判を受けた名古屋市をはじめ愛知県、三重県、岐阜県による徳山ダムの水利権の削減、返上が相次いで起きており、各地で行政訴訟がなされている。
中部国際空港のアセスメントは、方法書が出されて(1998年7月)約1年で環境影響評価法(新アセス法)の施行(1999年6月12日)前に駆け込みで確定するという形式だけ整えるなど、典型的なアワセメントをおこなった。空港島周辺は水深が浅く、も場(アマモ)や海流に影響があるなど、ヘドロの堆積や漁業生物への影響が心配されている。現在、漁民と研究者とで結成された「空港等周辺海域環境研究会」により調査が継続しておこなわれており、底泥の堆積や低層の貧酸素化が進み、底生生物(アサリ、シャコ)の減少と貧酸素化の指標といわれるホトトギス貝が異常繁殖するなど底質の悪化が公表された。あわせて、「前島・空港島」の土地利用をも含め、モニタリング(事後、追跡)調査の必要性やアセス結果の担保が保障されていない点など課題が残される。
現在、藤前干潟はラムサール登録湿地に指定されることになったが、環境省は名古屋市の要請によって「世界に誇るセンター施設」を約束し、市民の「渡り鳥の渡来地として、生態系のつながりを体感できる場」との考えの隔たりが大きく、本来の干潟保護・保全と行政の市民管理とのギャップに振り回された1年と聞く。
新アセス法の先取りとしての万博アセスでは、世界自然保護連合などによる「20世紀型の開発思考」への歯止めがされたかのように見えたが(万博アセスは第二日のシンポジウムで取り上げられる)、これだけアセスメントが関心を呼んだあとでも、設楽ダムではまたまたアセスは軽視されようとしている。設楽ダムは現在準備書が出される段階であるが、多くの問題を抱えたままに見切り発車がなされようとしている。これまでに学んだことを如何に生かすことができるかを、東海地方の事例を通して探ってみる。
藤前干潟や万博でえられた経験と教訓は、環境影響評価法のもとで定着し活かされていくのだろうか。この地方に実際に進行している事例を3人のパネラーを中心に紹介していただき、具体的に取り上げながら、それを検証してみたい。