八田耕吉
「知事意見」と「審査会議報告」とは同文、「新住」と「道路」の「環境部長意見」はその中から振り分けている。「準備書」と違うところは、「新住」や「道路」の「地域整備事業」に「環境への影響が大きい」としていたのが、今回は「新住」や「道路」からはムササビ、オオタカなどの項目が外れている。
「審査会議報告」に、「すなわち、本準備書では、計画の検討塾度を勘案して、計画諸元を基に予測・評価を行うことにより計画策定上の制約条件等を明らかにすることを意図している。」と具体性のない予測・評価に対して逃げを討っている。
「審査会議報告(知事意見、環境部長意見と同文)」を要約すると、追跡調査を実施し、必要(本文中7回使用)に応じて適切(17回)な措置を講じ、環境に配慮(20回)するとともに、十分(8回)検討し、極力影響の低減に努める(7回)こと。となる。
以下、「審査会議報告」の動物、生態系を中心に問題点を述べる。
「第2 検討結果」で、「十分検討し、その結果を「評価書」に記載するなど、対応を明確にすること。」、「評価書作成に当たっては、計画内容、予測および評価についてできる限り具体的に記述することや、…」などと書かれているので、十分「審査会議」の意見を尊重し、「評価書」には具体的な保全策や回避・低減の方法、代償措置が書かれなければならない。期待しよう。
「[1]共通事項」に、「万博」にのみB「複数案の比較検討等を通じて講じようとする環境保全措置等の妥当性を検証し、適切な措置を講じること。」と書かれている。明らかに「県」は新アセス法の前に決着させたい意向が感じられる。今まで「連携」をしてきたのであるから、最後まできちんと連携をすべきで、環境影響評価は3事業を総合して評価すべきである。
「新住」が万博開催のための土地造成等環境の改変を行うのであるから、一番環境影響評価が必要なのは「新住」である。
[5]植物、動物、生態系
E「オオタカの生息状況等に関する調査や保護策の検討に当たっては、…地域の実情に即した検討を行うこと。」、F「営巣中心域と見込まれる範囲においては、オオタカの生息に支障を及ぼすおそれのある工事は避けること。」、「営巣期高利用域と見込まれる範囲においては、工事に当たって…、その区域に適したオオタカ保護に配慮すること。」と書かれているのは、暗に徳山ダムの「猛禽類検討委員会」の結果を受けていると考えられる。徳山ダムでは「審査結果」後に、3年間の「追跡調査」を行ったにもかかわらず、イヌワシの営巣を指摘されるまで地域内にはいないとしてきた。その後も、「営巣域」を中心に調査範囲を狭く設定している。
オオタカの調査・保護に関しては、環境庁の出した「猛禽類保護の進め方」に沿って行うべきである。あくまでもオオタカを頂点とした生態系の保護・保全を前提とした調査・保全域の設定を行うべきである。オオタカのこの地域における個体群の維持は、採餌、デイスプレイなどの空間を含めた数個体の生息できる環境をまとまった形で保全しなければならない。勿論、上位性の種として位置づけられるオオタカが食する餌動物の現存量だけでなく、生産量の推定を含めた里山生態系としての保全目標を到達すべきであることは言うまでもない。
G「魚類に係わる注目すべき種の選定に当たっては、最新のレッドリストを踏まえ、…必要に応じて予測評価を行うこと。」と書かれている。
メダカ、ホトケドジョウ、カワバタモロコと思われるが、準備書には「注目すべき魚類として抽出したカワバタモロコは既存の調査において調査対象地域外(Bゾーン)で確認されているが、H10年の調査においても調査地域内では確認されなかったため注目すべき動物種リストから除外した。」と書かれている。川に生息する魚類などの保護は非常に難しく、上流および水源を含めた生息環境まで考えた保全を考えなければならない。大正池の水抜きがその下流の水生昆虫に大きく影響を与えている(5月29日のシンポで述べた)。名古屋瀬戸道路で見つかったイタセンパラをも含めて、関連事業全体の環境影響評価をしなければ、新しいアセス法を先取りしたとは言えず、万博アセスは従来型の細切れにした「アセスメントのがれ」をしたという汚点を残すことになるだろう。
H「屋戸川・寺山川流域の湿地を涵養する地下水の状況については、…必要に応じて湿地保全のための適切な措置を講じること。」
準備書の説明会において指摘を受けた(森山氏より)地下水の流れを考えると、上流部の土地造成や道路の橋脚工事(ボーリング調査をも含めた)による影響を免れる「適切な措置」は考えられないが、具体的な措置に何があるのか教えていただきたい。
[9]環境保全措置
@「必要に応じてサナエトンボ類、サワガニ等一般種の生息・生育環境条件や身近な自然の保全の観点にも配慮して行うこと。」
いい加減に貴重主義から脱却して生態系全体をとらえたアセスメントを行えとの市民から出された「準備書に対する意見書」を取り入れたことには(初めて私が書いた意見書の意見の一部が載っていることに感動を覚えるが)、一定の評価が与えられるが、「魚類に係わる注目すべき種の選定」でメダカなどが扱われるだけでなく、新たに確認された(以前から市民グループにより指摘されていた)クサナギオゴケや「意見書」などで指摘してきたオオムラサキ、オオルリボシヤンマ、コバネアオイトトンボなどの確認を行わなければ、オオタカの調査同様いつまでも不十分な調査との指摘を受けるだろう。生態系の調査において、環境指標性の高い蝶類やトンボ類の調査を行うことは、それらの生息環境の特性を把握することであり、「環境保全措置を講じる場合には」必要に応じて行うものではなく、必要条件である。
B「詳細調査を実施した注目すべき動物種に対する工事中の保全措置については、立ち入り制限期間、区域等を具体化し…」、C「代償措置を講じる場合には、、…当該工事着手前に効果を確認し、その結果を踏まえ慎重に実施すること。」とあるが、オオタカやゲンジボタルなどの保全措置で見られる「直接改変が行われないことから、影響は回避できる」といった保全措置では回避できるとは思われない。回避・低減措置の科学的な根拠を他地域での事例や代償処置の効果の証明を行ってから、相対的な評価ができる形で決定すべきである。少なくともAの植物において見られるような「保護上の観点からマーキングを行う」といった個体の保護ではなく、生育・生息環境を視野に入れた生態系全体を考えて「立ち入り制限区域」を決めなければならない。勿論「立ち入り制限期間」などといったものは、生態系や地形、地質などを含めた生息環境を考えれば存在しないであろう。