中国貴州省における水質汚濁防止対策
A water polluted prevention countermeasure in Guizhou Province of P.R.China
1.目的
現在、中国は日本の高度経済成長期をはるかにしのぐ工業化や市場経済化が進み、大気の汚染や水質汚濁は中国全土に広がり、中国西南地域の内陸部に位置する農村(興義市)においても1970年代の日本の公害列島といわれた時代を思い起こさせるほどの状態である。今後、中国の公害の発生をくい止めるためにも、日本での調査や対策技術を持つ数人の仲間ででかけ、公害先進国が歩んできた多くの反省を生かした技術を、環境に対する意識の改革をも含めて、中国の環境保護局との共同研究に生かしてきた。
川をきれいにするためにお金を使うという考えは農村の住民だけでなく行政機関においてももっていないので、川をきれいにすることによる効果が目に見えるようでなければならない。さらに大都市ではできない、市民レベルでの環境への取り組みとして水質浄化の必要性や環境の大切さを環境保護局の人たちと取り組む。
2.計画の概要
わたしたちは中国貴州省興義市において、1995年から飲み水の水源となる浅井戸や河川水、水源ダムと、興義市に流入する5河川の水質調査をおこなってきた。この2度の調査により水質汚濁の現状と問題点を整理し、興義市環境保護局との協議の結果、水質の大きな汚濁負荷の原因となっている地場産業の芭蕉麺(カンナの塊茎から精製されるデンプンによりつくられる麺)の工場廃水の浄化について共同で研究を行うこととなった。芭蕉麺の原料となるデンプンの製造工程で川の上流のきれいな水を使って汚しているために、川の下流に住む人たちが利用する水源の富栄養化を防がなければならない。と同時に、排水の浄化に当たっては薬品などによる化学的な汚染を防ぐことはもちろんのこと、コストが極力かからないこと、管理が容易なことなども考慮しなければならない。
環境教育の実践の場としての取り組みとしては、ただ単に汚染水の浄化だけではなく、汚染された排水の影響を稲などの青枯れ対策や土壌の改良について土壌や肥料学の専門的な知識を持ったメンバーを加えて調査をしてきた。更に、芭蕉麺の食品としての栄養価や性状などの分析をした結果を現地に持ち込み、しぼりかすの堆肥化や製紙化を通し、農村での循環型社会の見直しの取り組みをおこなう。
3.計画の重要性
現在ODAなどの国際協力が中国においても行われているが、北京や重慶などの大都市で進められている。しかし、大気の汚染や水質汚濁は中国全体に広がっており、汽車の通わない内陸部の農村においても着々と汚染は広がっている。製紙工場や食品工場などの汚染については、今後国や省レベルで解決する方向に進むことを期待できるが、小規模の家内工業などによる汚染に対する対策がなおざりにされたままである。中国の内陸部における河川の汚染は、下流の飲料用水源ダムの富栄養価を引き起こしている。
4.計画の緊急性
現在、この地域の地場産業として急速にひろがっているカンナの塊茎によるデンプンの製造は、その工程により出る排水により水源ダムの上流部を急速に汚している。汚泥の堆積やアオコの発生などにより、飲料水だけでなく灌漑用水としても不適な状態にまでなってきている。新たにでてきたカンナ芋の破砕カスの処理、工場増加に伴う水量不足、漂白剤使用に伴う化学汚染、水田などへの灌漑用水の汚染による青枯れ対策などを早く解決しなければ、一度富栄養化した湖を元に戻すことは更に困難である。
5.期待される成果
現在処理実験の結果をまとめて、具体的な実践プラントモデルを作り上げるため、海外での経験のある技術者を現地に3度派遣して、実験プラントを組み立てている。
水質浄化事業により水質汚染の拡大を防ぐことは、水源ダムの富栄養化対策として水をきれいにすることの大切さを示すことになり、作物の増収、灌漑用水の利用を進めることから、水質浄化の必要性を現地農民などにひろげていく手がかりになるだけでなく、ひろく市民への環境教育の場となるであろう。
6.これまでの活動実績
1995年8月〜97年3月、中国貴州省興義市環境保護局と水質汚濁の共同調査(3回)。
1997年5月より、中国貴州省環境保護局と「水質汚濁の負荷原因となる芭蕉麺工場の排水浄化の研究」を共同で行う。加圧浮上法などの浄化実験(3回)を行い、具体的な実験プラント案の作成のために浄化技術の専門家を派遣(3回)。
1999年3月より、排水が農地土壌に及ぼす影響調査(2回)。
「中国西南地域の環境問題I~V」、「興義市(中国・貴州省)の陸水」など10報、「中国西南部の大気と水質汚染の現状」など、学会・シンポで5報発表
7.活動の特色
1991年より1994年にわたって、「中国貴州省西南部の苗(ミャオ)族と布依(プイ)族の食文化」(名古屋女子大学生活科学研究所)の調査時に飲み水を中心とした生活環境調査(7回)おこなった。この4年にわたる調査により、貴州省興義市との信頼関係が強く結ばれた結果、興義市の環境保護局との共同調査の合意書を交わすことができた。
将来、環境への意識を高めると同時に、中国において現地の環境保護局と一緒に大都市ではできない、市民レベルでの環境への取り組みを進めていく。