「甦れ!里山」シンポジウム                  1999年11月7日

第2分科会「里山と生きものたち

 

ホットスポットとしての里山

−海上の森の場合−

八田耕吉(名古屋女子大学)

 

 1.海上の森の特性

A.都市に近い里山自然に対する無理解

愛知県全体の0.1%の地域に、県内の在来植物の約半分、鳥類や昆虫類の1/3以上が確認されている豊かな自然を形成している。

  B.多様性にとんだ生物相を育む環境

 海上の森は貧栄養湿地などの特異性の高い多様な植生環境をもち、いくつもの遷移の過程がパッチ状に入り組んでできた景観を構成している。

 C.歴史的、文化的、心理的な価値の評価がなされていない。

 2.里山生態系に対する誤った理解

  A.多様性に対する考え方の誤り

 特異性の高い集団がモザイク状に入り組んだ植生環境の駆け引きの結果として表れるもので、その境界に多様性を高める林縁環境を生み出すものであって、ただ単に種類数が多いとか、貴重種が多いというものではない。

  B.里山は多様な生態系の集まり

 里山は雑木林、草地、田畑、あぜ道、小川、湿地、ため池などの小さな生態系の集まりで、それぞれの生態系は非常に壊れやすい。 里山の成り立ちを「人の手を入れる」ことと勘違いしている。現在の大型機械などによる開発は時間、労作力、エネルギー量などスケールが違う。

  C.普通種が貴重種

レッド・データ・ブックなどで挙げられる貴重種とはただ単に珍しいとか、数が少ないといったものではなく、何らかの理由で生育・生息が危惧される種を選定し、警告を発しているものである。現在、日本に残された自然の多くは、里山で代表されるその地域特有な生態系であり、その特有な生態系を構成するごく普通な種の絶滅が危惧されている。

  D.地域生態系

 長い時間をかけて人と自然がつくり出した共存システムとしての里山は、その地域特有の生態系である。たとえ似た植生環境はつくり出すことができても、そこに棲む多様な生物相を再現することはできない。

  E.水域の保全に対する認識の無さ

海上の森を縦断する高規格道路や施設などが水系や動植物の生息などに大きな影響を与えることが予測される。湿地や地下水などの成因が十分理解されぬまま壊されると、復元することはできない。