025-1: おまけ。



 帰り道。結局袋ごともらってしまったキャンディを、またひとつ口へと投げ込む。
 ふんわりと広がる味は、やっぱり気に入りのものだった。
「あのですね。これ、どうして持ってたんです?」
 その甘さがそそのかしたのだろうか。並んで歩きながら、なんとなく質問の口が開いていた。
「買ったから」
 相変わらずケホケホと咳き込みながら、隣の相手はあっさり返してくる。しかしいい加減、喉も腹筋も痛いのではないだろうか。
 そんな彼に話をさせるのはどうかと思いつつ、呆れた声はとまらなかった。
「……いやまあ、そうでしょうけど。なんで」
「金で」
「そういう定番ネタは結構です」
 きっぱりと告げておかないと、また同じような答えが返ってくるのは明白だ。そして絶対に話もずらされる。
(こんなめずらしい機会、逃がしてなるものか)
 言いよどむなんて、なにかある。口の中でキャンディを転がしながら、しばらく言葉を待ってみた。カラカラとした感触が、微妙に気持ちいい。
「なんでだったかな……」
 どうやら根負けしてくれたようだ。足だけは的確に動かしつつ宙をみあげる彼の手は、ポケットのなかをさまよっている。
 この仕種は ―― アレだ。
「吸わない。よけいに咳でますよ」
「あ。そうだな」
 無意識にさぐっていたのだろう。取り出しかけたタバコは即座に元の場所にもどされた。
 この動きが照れ隠しだということに気づいたのは、いつごろだったろう。
 甘ったるい匂いは、すでにあたりへ広がっていた。
「おまえが好きだったなと思って、つい」
「つい、ですか」
 おもわず膝にガクリときた。照れてくれたのはともかく、なんと風情のない言い回しだろう。
「渡す機会があってよかったさ。喉、もう平気か?」
「ええ。でも、『つい』でふつう買います?」
 恨みがましく口を開けば、思わずガリリと飴を噛んでしまった。ちいさな欠片が完全に奥歯にひっかかったようだ。
「うるさいな」
 端を染めたまなざしが、ギロリと睨んでくる。
「なんとなく買っちまうんだよ。おまえ用にって……ゴホッ」
 おまえもそうじゃないのか?
 無言で問いかける瞳は、ぐっと丸められた背中ごと顔を伏せられ見えなくなる。けれど印象的な熱いまなざしは、一瞬でなお忘れられない。
 ドキンと胸が弾んだのは、いまだ慣れないせいだろう。
「えっと……」
 駅を目前に立ち止まれば、一気に滞る甘い空気。砕けたキャンディは、粘膜をひっかけながら溶けていった。
 そして、挟まっていた欠片も消えた。残ったのは、その甘さと匂いだけだ。
(なんだ、ちがってたんだ)
 おいらは持ってること自体がなんか嬉しいからなんだけどな。
 でもちょっとくらい違っても、幸せなことには変わらない。同じだと思い込みあってること自体も、むしろいい感じなのだから。
 くすっと笑えば、返されたのは咳。
「とりあえず、もう一粒あげますよ」
「サンクス。でもフルーツはやめてくれよ?」
 身体を折って咳き込みながらも、ニヤリと笑う。ドキドキはとまらない。
 袋からまたひとつ取りだして、まずは自分の口へ。
「あんたには、ドライハードがお似合いです」
 匂いだけなら、好きかもしれない。
 どうにも浮かぶ笑みをそのままに、鞄からブラックシルバーの包みを取りだした。

 こんなクールでホットな彼は、確かにミント。
 急速に広がった甘い清涼さは、いまのふたりの間には似つかわしかった。




どうということのない、ほのぼのさ。
蛇足でいいのさ、物事は。




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