おまけ



「っていう、夢みたんだけど……」
 変わらぬ部室の定位置で。和真は、いつもの相手へと話しかけていた。
「そうか」
「それだけ?」
 PCに向き合っていた男は、短いコメントしかくれない。非難がわりに、にじりよってその腕をつかめば。
「俺も、みたんだ。荒野を旅する夢」
 ふりかえって、深いため息をこぼしてくれた。
「それってば、おんなじの?」
「……たぶん。途中からはな」
 宙を見る目は、ほんの少し疲れがみえる。勇者ほどは人生、楽しめてないようだ。
「世の中、ふしぎなことってあるもんだね」
「なにの話だい?」
「あ、結城先輩」
 抜け穴から、もうひとり。ここの主が、ポーカーフェイスの微笑みであらわれた。
「夢の話だよ、ゆ・め」
 なんとなく疲れた口調は、親友を突き放す。
 しかしもちろん、そんなことでメゲる相手ではないのは、大前提。
「なんだ。なら俺もさ、ヘンな夢みたよー」
「どんなのです?」
 ついつい好奇心が、問いかける。
「えっとねー」
 ちらりと窺ったのは、もう一度ため息をついた相手の表情らしい。
「デカくて、すげえ薄暗い城でさ、なんかが来るのを待ってる夢」
「えっ?」
「ゲ」
 答えを発したものだけは、微笑み。他は、ひきつり。
 はじかれたように見交わした視線は、ばっちりと絡み合った。
「……魔王?」
 わずかに震えたその声は、完璧にハモっていた。

 目の前の人の微笑みは、より深まっていた。


おわり






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