2004 クリスマス・ナイト


 テレビをつければ、華やかな街並み。イルミネーションは、ウィンターシーズンらしく鮮やかだ。
 本当なら自分もあのなかを歩いていたかもしれない。
「クリスマスに風邪ひくなんて、最悪だぜ」
 リモコンでピッと、その世界は一瞬にして消された。
 真っ黒な画面からすら視線を逸らす恋人は、毛布と仲良くベッドの住人。
 ふてくされたそぶりは、体調をくずしてしまった自分自身への苛立ちだろう。
「でもおとなしくしてないと、治らないよ?」
「まあな……っと」
 ときおり咳き込む具合が、まだずいぶん苦しそうだ。
 リンゴを差し出せば、寝転がったままシャリっとかじりつく。
 よかった、すこしは回復してる。
 隣のダイニングには、あたためればすぐに食べられるだろう、クリスマスディナー。
 前から準備してくれていたらしい食卓は、でもいまの彼にはたぶん食べられない。
「伝染るとマズいから、あんま近寄るなよ」
「うん。でもだれかに伝染したら、早く治るんじゃなかった?」
「おまえが信じるか? 民間療法を」
 ちょっと詰まった声は、完全にあきれた調子だ。
「あんなん、誰かが発症したころにゃ、時期的に治ってるってことだけだろうが」
「でも……」
 看護士だからじゃない。なんでもいいから、早く治ってほしい。
 そういう感性、わからないかな。
「つか、おまえが罹ってても俺は困るの」
 じっと見つめれば、逃げる瞳。ぐっと伸ばされてきた腕は、明確な意図をもっていた。
「だから、離れてろって」
「やだ」
 離れたくない。だって、クリスマスなんだ。
 べったりとすがりつけば、押しのけるようにしていた腕も力なくシーツへ落ちた。
「なんのためのクリスマスだってんだよ」
 ひとり呟く調子は、どうにもぐずっている子供のようだ。
 楽しみにしてくれていたのは、知ってるよ。
 おおきすぎる図体も男らしい顔つきも、こんなときばかりはかえって愛らしく ―― いとおしい。
 想いのままに抱き寄せれば、腕はふわりと廻されてきた。
「……うわ。さすがに無理かよ」
「え?」
「ってことで、リベンジは年越しでな」
 ちいさな舌打ちとともに、彼は上掛けの端をめくった。そしてそのまま目は閉じられた。
「年越しでって……それ。あんた、まさか」
「そのまさか、さ。期待してろよ」
 目をみはる間もなく、ことばはすぐ寝息に取って代わられた。
 唖然。だが一瞬にして頬は赤く染めさせられた。隠すように空いた場所へと潜り込めば、シーツは十分にあたためられていた。
 けれど耳に残る声は消せない。
 ささやく熱っぽい息は、あの瞬間に似すぎていた。



2004-12 Merry Christmas !

風邪ひいて苦しいのは俺だって……。
時期遅れなのは、きっぱりそのせい。
あげく今年最後の更新かも、こんなんが。




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