きままな飲み会も終わり、風呂にもはいった。
 だからもう夜も更けたはずなのに、ダイニングの電気は煌々と点されていた。
「……まだ頑張ってんのか」
「うん! なんかシャクに障るから」
 覗き込んだ室内。元気に返す声に見返せば、卓上には食べ散らかしたさくらんぼの ―― 茎。
 へしゃげたり噛みちぎったりと、さまざまな変形を遂げたそれらに、目的の形を成すものはない。
「なんの役にも立たねぇだろうが、そんなん」
「あんたたちはできるからそう思うのっ」
「まあなぁ……」
 残っていたさくらんぼを一粒つまみ、口に放り込む。
 甘酸っぱい味は、けっこう好みだ。そうして咀嚼して、種を吐き出し。唇を尖らせた相手の前で、くだんの芸を披露すべく行動を開始する。
 10,9,8,―― 。
「……ったく、どうしてそう易々とするかな」
 ペッと吐き出した茎は、きれいに固結びされていた。それもちょうどセンターでだ。
「知るかよ。あいつらだってできたんだし」
「おいらが不器用なだけって。そう言いたいの?」
「そういう意味じゃねえよ」
 久しぶりに会った悪友とその相棒。その姿を脳裏に思い浮かべつつ、もう一粒口へと含む。その茎は目の前の唇へと挟み込んでやった。
「で、なに? おまえはそのネタをどう披露するワケ」
「そんなの食べてるときに見せるだけでしょ」
「……それで? キスも上手だよって誘うのか」
「なに、それっ!」
 ぎょっとした口は、そのまま弄んでいた茎をはみ出させる。
「そういうコトを示されりゃ、そう思うんだよ。バカ」
 だいたい口元をもごもごと動かされていれば、それなりにそそられるのが男心だ。
 濡れた茎を指先で弾きとばせば、不満げに唇は開かれる。だが覗いた舌先に喰らいついても、文句を言われる筋合いではないだろう。果物の甘さと植物の苦さが広がるなか弄ぶ舌は、思うがままに操れる茎と同じだ。
「……っていうか、キスだけ巧くなってくれりゃいいんだけど?」
「あんたの方こそバカだよ……」
 恥ずかしい。そうして照れたうなじは、テーブルに残されたさくらんぼと同じ色。胸に埋めるように隠された頬も、きっと。
「バカでもいいさ」
 たまらない愛おしさに、呟きながら俺はきつく腕で抱き寄せた。



イチゴを見ると、無性にチェリーが恋しくなります。
でも12月にはお目にかかれない……。




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