「え……?」
 まるく見開かれた目。そこにつらなる頬へと、そっと唇を触れさせる。薄暮の公園、その白い肌は、つないだ手とは裏腹に冷え切っていた。
「好きだよ」
 さっきと同じことばを、もう一度告げる。今度は低く、響かせるように。
 ゾクリ。震えた肩はためらうことなく抱き寄せた。
「すき? だれ、を?」
「おまえを。おまえだけを」
「どうして?」
 疑問は許さない。逆の頬へとキスを落とせば、ことばは封じられる。
「好きなんだ」
 すかさず畳みかけるのは、変わらぬ囁き。愛してるとは言わない。セリフはひとつだけでいい。
 軽く髪をゆらしてやりながら、黒い瞳を覗き込む。濡れた艶が静かに隠された。
 吹く風は冬のきびしさ。だが寄せた身体は。
 絶対に、逃がさない。そう思った。
「おまえを、好きなんだ」
 耳へと注ぐのは、声ではなく情熱。自分の唇を舐めれば、水音が闇にちいさく響く。
 かすかに落ちた吐息は、さあどんな色か。
 堕ちてこい、俺の元へ。
 ゆっくりとカウントを数える。互いにつないだ掌は、十分に汗ばんでいる。肩に置いた手は、髪へ。つづけて耳裏へと滑らせていく。
 そして小さな頭は、こつんと肩に預けられた。
「大切にするよ、ずっと」
 誓いは、嘘になるかもしれない。だが告げたい気持ちだけは、本物にしよう。
 やわらかに抱きとめれば、細い身体は逃げ出さなかった。
「ありがとう」
 そして、はじめて唇は合わせられた。





キスまでの手順は、意外と多い。




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