『Cherry in the kiss』
「なぁ、翔。チェリーの茎、口ん中で結べるか？」
「はぁ！？ なんだよ突然」
コーヒーを口にしていた神楽が怪訝そうな顔をする。
唐突な発言の主は目の前のパフェを見つめたままだ。
「オレさぁ、まだ一度も成功したことないんだよね」
結城は呟きながらさくらんぼを摘んで口の中に放り込んだ。
種を吐き出し、口をもごもご動かして格闘開始。
和真は興味津々と言った様子で結城を見ている。
相変わらず神楽は興味無さ気だ。
「やっぱダメだ」
数秒後、掌にぺっと吐き出されたさくらんぼの茎。
折れ曲がるまではいってるらしいが、全然結べていない。
「ほらな。・・翔、お前もやってみろよ」
「あん？ 興味ねぇよ」
「なんだ。お前も出来ないのか？」
結城が何か企む様な表情でにやりと笑う。
その横で和真も『先輩出来ないんですか？』と言いたげな表情。
「おまえらなぁ、なんだよその目は！」
「だってお前、絶対上手そうじゃん。アレ。なぁ和真君v」
「え？ アレ？」
結城の言葉に和真が頭に『？』を浮かべる。
そんな二人に呆れ顔の神楽に対して、結城の表情は相変わらず楽しげだ。
「たく、やりゃいいんだろ。これ、貰うぞ」
「あ、はい」
和真の返事より先に、神楽はパフェの受け皿からさくらんぼの茎を摘み上げた。
それを口の中に入れ慣れた仕草で口を動かし始める。
そして数秒後、神楽の掌にさくらんぼの茎が吐き出された。
その茎はしっかりと結ばれていた。
「やっぱ出来るんだ。・・・なんか悔しいよな」
「やれって言ったのはトモだろ」
「神楽先輩にこんな特技があったんですね」
「そりゃそうだよな。翔の家族全員出来るらしいからな」
神楽は結んだ茎を受け皿に返し、冷めてしまったコーヒーに口をつけた。
「ていうことはさ、翔の家族全員アレが上手いって事？」
結城がからかう様に微笑む。
「あの・・・結城先輩。アレってなんですか？」
「ん？ あれ、和真君知らないのかい？」
結城の言葉に和真が小さく頷く。
「あのね、チェリーの茎結びが出来る人はキッスが上手いんだってさ」
「ええ？ それってほんとですか？」
「さぁどうだろうね。試してみるかい？」
神楽が視線に気づいて伏せていた顔をあげた。
案の定、結城が意地の悪い笑みを浮かべていた。
「何言ってるんです、結城先輩！ そんなの試せるわけないじゃないですか！///」
「じゃあオレが試そうかな？ 翔、キスしよv」
「げ・・・冗談だろ」
結城が腰を浮かし、神楽に迫る。
次の瞬間、ドコッという音が店内に響き渡った。
「イテッ！ 酷いなぁ翔。本気で蹴りやがった」
他の客が振り向く中、結城は蹴られた部分を痛そうに撫でていた。
「冗談でも気色悪いから近寄るな」
「冷たいな。オレとお前の仲じゃんか」
和真は一人とり残された気分でパフェをつついている。
「俺はあいにくノーマルなんだ。ホモと親友になった覚えはない」
残りのコーヒーを全て飲み干し、神楽は伝票を手に立ち上がった。
「何？ 今日翔の奢り？ ラッキーv」
「んな訳ないだろ。・・・いつまで食ってんだ。置いてくぞ」
最後のフレークに取り掛かっていた和真がびっくりして顔を上げた。
そんな和真に構わず神楽が歩き出す。
慌てて掻き込む姿に苦笑しつつ、結城は和真が食べ終わるのを待っていた。
「綺麗に食べたね」
「待っててくれたんですか？ 神楽先輩行っちゃいましたよ」
「良いんだよ。あいつならあそこで待ってるから」
ふと見ると、神楽は店の外に立ってタバコを口に咥えていた。
外にいるということは、既に三人分の料金を払ってくれたということなのだろうか。
立ち上がろうとする和真の顔に結城の手が差し出される。
いきなりのことにびっくりして、和真は椅子に逆戻りしてしまった。
「和真君、口元汚れてるよ」
よく見ると、差し出された手にペーパータオルが握られていた。
「はい、鏡」
「ありがとうございます///」
結城は鞄から鏡を取り出し、和真に手渡した。
「ねぇ和真君。君達まだ清い交際中だったんだね」
「え！？」
和真の耳元で結城が囁く。
きょとんとする和真の様子に、結城は意地の悪い笑みを浮かべた。
「ほら、早くしないと翔のやつ怒るよ」
「あ、そうだった！ これ、ありがとうございました！///」
和真は慌てて立ち上がると、鞄を手に駆け足で店を飛び出していった。
「あの子はほんと可愛いね」
呟きながら結城は目を細めて微笑んだ。
椅子に置いてあった鞄を持ち、のんびりとした足取りで店の外に向かった。
なんとなく、実録？(笑) 特急仕上げ、ありがとう
それにしても、和真くんよ
目の前で人が蹴られても、パフェ喰ってるかね…
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