私とあなたは旅をしている。
「ハローナイツ、道を選んで」
深い森の中で私はあなたについてゆくだけだもの。
上を見上げれば緑のすきまに光の宝石。
さわやかなそこに不快感はないけれど、醜いものが少し恋しい。
「道なんてないじゃないか。あるのは木の生えた地面」
立ち止まって休んでいる、黒マントの男。両手を広げ、周囲を示す。
「ロードの話じゃない。ルートの話」
「つまり進路ってこと?目的地なんてないし、目的すらない」
じゃあなんで旅をしているのと聞くと、歩き出してしまったからさ、とハローナイツは言う。
「じゃあもう一度歩き出しなよ」
「まったく、そんなに二人きりが嫌?しかたないな」
もたれかけた木からゆらりと体をはなす。そして適当なところへ歩いていく。
「どこへいくの?」
「知らない」
私と出会ってからずっと、ハローナイツはこんなかんじだ。いや、出会う前もきっと。
「ねえなんであなたって、道を簡単に決めてしまうの?進路はこんな無限なのに」
私なんか、ハローナイツについていくかどうか、散々迷ったというのに。
「言うほど無限?」
「ええそうよ、一歩進むごとに360通り。スピードや歩き方も考えると、無限に近い」
「でも選ぶのはただ一つ」
「だからよ。だからなぜ、それをしっかり選ばないの?
このまままっすぐ行けば、アンラッキィになるのかも知れないし、今ならラッキィに引き返せるかもしれない」
ハローナイツは、そんな私をいつも、難しいよ、と評する。
生きていることが難しいのだから仕方ないと思う。
「いってみなきゃわっかんないだろー?」
「だからだってば。だからできるだけ考えるのが普通じゃない」
ついむきになる。
「わかった。じゃあ君が考えてよ、どこが幸福につづくのか」
「適当!私がいなくなったらどうするの」
「え?探す。」
そういうことを言ってるんじゃないの。
「私がもしもだけど、あなたに愛想つかせたらどうするのってこと。先に私が死んでしまう可能性だってあるんだよ。
探したってどうにもならない場合」
「なら僕も死ぬだろう」
「簡単に死ぬなんて言わないの!!」
「えぇ!!君が先に言ったんじゃないか」
女心って難しいな、とハローナイツが弱くこぼした。
「大体ね、僕は君と旅がしたいだけなの。どのようにとか、いつ、どこでなんて、そんなもの興味がないから適当にもなるさ。
僕にとって大切なのは君がいるかってこと」
私はあいた口がふさがらないって感じを味わった。
絶句した私をみて、ハローナイツはにやりと笑う。めずらしく調子がのってきたらしく、再び語りだす。
「そうだろ?うん。どんな風に進んでいって、どこで何が起ころうが、君がいるならすべてオーケィだし、いないなら何も感じない。
僕に不幸なんてありえないよ」
急にハローナイツが歩みを止め、こっちを見た。
優しい顔から、よりいっそう破顔する。
「君はいつ見ても深刻そうな顔をしてるね」
ほっといてくれ。
大体あなたがしっかりしないから私の眉間にシワがよるんだよ。
逆にいつ見ても幸せそうなハローナイツはこちらの気も知らず、私の頭に腕をのせた。
「いつか後悔しても知らないわよ」
「でも君はそばにいてくれるんだろ?」
笑う気配。そして言う。
「後悔しているのに気付かなきゃいいってこと」
ハローナイツの腕が離れて、頭が軽くなった。
きっと、腕をのせられる前よりも。
「いいことを教えてあげよう」
「なあに」
もうあきらめることにした。人生の厳しさに、彼は遭遇していないんじゃない。
気付いていないだけ。裏切られてもきっと気付かない。
彼に苦労は似合わないから。
名前も知らない私に背中を預けてしまうあなただから、私は後ろを守ろうと思うの。
「後悔をしないなら、どの道へ行っても同じなんだよ」