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語 録3

  弱いチームの監督として5年たった。そして昔気づかなかったいろんなことを勉強した。強いチームが作れなかったのは年のせいかなあ。でも男女同時に指導できてとても楽しかった。
  この間知ったこと、感じたこと、また反省すべき点がいくつかあった。ここに同志の諸兄にその想いを披瀝し、長年の厚情に報いたい。
昭和63年4月

  *これも優勝旗だ
 Xは今年始めから熱がよく出て学校をよく休む。あまりにも長期だ。あちらこちらの医者を遍歴する。欠席は続く。どうも精神的なものが原因ではなかろうかと医者も言い大学病院へ行く。一方カンセリングの専門家にも段取りをとる。スターテイングメンバーの一人だ。強く立派な人間を作るのが夢であったのにこれでは何ともならない。ある日の午後私は突然彼女を訪問し、「おまえがいないと先生はさみしいよ」と言い、そのまま学校へ連れてきてバスケをさせた。以後段々元気になる。一人の迷った子をみんなの協力で復帰させることができた。もしほっておいたら大変なことになっていたであろう。一人一人を大切に、その幸せを見つめて可能な限りの努力をすることだと考える。

  *怒り
 ある日の職員会のおり男子の 練習態度がとても悪かったとマネージヤーの報告、早速体育館の黒板にこんなことを書いた。先日N中へ練習試合に行った。コーチの先生が言った。「先生今の3年生は僕がいなくても真剣にやっています」と。とても羨ましく感じた。体格、運動能力に劣る者が勝利をおさめる道は意欲しかない。やる気のないチームからは何が生まれるか。下級生にマイナスしか与えない。Y中の男子は自らの努力で今花が咲いた。それは優れた先輩のお陰だ。ダメなやつは去れ。体育館が泣いている。本当は3年生全員外へ出したい。この日ユニホームを取り上げた。相当ショックを受けたよう。

  *強くなるには
 昔と全く変わった。以前は中学だけの勝負だった。大体平日のみで早朝練習もなく休日もあまりやらなかった。みんな同じ時間帯だった。現在では小学校での部活、社会体育の影響が大きい。また練習も早朝、休日、休暇、全く時間の競争のようだ。なかには学校体制を逸脱する部もでてくる。そこまでいかなければ突出することができない時代である。さてそこで部活は何のためにやるのかの原点の見直しが必要になってくる。

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  *フォーメーション
 毎年攻撃のフォーメーションで悩む。何とか勝ちたい一心で今年も教えている。しかし過去の戦いの場面を思い起こすと、フォーメーションで得点を重ねたのは僅少である。今年は一つのモデルとして教えるにとどめようと思っている。子供たちを自由に動かせた方が効果が大きいようだ。

  *何を教えるか
 バスケットを通じて何かを教えたいものだ。技術とかプレイではなく、彼らが生涯生きていく上での大事な何ものかを。別に意識しなくても、チームとして、部として、或いは各種大会を通じて、それぞれ貴重な何かを学びとってはいくが、それだけでは淋しい。間断なき教師の願いが心底にあり、時にふれそれらを話すとよい。基本的には教師自身の生き方の問題だろう。一人の人間としての真剣な生き様、たといそれが平凡であっても・・・・それらを通じて感得したことを語ってやる。いつかそれは子供の心の苗床で発芽し伸び出すでろう。

  *強いチーム
 強いチームを持っていると負けてはいかんという意識がいつも心中にあって辛いものだ。一方弱いチームは、練習試合を含めていつも負けているのでこれまた大変だ。チームの強弱は集まった人材の善し悪しにおうところが大きいし、ミニバスケの影響も無視できない。コーチとしては弱いチームの時ほど勉強するし、自分自身が鍛えられる。強いチームを指揮していると、自分が他のチームの監督より能力が高いなどと思い上がるのは、まことに見苦しい。

  *相手の立場を考えよう
 時に無理押しの練習試合をする人の噂を聞く。高校が大会直前なのに申し込む人、すでに組んであるのに強引に割り込む人。練習試合に行ったら突然別のチームがやってきてびっくりすることがある。なかには丁寧にその旨電話して了承をとる感心な人もいる。生徒には日頃礼儀など厳しく躾ながら己には甘い。こんなことではいけない。体育館から戻るとたまたまこんなメモが机上にある。「練習試合をしたいが都合はいかがか電話して欲しい」。バスケ指導1・2年目の素人監督からである。長幼の順を今更やかましく言うつもりはないが、何となく不愉快である。

  *眠れぬ夜
 昨夜は蒸し暑く、加えて練習試合のないようの悪さで眠りにつけなかった。夜半電気をともして作戦盤に向かう。2・1・2のゾーンが全然攻められない。単純なプレーのみでシュートを主体と考えていたがどうもそうはいかない。いくつかなフォーメーションを工夫。一つを決定。ようやく眠くなる。こんなことも来年はなくなる。(退職のため)

  *残念に思うこと
 よく練習試合に出かけた。早朝に部員を集め他校を訪れた。ところが生徒はいるが先生の姿が見えない。だいぶんたってから現れる場合がある。これは平素部員に精神訓話をしていることと矛盾しているのでなかろうか。私はかってそんな失礼なことをしたことがない.ある高校は校門のところでマネージアが待っていてくれる。そして万事誘導してくれる。部員のマナーも立派だ。こんなチームの監督は、ゲーム後私の話を聞きに来る部員の後ろで、真剣に話を聞いておられる。こちらも真剣に講評しなければならない。

  *練習態度
 厳しい雰囲気の練習、声のよく出ている練習を常に要求してきたが、私にはついにできなかった。チーム全員がコーチの目で仲間のプレーを注目し、矯正しあうことができたらよいなあと思いつつ。これは指導力指導法に問題があったと反省している。でも中学生だからいいんじゃないかという心情も意識の奥にはあった。

  *徹底
 強いチームを作るには全てにわたって徹底することが大事である。でも私にはなかなかそれができなかった。すなわち非情になれなかったし、またなろうとは思わなかった。プレーにしろ、マナーにしろ、選手選出、練習内容も悉く勝利を前提にしなければ、本当に強いチームは生まれない。しかし私の心中を常に流れたものは、中学校教育の一貫としての部活動でありたいとの想いだった。部員みんなをいつも喜んで参加させたい。学校体制を模範的に守りたい。こんな気持ちが多分にある。今にしてその考え方で良かったと確信できた。

  *学校の事情
 体育館にバスケットボードが10個を超える学校があれば、4個、いや2個しかない学校がある。要望しても設置してくれないところもある。なかには体育館とは名ばかりでバスケが十分できない気の毒な学校もある。立派な体育館だが使用する部が多く一週に少ししかつかえないところもある。条件の違い、メンバーの差など様々である。大会の結果だけで監督の批評をいとも簡単に言う校長さんがいるようだが全く見当はずれである。

  *来年のチーム
 64年度はT中としてはもっとも強いチームが誕生する。ガード、フォワードが短身だが、一応トップレベルのチームとして注目されるであろう。また女子チームも2年生ながらセンターとしてスタメンだった子もおり、ファイトあるチームなので期待がもてる。私も後継者にこのチームを託せれることを喜ぶ。できたら夏の大会を応援してあげたい。

  *新しい時代
 5月5日隣県のN 中へ行った。昨日3年生全員をやめさせたとのこと。事実1・2年しかいない。部室でマンガを読んでいたからだそう。はるばるT大橋を渡ってここまで来たのに3年生がいないとは。しかしゲームっをやって驚いた。こちらの3年生主体のチームが勝てない。必死になって戦う。相手メンバーが次々変わる。1年生が常に出ている。まだ中学生になって間もない子たちが。まだ入部さえしていない学校もあると言うに。だがそのプレーは1年生とは思えない。10何年前の東海大会で静岡のチームと対戦した時のことを思い出した。メンバー交代で小さい子が出てくる。プログラムを見ると1年生と書いてある。この子が守るとうちのガードはボールが運べない。攻めては1対1を簡単に破って得点する。これからは中学バスケも変貌するぞと当時思った。
 (この相手チームの1年生、ミニの全国大会優勝メンバーと後で知る)

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