第15話  7秒の悲劇

 3度目の県大会優勝戦どんなことがあっても勝ちたい。バスケを始めて8年目、第1回目の挑戦は2年目ダブルスコアで敗れた。2回目は5年目これも少し点が離れた。
 いよいよ常勝北稜中との対戦。昭和48年度エース加藤孝子を擁して不運にも1回戦に敗れた宿敵、以来不敗を誇っている。6月の全中の県予選でも2点差で県2位に甘んじている。
 ところが副キャプテンの後藤(高蔵高校進学)が準決勝戦で足を捻挫し決勝戦には出場させなかった(当時はテーピングはなかった)。しかしみんな健闘し前半リードされたがよく追いつき、奇しくも全中予選と同じ1点差で前半終わる。後半一進一退のデッドヒート、残り5分で先行するがすぐ追い上げて来る。
 1点差でリード残り10数秒、とうとう念願の優勝ができるとの想いがよぎった。とたん「ピー」と笛、ファオル、相手側だ。時計は残り7秒。「よしこれで勝ちは不動だ。」この素晴らしい場面に足を痛めた後藤を登場させてやりたい。「後藤、副キャプテンとして7秒間やれるか」「はい、やれます。」彼女はドリブルが得意だ。7秒なら十分逃げれる。
 試合再開、スローイン、後藤ボールを受けローリングを始めた。「ピー」また笛、当然相手の反則と思ったが後藤の反則。考えられない笛だ。露骨と言えばこれほどのものはない。尾西と名古屋代表の試合に、審判二人とも名古屋、ついにフリースロー、一瞬に優勝は幻と消えた。
 ゲーム終了後副審の人が「先生、気の毒だったね」と慰めに来てくれた。
多くの他校の監督さんたちも同情してくれた。誰が見てもおかしな判定で地方の名もなき監督のチームの勝利を望まない主審の不公平に腹が立った。
 あの場面で怪我をしている後藤を起用したことに問題があるかも知れないが、教師として最高舞台を体験さしてあげたいとの考えは正しかったと今も思っている。