このコーナーでは当クラブ会員の方にご協力いただきグラント便個体の取り扱い・その魅力についての記述をご紹介いたします。初心者の方はもちろん多くのマニアの方に参考にしていただけるものと思います。


T トリートメント水槽の必要性

一言にワイルド物と言っても一旦、ワンストックされているヨーロッパ・アメリカ便個体と異なりグラント便個体の場合、その取り扱いには注意が必要です。私もそうですがJACCの多くのメンバーの方は通販を利用されていると思われますが現地から日本まで約3日間。その上、体力の回復もままならない状態で更に1〜2日の輸送時間というのはいくら強健な彼らであっても生死ぎりぎりの状態であることは言うまでもありません。そこで私はトリートメント専用の水槽を1本常設しています。
新着魚を水槽に入れる場合、温度合わせのため、しばらくは袋のまま水槽内に浮かべてから投入というのが定石ですが私の場合、極端な水温差が無い限り到着後、即個体のみを網で掬いトリートメント水槽に投入します。私のトリートメント水槽は60×45×45の上部濾過式で、濾材は骨サンゴとエーハイメックにウールマットを薄めに敷いています。
水換えは1週間に1度、半分づつ。その都度、カルキ抜きに加えアクアセイフを添加。phは重曹を用いて8.3〜8.5程度に調節しています。



U 給餌

新着魚の場合、負担の軽いフレーク状の人口飼料を少量与えることから始めます。その時点ですぐさま餌に反応する個体はその後、徐々に餌の種・量ともに増やしていけば良いのですが稀に中々、餌に反応しない個体に出くわすこともあります。その場合は焦らずゆっくりと水慣れするまで待つほかありません。
Hapsは元来、属により食性の違いが様々なことはご承知の通りですがタンク飼育においては、およそ殆どの種で餌の選り好みはしないことが通常ですし、また経験上、選り好みをする個体の場合、残念ながら充分な成長が見込めないことが多いように思います。
餌の種ですが昔から色々、試してきましたが餌の違いによる極端な成長度合の差は確認出来ておらず、そのため現在のところはクリルと人工飼料を交互に与えています。





V 病気

新着魚はトリートメント水槽で最低1ヶ月は様子を見ますが投入直後、元気そうに見えても1週間ほどして白点病・コショウ病等の発症が見られることが間々あります。この病気は決して侮れないもので以前、すこぶる調子が良さそうに見えた新着魚を1週間足らずで混泳させた結果、その水槽全体に白点病・コショウ病が発症。数匹の犠牲を出してしまったという苦い経験があります。バクテリアが充分に機能し、いくら調節した水とは言え現地の水質と全く違うことは明白で彼らの類い稀なる環境適応能力を持ってしても、やはり1ヶ月は単独飼育が必要かと思います。
白点病・コショウ病の治療にはマラカイトグリーン液を適量使用することで、まず間違いなく完治させることが出来ます。とは言え早期発見・早期対処が肝心であることは当然で特にこれらの病気は発症から感染に至るまで、かなりのスピードで進行するため充分な観察が必要です。




W 日常管理

泳ぎ方、餌喰い共に飼育者から見て問題が無いと思われる状態になれば混泳可能です。ただ病気の項で記述した通り見た目はそうであっても、ある程度の日数を経過した段階で病気発症の可能性があるため、やはり投入後最低1ヶ月のトリートメント期間は必要かと思われます。スペースの関係上、これ以降の飼育に関して、ここでは記述するに至りませんが長年、彼らと向き合ってきて彼らの飼育で最も重要なことは何と言っても徹底した日常管理がすべてだと思います。
特に種に関わらずテリトリー意識の強い彼らを混泳させ、それを長期維持することは決して容易なことではなく、ましてそれが成長段階の個体達の場合、強弱関係は目まぐるしく変化し極端に弱い立場に追いやられた個体や逆に手が付けられないほどの傍若無人ぶりを発揮する個体が出た場合は必要に応じて隔離しなければならず、そのためにもトリートメント水槽(=隔離水槽)は必須アイテムとなるわけです。
また経験上、彼らの突然死というのは極めて稀で日々の管理、観察が徹底していれば必ずその原因となる兆候を発見することができ同時に適切な処置を施すことによって最悪の事態はおよそ回避可能なことも付け加えておきます。


X グラント便の魅力

88’、JACCの前身、鶴見水族館が日本のShopとして初めてグラントファームと直接取引して以来、私はグラント便個体に魅了され現在に至っています。
グラント便のようなダイレクト便で日本に入荷される魚達のすべてが長時間の過酷な輸送に耐え無事日本に到着することは、まずもって有り得ないということも事実であり、また幸運にも生き長らえた魚達とて現地の水とは全く違った水で、しかもあの広大なマラウィ湖とは比べ物にならないほどの狭いスペースに閉じ込められることを考えると私は自分の手元に届いた彼らに対し愛おしささえ感じます。
新たにタンクメイトとして向かえる点では他便個体同様の扱いは許されない彼らですがグラント便ならではの入荷バリエーションの豊富さと、そして何より情熱と愛情を傾け育て上げた暁に彼らが魅せる比類なきワイルドブルーに私は未だ興味が尽きません。





今回、店長の佐藤氏の依頼で私の拙い飼育環境の一端を紹介するに至りましたが、これから本物の現地採集個体の飼育にチャレンジしようという方、併せて私同様、彼らを心から愛して止まないマラウィマニアの方々に多少なりとも参考にして頂ければ幸いです。