勝利宣言




「どうしたんだ。それなりに経験あるんだろう?」
 ベッドの背に凭れながら、小馬鹿にしたように嗤ってやれば、相手は一瞬くやしげに顔を歪め、吹っ切るように足下に体を伏せてきた。

『どうして、おいらがまるで経験ないって決めてかかるんだよ。おいらだって、それなりに遊んできたかもしれないだろ。他のバンドのヤツと連んでた時期もあるけど?』

 売り言葉に買い言葉。しかし、カッと来てしまったのも、相手がこいつだからであって、ならその経験とやらを出し惜しみせずに見せてくれよと挑発すれば、数度連れ込んだことのあるファッションホテルへと珍しくも相手のリードで入った。
 部屋を選ぶときの慣れないパネルのボタンを押す指に、つい見透かすような冷笑を浮かべてしまったのは我ながらタチが悪い。

 しかし、ぎこちない手つきで俺のシャツのボタンを外し、赤らむ頬をうつむかせジッパーに手をかける姿には内心、喉が鳴りそうだった。
 それでも、傍観を決め込んでいると、相手は観念するように眼を一瞬瞑り、取り出したものをその小さな唇に含んだ。
「ぅ……」
 慣れている振りを装うためか、すぐさま舌を絡めてくる。
 しかし男性にしては小さすぎる顎のなかでソレを扱うには、どうしたって苦しげだ。
 どんなにがんばったところで、その必死さがかえって慣れぬ行為であることを示しているのは丸わかりだ。
(ヒデェことしてるよな)
 恐らく初めて。俺もまだ、こんなコトさせていない。行為の最中、戯れに握らせるだけでも羞恥に息を詰めるような相手だ。怒張した男のモノをくわえるなど、まだまだためらいがあるはず。
 しかもそれは、まだ持てあまし気味に彼の体を苛むモノ。しかし……
(タマラナイ)
 どこかしら清純そうなイメージだった想い人が、その頬を歪め必死にそれを頬張っている。 
 だから、こちらも自制が利かなくなっていく。
「っ! うぐっ」
 その柔らかな髪を掴み、無理矢理喉奥を突いた。その行為に加虐性に火がつき、何度も腰で抜き差しを繰り返した。
「っっ」
 掴んだ髪を乱暴に引くと、反動で相手が喉を仰け反らせ、計算したタイミングで引き抜いた。
「!!」
 小作りに整ったその貌に、濁ったモノを撒き散らす。
 吐き出す行為にこれほど、倒錯的ヨロコビを感じたことがあったろうか。
「どうした?」
 汚れた頬を拭うことも出来ず、身を強張らせている相手に、何でもないことのように声をかける。
 しかし意外なことに、彼は一瞬堪えるように唇を噛むと、瞼にかかった分の精液だけ指でぬぐい取り、気丈にこちらを見返してきた。
 その瞳の色が滅多に見ないほど鋭く、一瞬見惚れる。

 ドウヤッタラ、泣カセラレルダロウ

 見たこともないくらい、身もよもなく。
 許して欲しいと、もう耐えられないと。

(だが、ここで俺が抱いたらコイツの思うツボってな)
 まんまと、誘われてはやらない。それでは、言ったことの撤回にはならない。
「まさか、これで終わりじゃないだろ? これくらい、興味津々のガキでもするよな」
 そうだろう? と微笑んでやれば、相手は諦めたように俯き、戸惑いがちに身を寄せてきた。

 普段の無邪気さからは思いもよらぬほどプライドが高く、負けず嫌いな彼。
 だからこちらは、よく油断してしまい、痛い眼を見る。
 そのたびこの屈辱感に、征服欲が火をつけられることを、彼は知っているのだろうか。
(知っているから怖いんだよな……)
 鈍感な癖に、怖いほど聡い。無意識な振りをしてハメテくる。

 だが、お前は気づいてるだけで、けしてわかってはいない。
 お前がどれだけ、俺に食い込んでいるかを……。  





「ふっ うッ……あぅッ」
 自分の上で踊る白い肢体。下から見上げるくねる腰が、これほど淫猥に見えたことはない。
 ぽたぽたと滴を垂らす彼の性の象徴が、救いを求め喘ぐ魚のようだ。
 しかし同じように、止まらぬ喘ぎに息も苦しげな貌を縁取るのは、涙。
 時々、痛みか過ぎる快楽の為か、動きが鈍くなる腰を、示唆するように腰を打ち付けた。
「はぁっ ヒィッッ」
 ズンッと突き上げられ、声にならぬ声に震わせた喉を一筋の涙が滑り落ちる。
 一瞬遅れ、その清らかさに反した下のクビは生々しく飛沫を吐き出し、二人の腹を汚していった。
「まだだ……」
 僅かに口元にまで飛び知ったソレを舐めとり、続きを促すように鷲掴みした腰を揺すり、双丘を揉みしだいた。
 ぼろぼろと、すでに乾いた精液に汚れた頬を、止まることなく透明な滴が伝い落ちる。
 涙と涎に顔をぐちゃぐちゃに歪め、それでも相手は必死にただただ腰を揺らす。
 もはや、なんの為に自分がこんなことをしているかは、彼の中では意味をなしていないだろう。

 その姿に、ようやく赦しを与えてやれる気がしてくる。
「自業自得だ」 
 意味をなさない勝利宣言。

 お前が、煽ったんだ。変な意地を張って、自分が言ったことの、意味を理解しないで。
 もし、それが本当だったら、どれだけ俺を壊していくかも知らないで。
 これは忠告。万が一にも、他の誰かがこの体に触れることがないように。

 お前に教えることの出来ない敗北宣言。 




by さいが請(たびねこ横丁)サマ



LIEBESTRANK ver.はコチラ


「翔と和真じゃ、エロにならん」
そんな挑発に乗ってしまった和真サマから。
勝利か敗北かは…謎。




≪≪≪ブラウザクローズ≪≪≪