軽井沢氷まつりと皇太子ご夫妻
1987.1.26
一度軽井沢の氷まつりを見てみたいと思っていたが、やっと実現した。雪をいただいた浅間山が青空にくっきりと映えるのが、車窓から見える。いつ見ても美しい。軽井沢駅に着いたときは、もう午後4時をまわっていた。コ―トの襟を立て、さっそく会場へ向かう。途中、池に氷が張ったような素朴なスケ―ト場があり、小学生のグル−プが滑っている。会場の入口に氷の彫刻が並んでいる。翼を広げた鳥は迫力があり見事な出来栄えだ。透明な裸婦も新鮮な感じがする。通りに沿って、このような高さ3m以上もある作品が競い合う。今年のエトにちなんで、ウサギをテ―マにしたものが多い。本当に美しいのは氷の教会で、いかにも軽井沢らしい。それにしても、どのようにして完成したか、その過程を見てみたいものだ。
一巡して駅に戻るとパトカ―や警官が大勢いる。どなたがお見えになるのかと若い警官に尋ねると、言いたくなさそうに一呼吸おいて「皇太子さま」と小さく答えた。そういえば明日から冬の国体だ。それならばと、帰る予定を遅らせて報道陣の真横で待機することにする。テレビなどに写らないためだ。お迎えの人はせいぜい
100人たらず。最近は人垣の前に婦人警官が立つ。反対側に中電の軽井沢営業所長などが一列に並び、手をこすりながら到着を待っている。待つこと15分、皇太子さまのお顔が見える。初めてお目にかかるのだが、いつもテレビなどで拝見しているので、「やあいらっしゃい」という感じになる。つづいて美智子さまが登場される。白い上着に黒のスカ―ト。一瞬、この小さな駅が明るくなった。立ち止まって二つの方向に会釈をなさる。誰もが自分に対してと錯覚し、思わず頭が下がる。車の前でもう一度会釈をされてスッと車に乗り込まれた。この静と動のしぐさと、表情の洗練された美しさは忘れられない。ていねいに車の窓ガラスをおろし、もう一度手を振られた。期せずして「お風邪を召さないで……」という小さな合唱になった。黒塗りの車の先の濃い朱色の皇太子旗がゆっくりなびいた。
気がついてみると軽井沢の5時は底冷えがする寒さだ。近くのコ―ヒ―店「旦念亭」で手づくりのレア―チ―ズケ―キとコ―ヒ―を注文する。暖炉の揺れる炎と、ケ―キに添えられた桑の実のジャムの味が心に残る。翌日の新聞にこの日の写真はなかった。これくらいでニュ―スにならないのが軽井沢なのだろう。