小沢征爾「森のオ―ケストラ」 1986.7.19

 

 1カ月ほど前に、小沢征爾さんが奥志賀で演奏会をするという記事が朝日新聞に掲載されたので、さっそく申し込んだ。主催は奥志賀高原常会で、この企画は、小沢さんが昨年12月奥志賀高原に別荘を建て、ここの住民になられたのがきっかけとのことである。題して「森のオ―ケストラ」、会費は千円。

 せっかくの機会だからと妻と娘も呼んだ。小雨のなか、19時半ごろ会場の奥志賀高原レストランへ着き、オ―ケストラの右最前列に座った。メンバ―は意外にも30人ぐらいと大勢だ。20時の開演前に小沢さんが現れ、練習時間がとれなかったので今からやらせてほしいと言われた。写真撮影は演奏中以外ならOKという。小沢さんはリラックスした白の上着で、胸に小さく蝶のマ―クが入っている。森英恵のデザインだ。朝から小学校などで2度も演奏したそうで、声は気の毒なくらいガラガラだが、話しぶりやしぐさは若々しい。テレビの「オ―ケストラがやってきた」などで気さくな感じは知っていたが、こんなに近くから親しく話されると感激する。

 本番は、おなじみの「アイネ・クライネ・ナハトムジ―ク」から始まった。指揮者の鋭いまなざしに、娘が「どうして、あんなこわい顔するの?」と小声で尋ねた。弱い音のときは外の雨音が聞こえ、ロ―カルな演奏会の不思議な趣がある。さらに「ラデツキ―行進曲」などがつづく。後半は楽器の紹介や「おもちゃのシンフォニ―」など、子供たちにも楽しめるように進行する。楽器紹介では、ファゴットのピ―スなどを順につないで、音が変化する様子を示すのや、タンバリンの妙技が娘にうけた。「さすらいのトランペット」の冒頭では、部屋の外からトランペットの音がして、びっくりさせられた。花束が贈られてからアンコ―ルがつづく。「昨夜キャンプ場でやってきた」と言って、ミュンヘンのビアホ―ルでよく演奏される曲を演奏した。小沢さん自らも楽員のなかに入って太鼓をたたく。「夜通しやってますから、お帰りのかたはどうぞ」「題名が読めないからペ―ジ数で言って!」「せっかくここまでうまくやってきたんだから、あと少しがんばろう」などと親しみやすい語り口でお客を楽しませてくれる。最後の曲は「この良き日に」だった。

 今日の演奏会を一口でいえば、「音楽を楽しんでください」という小沢さんからのメッセ―ジだった。美しい音楽とともに、小沢さんの洗練されたユ―モアと素顔の温かみを直接味わうことができ、すっかり満足した。ただ、写真撮影のほうはストロボがきまぐれに作動し、結局
1/3ほどしか写っておらず、かなり欲求不満である。それでも、後日いただいた色紙にこの日の1枚を張って飾っており、ときどき眺めて思い出している。

  
当日の小沢征爾さんの写真を拡大してご覧ください。