志賀高原たけのこ狩り
1985.6.22
普通の、竹薮に入って土の中のたけのこを掘るのとは全然ちがう。背丈以上の根曲り竹の繁みに分け入って、地表の若芽を折り取る作業である。なにしろ道のない繁みに強引に突入するのだから、かなりの勇気を必要とする。気合いを入れて中へ入る。足元が滑りやすく尻餅をついたり、かき分けた竹が弾みで戻ったりして、危険きわまりない。だが、太いたけのこがいくつも見えると夢中になってしまう。だいたい梅雨時でもあるし、繁みを出る頃には泥んこでズブ濡れである。晴れた日でも土埃まみれになる。それでも、背中にナップザックいっぱいの獲物をかついで山を下る時には、つい先ほどの悪戦苦闘を忘れてしまい、壮快である。この感じは、どうみてもスポ―ツである。
奥志賀高原荘へ戻ってからは、手分けして皮をむき、焼物とたけのこ汁の支度をする。みんな上手に庖丁を入れ、慣れた手つきで皮をむく。少し長く伸びたものの先を採ったのは、緑が美しく節目の薄い色との濃淡が絶妙で、絵にしたくなるくらいである。それに、こういうのは風味があって特においしい。たけのこ汁には鯖缶を入れるが、鯖の油っぽさと、たけのこの淡泊さとが巧みに調和して良い味になる。とにかく、腹がゴロゴロするぐらい、つい食べ過ぎてしまう。今や年中行事となって、たけのこ狩りを済まさないと、長野に夏は来ないのである。
小谷
(おたり) 村の山菜採り 1987.5.1
5時出発。メンバ―は中谷・二本松・轟さんと私の4名で、中谷運転手のワゴン車に乗り小谷村へ向かう。ワゴン車での山菜採りは業者っぽい感じでやや気がひけるが、ゆったりしていい。鬼無里から白馬へ行く途中、トンネルを抜けた途端に北アルプスの山並みが開けた。山の青、残雪の白、芽吹きの薄緑の対比が美しい。「山の青が赤なら松阪牛の霜降り肉だ」などと思ったりした。姫川の発電所の近くから西へ入り、どんどん登ると、道路に雪がたくさん積もっていた。強引に雪道に突っ込んだら滑って側溝に輪を落とした。みんなで押し出す頃には小雨が降りはじめ、「いやはや」のため息となる。結局、「雪止まり」ということで、この先は歩いて登ることにした。
今日はメ―デ―だが、タラの木を見かけても、ここは芽―出―になっていない。里の桜は早かったが山の春は例年とあまり変わらないようだ。道の両側には黄緑色のフキのとうがいっぱいある。どうやら、この山菜採りはフキ採り物語に終わりそうな気がしてきた。先達のご案内で山ウドがいっぱい生えているはずの斜面へ行くと、ウドの代わりに雪がどっさりとあった。それでも、枯葉をたよりに少し掘ってみると、赤紫色の芽がスタンバイしていた。そこにあることは証明されたので、今後の成長に期待をかけ、そのままそっと土をかけた。
コゴミはたくさんあった。道の山側の斜面に登ると、太くて、同時に頭を持ち上げたようなのがいくつもある。輪になって踊るバレエの一場面のようで、むしりとるのが残酷な気がして、最後の瞬間をカメラに収めてから採った。
順に下った。春の小川が雪溶け水をさらさらと流す。飲んでみると、すこし苔の香りがしたが、冷たくてうまい。清流にセリが群生している。一つつまんでみるとクレソンだ。かじってみるとピリッとする。中谷さんは、これまでずっと、これをセリだと思いこんでいたそうだ。野生のクレソンを初めて見て感激したが、持ち帰るのはやめた。妻が、「これに合わせてステ―キを用意しなければ……」と思うといけないから。
さらに下ると、小川の両側に野生のワサビがいっぱい白い花をつけていた。見ているだけでも、童謡の世界のようにのどかな風景で、うれしい。この頃には、すっかり雨は上がっていた。中谷さんが道路の方を見て「アッ」と言いながら顔をこわばらせた。見るとカモシカだ。カメラを向けようとすると、恥ずかしそうに反対側の崖下へ逃げた。二本松さんが話題に遅れないようにと駆けつけた頃には、早くも谷の向こうの斜面から振り返り、お別れの会釈をしていた。これで、カモシカを見たのは3度目になる。カモシカさんも今日は山菜狩りだったのだろうか。
見晴らしのいい所で昼飯にした。私の献立は、鮭入りからしマヨネ―ズとシ―チキンのおにぎりにウ―ロン茶だ。おにぎりは、なぜか7時前から営業しているセブンイレブンで買ったもので、野菜不足だが、山菜採りだからビタミンは目から吸収すればいい。とにかく、天井のないところでの食事はうまい。ただ、山ウドのためにと轟さんが用意してくれた味噌とマヨネ―ズがむなしかった。
午後の部はウドとタラの芽を重点目標にし、もう少し低地へ移動した。ウドに似た葉がよくあるが、本物は茎にうぶ毛があるとのことだ。そのうちに轟さんが見つけた。みんなが駆け寄って見ると、さらに何本かが見つかった。崩れそうな斜面にへばりついて根を掘った。獲物を集めると30本ほどになった。ここで待望の味噌マヨの出番だ。持参のナイフで泥のついた茎の皮をむき、味噌やマヨネ−ズをつけて豪快に丸かじりをした。「おいしい!」の連発だった。本当はワンカップがほしいところだが。
もう一つの目標のタラの芽は意外と簡単に見つかった。沿道で数本見つけ車を降りて見ると何本も視界に入る。これだけあるとワクワクする。指を何度もトゲに刺され、腕や足をひっかきながらも夢中になった。
帰りに、また雨が落ちてきた。七二会(なにあい)のおやきセンタ―でホカホカのおやきを食べ、村おこしにいくらか協力した。皆さんのおかげで、新緑に包まれた山村の自然に浸ったうえ、フキのとう・ツクシ・ヨモギ・コゴミ・ワサビ・ウド・タラの芽などの自然の恵みを頂戴することができた。この連休には、これらの山菜が多彩に食卓を飾り、口のいやしい私にとっては、このうえないゴ―ルデンウィ―クになった。