私の庭「志賀高原」

 

 「志賀高原」といえばスキ―しか知らなかったが、夏の涼しさや高山植物など四季折々の美しさにひかれるようになった。「奥志賀高原荘」と「木戸池荘」と二つの憩の家があることにもより、家族連れや教育などでここを訪れることが多かったが、一人でもよく来た。長野から近いので天気を見ながら出かけ、ペンタックスを友に歩きまわり、今では課の皆さんより詳しいのではないか、と思うことがある。その意味で「志賀高原」は私の庭であった。

 歩いた主なコ―スは次のとおり。

 
戸池〜信大自然教育園〜蓮池
 
このコ―スは季節を変えてよく歩いた。田ノ原湿原、日影湿原、わたすげ平などの湿原は、春から秋にかけて日毎に表情を変える。シダがむっくり頭を持ち上げる。紫色のヒオウギアヤメがそろって咲く。ワタスゲが陽に当たると一面まっ白に浮かび上がる。夏には朱色のコオニユリが背高く咲く。小道にはツツジや白っぽいハクサンシャクナゲが上品だ。秋のはじめに咲く薄紫色のマツムシソウもいい。

 木戸池〜ひょうたん池〜渋池〜四十八池〜大沼池
 
ひょうたん池の水際のミズバショウ、渋池のモウセンゴケ、四十八池の静けさの広がりが良い。暗がりのヒカリゴケも珍しい。

 木戸池〜石ノ湯〜蓮池
 
田ノ原湿原、幕岩渓谷の紅葉がよい。

 蓮池〜琵琶池〜地獄谷〜上林温泉
 
道をまちがえ、バス道路を意地をはって長時間歩いた。猿のこどもは、いつまでも見あきない。

 高天ケ原〜一ノ瀬
 
この遊歩道は老人でも散歩でき、変化がある。春のミズバショウもいいが、夏に咲く黄色のミズギクの群落がいい。雑魚川の清流にイワナが泳ぐ。

 
東館山高山植物園〜高天ケ原
 
この高山植物園は種類が豊富である。夏の期間には実直そうなご老人が、一つひとつ名前の由来などもまじえ、丁寧に説明してくださる。夏には濃い赤紫色のノアザミ、薄い赤紫色のヤナギラン、巨大なシシウドなどが似合う。これとは対照的に「忍ぶモジズリ誰ゆえに……」とうたわれるネジバナは、ピンクの花を身をよじるようにつけ、かれんでいい。

 硯川〜笠ケ岳〜山田牧場
 
霜柱を踏みしめる。下りが急だった。

 山田峠〜万座温泉
 
笹原で開けた風景だ。

 渋峠(山田峠) 〜芳ケ平〜白根火山

 奥志賀高原荘でいただく山菜もうまい。春から初夏にかけてのフキのとう、ウド、タラの芽、タケノコ、行者ニンニクなどや、秋のマイタケなどのきのこが多彩である。ここでは、瓶詰や冷凍など、管理人の豊岡さんの工夫により、年中食べられるのがうれしい。みんな好きだが、とりわけフキのとうや行者ニンニクは酒が進む。

 新入社員研修での思い出も結びつく。6時に起きて散歩すると寒さで身がひき締まる。小鳥の鳴き声が騒がしいほどに響きわたる。5pほどにも伸びた霜柱が朝日に当たって溶けはじめ、カソッカソッと春の調べを奏でていた。15qマラソン(私は競歩)では、道端のフキのとうに元気づけられ奥志賀〜一ノ瀬の間をがんばった。山を車で下るとき、遠くの北アルプスがきれいに見えた。

 10月にカヤノ平で見た、ブナの古株の割れめに密集したナメコも忘れられない。11月の雪が降る前の霧氷もきれいだと聞く。

 「冬のスキ―、春の新緑、夏の避暑、秋の紅葉」と言うだけでは、志賀高原の良さを表現しきれない。季節ごとに、もっともっと深い味わいがある。木戸池荘の山本とく子さんから「春の木戸池」と「秋の蓮池」などの絵を買い求めて部屋に飾っているが、この絵を見るたびに、志賀高原で過ごした日々を懐かしく思い出すのである。