善光寺精進料理の会 1967.3.5

 

 長野にいる間に一度は味わってみたいと思っていたのが、この本格的な精進料理である。最少4名とのことで、今井さんのお世話により、山田さんと畔上さんを誘いこんで成立した。場所は仁王門の近くにある「渕之坊」である。まずは玄関のところに「今井様御一行」の案内板だけがかかっており、足がすくむ。たった4人だから「ごいちぎょう」と読んで入ることにした。改装もされたようであるが、なかは宿坊のイメ―ジを破る立派なものである。部屋には1対の雛人形が飾られていた。「きれいどころがいない」という人があったが、それだけにこの人形が引き立つ。朱色の膳が並び、自然に正座してしまう。

 お待ちかねの料理が14品、つぎつぎに出てくる。蓮根のつくねのゴマ焼きは、ゴマの香りがよく、なかに野沢菜がはいっている。足の長いガラス容器に生ゆばがあり、豆の味がする。麸のしぐれ煮は歯応えがいい。タケノコなどの煮物は薄味で良い。ゴマ豆腐もひと味ちがい、ワサビやおろし大根でさっぱり食べられる。吸い物には季節の菜のつぼみが浮かぶ。キ―ウィの上にのせられたフキ味噌は、七味とうがらしとの調和が良い。かぶら詰の中身はウドとフキで、春の香りをうまく活かしている。ナガイモを皮にした満月は淡白な味がする。てんぷらも季節の味で、フキ・タラノメがあり緑が映える。アンズのてんぷらは珍味である。ほかにもユキナのからし和え、モズクとユリ根の酢のもの、すりゴマ・カヤの実などのお茶漬、イチゴのフル―ツとつづいた。

 限られた材料ではあるが、よく工夫をし手間をかけながら作られた作品である。栄養のバランス、色のバランス、香りのバランスなどが考えられ、そのうえ季節感が盛り込まれており、見事である。それぞれの品に祖先の知恵と歴史の重みを感ずる。どの品もおいしかった。しかも、すべて日本酒によく合った。いつも、飲んだときあまり食べない畔上さんも、すっかり平らげた。品数のわりに腹にもたれず、さすがにヘルシ―メニュ―である。今後もっと見直されてもいいのではないか。好き嫌いのある山田さんもこれなら全部食べられる。さしあたり山田さんの送別会はここがいい、ということになった。