ミニサイクリング生活
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まだうす暗い朝5時、ミニサイクル(小径車)に乗ってわが家を後にする。片道25分のミニツアー、妻の実家に近い菜園で収穫を待つキュウリ、ピーマン、ゴーヤ、オクラ、ナス、ミョウガ、バジルたちのために、いつもの車の経路とは違った道で……。これまでその日のうちに就寝することはなく、7時起床がせいぜいだったことを思うと、この夏の異変といえる。
早朝の住宅地では新聞配達のバイクや牛乳配達の車に出会ったり、高齢化やペットブームを反映して、中高年夫婦のウオーキングや犬の散歩姿を見かけることが多い。8月の空気は湿気のためひんやりとも感じないが、自転車は風を切るので扇風機に当たっているような爽やかさはある。両側に水田がある「グリーン街道」は快適だ。走りながらご来光を眺められる日もある。少したつと稲の葉先それぞれに付いた朝露がキラキラ輝くようになる。農道が時折りシラサギやカラスの集まりで道をふさがれる。時にはイタチが小走りに走り抜ける。小さな亀ものっそりと横断する。耕作放棄地が叢となった畑地では5羽のキジの子を見つけた。どんな生き物も、みんな同時代を生きる同郷の仲間だと思うと「がんばろうね!」と声をかけたくなる。ハスの花が迎えてくれる「ゴクラク街道」や、道端に青色のツユクサの花がつづく「ツユクサ街道」も清々しい。朝の柔らかな光は7時を過ぎると熱気を帯びはじめるので、それまでが、つかの間のゴールデンタイムである。
サイクリングを始めてもう10年ほどになる。直接のきっかけは1996年に放映されたNHK趣味百科「健康サイクリングを楽しむ」である。「心肺機能の向上(成人病や老化防止)、ひざや腰に負担がかからない、消費カロリーが高く肥満解消に最適」というキャッチフレーズに引きつけられたのだ。それ以前にも、親子でレンタサイクルにより軽井沢周辺を走りまわったことがあり、その思い出が忘れられない。海外旅行のときにも、オランダやドイツなどの多くの町で、サイクリングを楽しむ人をよく見かけた。自転車専用道や、電車内の専用置き場などを見て憧れていて、短足のため現地の自転車に合わない気はするが、いつかブルゴーニュかアルザスのぶどう畑をサイクリングできたらと夢見ていたこともある。
翌97年にブリジストンサイクルの「グランテックミニ」2台を購入した。機種選定にあたっては、@車に載せるため手軽な折り畳み式で軽量であることA安定して乗り心地がいいことB耐久性があることなどを条件にして絞り込んだ。初めて夫婦で試乗したときのことは今でもよく覚えている。とても不安定で、ハンドルがふらふらして危なかったが、重心を低めたり、カーブを曲がるとき注意したら何とか乗りこなせるようになった。ママチャリより気分が若返る。タイヤ幅が広めなので舗装のない道も平気で走れた。4段変速で、坂道なども苦にならない。
サラリーマン時代には、サイクリングは休日のみであった。それも雨天や所用がある日を除くと週1回ほどになってしまう。買った当初は休日が待ち遠しく、車の後部に2台を積み、木曽川近くやサイクリングロードとか、近郊の町や村を妻と二人で駆け巡った。なじみのある町村も、むかし懐かしい火の見やぐらや古井戸など、車の目では見過ごしていたものが自転車の目では見つかることもある。ウオーキングより広域をカバーできる利点があり、いつでもどこでも立ち止まって歩行者の目にも変えられる。
妻はこのごろ興味が冷めたようだ。私は昨年のリタイア以後は、雨の日や冬の日以外は夕方に自宅から定番45分コースを走っている。珍しくバナナの木がある家、サトウキビ畑とか季節の花、いまどきならニラやニンジンの花などに目を奪われながらの、わき見運転で……。
米国では1970年代から心筋梗塞対策としてサイクリングが脚光を浴び、劇的な効果をもたらしたという。サイクリングによる私の減量効果は、過食のためかまだ現れないが、穏やかな疲れが寝つきを良くしてくれる効果はある。長寿とかアンチエイジングとはいわないまでも、健康を少しでも維持することが私たち夫婦の課題である。今年読んだ新谷弘美著「病気にならない生き方」から多くの示唆を受けた。「早起き習慣」もその一つである。これからも新鮮な食材の摂取、ウオーキングとともに、サイクリングを健康づくりのベースにして、ライフサイクルに組み込んでいきたいと思っている。
9月からNHK趣味悠々「中高年のための楽しいサイクリング生活入門」が放映されるので、ますますサイクリング人気が高まりそうである。テキストに「自転車で走りやすい目安」は、@車の通りが少ないA歩行者が多くないB途中に信号があまりないC坂が少ないD風景がよいE風情がある、と記載されている。さいわい私が住む尾張西部地方には、この条件がほぼ満たされる道が、まだいくつも残っている。撮影用の三脚付きカメラを入れるための小さめのデイパックを用意した。昼間がもう少し涼しくなれば、ミニサイクルによる野草撮影ミニツアーをしようと、今から楽しみにしている。
2006.8.31