補聴器生活はじめ 〜近況報告2024秋〜

 

 

 80歳を超え、大病はなく見かけは元気そうでも、日常生活に支障をきたす身体の衰えをいくつも抱えている。近ごろ気になっているのは難聴だ。難聴は70歳の人間ドックで発覚した。特に不自由はなく、そのまま放置していたが、最近は日々の暮らしに支障がある。食事会での会話がよく聴き取れず、あいまいな相槌を打ったり、電話では相手の話を聴き取れないことがある。家庭でも、人気テレビドラマ「虎と翼」や「光る君へ」の微妙な遣り取りがつかめず、音量を上げると妻から嫌がられる。妻とは背を向けての会話が多く、何度も聞き返すことになる。体温計や家電の弱い警告音も、たまに聞き逃す。弱い高音が聴きづらいので、保存したCDを聴いたり、コンサートへ出向くことが少なくなった。数年前から認知症の危険因子に難聴が加えられてもいる。そろそろ補聴器が必要かと考えていたが、高価なこと、ノイズが多くて聴きづらいこと、購入後の微調整が面倒という過去の利用者の声がブレーキになった。

 

 この6月にNHK「きょうの健康〜進歩する補聴器 最新情報〜」で、最近の補聴器はAI(人工知能)が内蔵されて機能が大幅に改善されていると説明があり、流された実際の音を聴いて興味がわいた。まず、近くのメガネ店でメガネ修理の折り、聴力測定を受けた。その結果、データに基づき中度の難聴(大きめの声でないと聴き取れない→要補聴器)と判定された。中度は認知症リスクが3倍だ。8月に「2週間無料体験」の案内を受けて参加した。補聴器をつけると、耳栓の違和感はまだしも、自分の声の大きさにびっくり。紙をめくる音も金属的だ。脳がノイズに慣れるには1〜3カ月かかるそうだ。メガネのように「かければすぐ快適」とはならず、長期戦になる。

 

 家での食事時では、食器のガチャガチャ、水道のザーザー、扇風機のガーガーとノイズが集中攻撃してくる。高音が強調されすぎる。人の声も確かに大きく聞こえるが、周囲の様々なノイズに混じりあってしまう。テレビの音量はいつもより10段階ほど小さくて済み、ドラマの会話も聴き取りやすい。五嶋みどりのCDを聴くとバイオリンの弱音まで驚くほどよく味わえ、オーケストラとのハーモニーが深く楽しめた。夜の散歩に出ると風の音がザワザワする。だが、昨日まで感じなかった虫の音が耳に飛び込んできた。車を運転するときは方向指示器などの操作時にカチカチ、ガチャガチャするが、他車の接近はわかりやすい。元同級生との食事会では、自分の声を含む難聴者同士の大声が絶えず飛び交い、両耳が疲れた。

 

 借用したのは耳あな型ではなく耳かけ型、電池式ではなく充電式だ。耳かけといっても今は器具が小さいので、あまり気づかれないのはありがたい。だが、かけた上にメガネとマスクを付ける場合は、マスクなどを外すときに補聴器と絡まないよう要注意だ。充電式は便利だが、充電器が高温に弱く、酷暑日の夜にエアコンのない部屋でエラーが表示された。電池式でも通算コストは遜色なく、電池1回10日間ほど使えるので、わが家では電池式が向いている。

 

 2週間のお試し体験により気づいた難点は@補聴器の着脱、着用が、かなり煩わしいAメガネのような即効性がないB聴きにくい高音を補充してくれるが、音楽用には滑らかな補充とはいえないC周囲の不必要な高音も同時に補充されるため音がぶつかりあい、他人の話を十分聴き取れない恐れが残る。惹かれた点は@虫の音や小鳥の声などがくっきりと聞こえ、自然と一体になれるAクラシック音楽などで繊細な弱音を聴き取れ、好きな音楽鑑賞が復活できるB体温計や家電の警告音がよく聞こえるC車の運転では安全性が高まり、カーステレオもこれまでより楽しめる。私のニーズには合う。上記の難点の@とCは、使いながら徐々に慣れそうだ。9月下旬、購入後1か月以内なら無条件で返品できるとの条件を確認し、補聴器生活に入った。

 

 その後、脳が新たな環境に慣れるように、日々リハビリを続けている。補聴器は、今では私のイヤリングで、デメリットよりメリットの方が多い。取り逃していた世界が戻ってくる。長くない余生の日々が、ときめくかもしれない。食事会などで皆さんとの会話が存分に楽しめると良い。それが認知症の予防になればなお良い。歩くとき、車を運転するとき、様々な危険を早めに察知できそうだ。不都合な点は、背中越しにつぶやく妻の愚痴や嘆きの小声まで聴き取れることだが、そのときは聞こえないふりをするか、即座に補聴器を外そう。難聴は1つの病気。補聴器は医療器具、いわば耳の松葉杖だ。使わずに我慢するのではなく、QOL(生活の質)改善に一歩を踏み出した。補聴器の平均寿命は4、5年で高価ではあるが、いつ倒れても悔いのないよう、今を大切にしたい。認知症や手が不自由になってからは、補聴器の着脱や、音量などを調整するスマホの操作(下記:注)が自分自身では難しくなるので、今が試し時だ。

 

注 スマホの操作

私が使用する補聴器では、その場の状況に合わせて以下の微調整ができ、上記本文中に記したようなノイズがかなり軽減されます。

 ・補聴器効果の度合い(5段階)

   「テレビの視聴中」「人と交流中」「食事中」「移動中」など、それぞれの状況を設定したうえ、「テレビの視聴中」の場合であれば+会話、+音楽、+雑音の抑制など個別にモード設定をしておき、随時スマホの操作で切り替えができます。

 

  2024.10.10

 

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