スイスアルプス・ハイキング

美しさ、涼しさ、のどかさ、快適さ/青空、雪山、緑の野原、高山植物、放牧の牛、カウベルの音色/また行けたら……

 
  
ツェルマット 1997.7.22

 ロ−テンボ−デン駅(2819m) から次のリッフェルベルク駅(2582m) まで、待望のハイキングが始まる。風景は広大、緑の野、白銀の山々、マッタ−ホルンに囲まれ、空気はひんやりとしてさわやかで、足どりが軽い。黄、白、赤、青、紫と、高山植物もあちこちに花を開いている。標高が高いので、背丈は3〜5pぐらいと低く、いっそう清楚に見える。ガイドの好青年が、ていねいに花の名前を教えてくれるが、耳慣れない。歩きながら形の良い花を選び、三脚を立ててアップでビデオ撮影をする。花の美しさに引かれてつい夢中になると、仲間はずれになる。撮影旅行は苦労も多いが、それに勝る喜びがある。

 小さな湖が見えてきた。リッフェルゼ−(ゼ−は湖の意)だ。湖面にマッタ−ホルンが逆さに映っている。はじめはさざ波のため輪郭がにじんでいたが、やがてくっきりとしてきた。ガイドさんも「こんなにきれいに見えるのは初めて」といった。快晴、無風と条件がそろわないといけないから、チャンスが少ないのだろう。手元のガイドブックの写真は条件がよくない。「今撮った写真を売り込もうか」という人までいる。湖には小魚がたくさん泳いでいた。この水面での動きも「逆さマッタ−ホルン」の景観に影響を与えるかもしれない。著名な書家の黒田さんは、この時の感動を「リッフェルゼ−の大鏡に麗姿を映し 蒼空にマッタ−ホルン聳ゆ」と詠まれ、後日「この日まったく快晴なり。ロ−テンボ−デンより終始マッタ−ホルンの偉容をほしいままに仰ぎ、花に迎えられてハイキングを楽しむ」との添え書きをつけた色紙をいただいた。              

 このコ−スは、いつもマッタ−ホルンを間近に見て歩けるので、本当にすばらしい。夢見心地になる。通り過ぎた外国人が山に向かって大声をかけた。こだまも外国語で帰ってきた。添乗員さんは、列の最後について歩くと言っていたが、私たちがあまりにものんびりしているので、見限って先へ行ってしまった。1本道だから道に迷うことはない。少人数の良さでもある。大きな犬を連れて歩く人もいる。犬も家族の一員としてバカンスを楽しんでいるのだ。スイスの犬は人を噛まないと本に書いてあるが、そういう雰囲気がある。マッタ−ホルンを背に下ると、ホテルと線路が見えてきた。リッフェルベルク駅だ。

   
逆さマッターホルンの拡大写真

 

   グリンデルワルト 1997.7.24

 9:55メンリッヒェン(2239m) からクライネ・シャイデックに向けて、ハイキングの出発だ。標識を見る。黄色の標識板は、初心者向けだ。左右二つの谷を分ける山並みの左側を、緩やかに下っていくことになる。アイガ−北壁、メンヒ(4099m) も正面に眺めながら歩けるので、人気が高いコ−スのようだ。薄いベ−ジュ色の牛が間近で草を食べている。ブラウン・スイス種といわれ、柔和なまなざしで、顔立ちがいい。カウベルは大きく重そうで、いつも近くで鳴りつづけるが、牛は、このうっとおしいペンダントに、ストレスが溜まらないのだろうか。よく見ると、カウベルの形や大きさが一様ではない。ベルの先が広がっているものと、すぼんだものとがある。牛の大きさや持ち主の違いによって、カウベルの音も違うことになる。1頭の親牛が、草を食べるのをやめて、私たち一行をじっと見送ってくれた。

 標高が高く、高山植物がまっ盛りだ。道の両脇に多彩な小花が咲き競う。といっても、みな背丈が短いので、のぞき込むようにして見る。スイスアルプスの三大名花はエ−デルワイス、アルペンロ−ゼ、エンツィアン(ゲンチアナともいう) といわれる。エ−デルワイスをハイキングで見るのは無理だが、赤色のアルペンロ−ゼと青色のエンツィアンはよく見られる。アルペンロ−ゼは「アルプスのバラ」と呼ばれるようだが、シャクナゲの仲間の灌木で、5弁の花が集まって花束のように咲いている。エンツィアンはリンドウの仲間だが、1花しかつけない。もともと、野に咲くリンドウは好きであり、この背丈が5pほどと小柄ながら、鮮明な色彩のエンツィアンに心奪われた。有毒で名高い、濃い紫色のトリカブトの花も、ときどき見る。

 斜面いっぱいに、小さな黄色の花が敷き詰められている。小さな二つの池の水面にアイガ−が映っている。ビデオカメラで撮影していたら、地元の小学生らしい一団が、先生に引率されて通り過ぎていく。一人が「コニチハ」とあいさつし、私が「こんにちは」と応えると、おもしろがってつぎつぎ「コニチハ」と声をかけてくれる。一人残らずあいさつに応えるのは、うれしい悲鳴だ。「コニチハ」の言葉は、どこで覚えたのだろうか。こんな人気コ−スの割りに、人が少なく感じられる。これまでのどのコ−スでも、空き缶や紙屑などは、まったく見られなかった。捨てようとする心を思いとどまらせるものがある。左に展望台を見ながら進み、やや急な坂を下ると、クライネ・シャイデック駅(2061m) が見えてきた。景色が雄大で電車が小さく見える。のんびり歩いたメンリッヒェンからの所要時間は1時間25分。スイスには、このように整ったハイキングコ−スが地球1周より長い距離あるという。

  
エーデルワイスの拡大写真

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