037:スカート。
地下にある噴水の前。白のショートコートをまとった高校生らしき子が、ひとりたたずんでいた。
あらわにしたミニスカートの脚はすんなりと長く、身長もブーツのせいかかなり高い。コートのラインでごまかしてはいるが、その肩幅もモデルのようにしっかりとしているようだ。
しかし濃い栗色のふわふわショートヘアーと、女性にしてはかなりくっきりとした、けれど愛らしいとしか表現し得ないその顔だちが、大柄な印象をいっさい消していた。
そして、きょときょとと見回す丸っこい瞳と、ときおりみせるぽやっとした表情。
わざと隙をにじませているとしか思えないその姿は、あたかもナンパ待ちをしているかのようだ。
周囲の若い男性の好奇をそそらずにすむわけがない。
「ねえ。キミ、今からどっか行くの?」
あげく声をかけられるたびに困惑する様子がかいま見えれば、なおさらアタックしたくなろうというものだ。
次々と寄っていっては、離れていく男たち。その状況は、数メートル離れたところからでもあきらかだった。
「ねえねえ、なにしてるの?」
「え、あの……」
「お茶くらい、どうかな。つきあってくれない?」
何人目の男だろうか。つづいて声をかけてきた彼は、これまで者とは比べものにならないほど熱心だった。
かき口説くセリフは、あくまで軽い調子だ。しかしべたべたと触れようとする手つきに、コートの背中が壁際に追いつめられていく。
「一人で立ちん坊してると、退屈しない? だから」
ねっとりとした視線を避けるように、大きな瞳がちらりと腕の時計をのぞきこんだ。
そうしてあせったそぶりは、追い払うためなのか。それとも相手を釣る演技なのだろうか。
「えと、ちょっと人を待って……」
どちらにせよ、そんなうぶな必死さなど、執拗に相手を食い下がらせるだけのものだ。
「ならここが見えればいいでしょ? 行こうよ。あ、あの喫茶店でいいから」
「だ、だからダメなんですって ―― 」
そんな埒のあきそうにないふたりのそばに、通りすがりらしい男がひとり、近づいてきた。
かたわらの状況に眉をひそめているのだろう、ほんの少しその貌は険しい。
「あ、ちょ……」
救いを求めるつもりなのだろうか、執拗な男の肩越しにかすかな声をあげる。
聞き咎めるのは、決してたやすくなかった声。けれどおおきな瞳から飛ばされた揺れるまなざしは、シルバーフレーム越しに受け止められたのだろうか。
眉間のしわは解けない。しかしその頭は一振りされ、通り過ぎるかと思われた足もまた、ぴたりととまる。
そして、一瞬の停滞。
「また逢えたね、さゆりさん?」
独特のイントネーションは、ほんの少しだけ意地が悪かった。
すくっと現れた男は、あきらかに頭ひとつ背が高かった。女性にしては大柄な相手と並んで、まったくひけを取らない。
その上背のもつ迫力を、本人もきちんと理解しているのだろう。
さらりと着こなした春らしいジャケットの肩をそびやかすだけで、相手を威圧している。
「な、なんだよ、いきなり。あんた、なに?」
「知り合い、かな。そのコが覚えてたら」
視線は完全に見下ろしているが、かるく首をかしげた調子はあくまで柔らかい。
見た目よりは丁寧な応接に、ひるんでいた男もいきおいを取り戻したようだ。
「だったら余計な口出し、しないで ―― 」
ナンパにもルールがある。先に声をかけたという優位性を主張しようと、声を張り上げたその瞬間。
いつ彼の脇から抜け出したのか、ターゲットは貼りつくように目の前の男に抱きついていた。可憐な女性と、それを受け止める男は、完璧なバランスで存在している。
さすがにその状況には、蛇のように執拗な男も声を失ったらしい。
「……ってコトらしいな。それでも納得しないなら」
パンっとこぶしを打ち鳴らしてから白いコートの肩を抱き寄せた男は、その口元を片側だけ器用につりあげる。
むかし取った杵柄というものだろう。あふれかえった自信が、なおさらに彼をおおきくみせる。
そしてレンズ越し、切れ長の瞳にほんの少し気迫を示せば、捨て台詞すらなく、負け犬は去っていった。
「さて ―― と」
遠ざかるそんな背中には目もくれず、現れたばかりの男は相手をほんの少しだけ引き剥がした。
「ひとりのときには、着るな。そう言ったよな?」
「だって……待ち合わせだし」
もごもごとした返す口調は、外見に似合わず意外と声が低いことを知らしめた。
とはいえ、額を突きあわせるほど近くでのひそひそ話。
いちゃつくカップルなどに周囲も関心はない。聞き取っているのは傍らの男だけだろう。
そして声音などにはまったく頓着していなさそうな彼は、その怜悧な雰囲気をもつ顔に呆れの色を乗せた。
「俺が来るのが、もうすこし遅かったらどうするつもりだったんだ」
「まさか絡まれるなんて思わなかったから」
判断力のなさを指摘したのだろう。しかしそんな指導もどうやら無意味そうだ。
目をパチパチとさせているだけの相手は、あっけらかんと言葉を返している。
追い払おうとしていた意志は、確かに明白だった。その点には誰も文句の付けようはないだろう。
「すごくしつこかったし。なんの勧誘だったんだろ」
宗教だと、イヤだなぁ。無視していてもなおしつこくつきまとうのは、その手の人という認識でもあるのだろうか。
小首をちょこんと傾げて、不思議そうに目の前の相手を見上げている。
「バカか、おまえは」
「ひどい! それが、恋人のいうことっ?」
「どう考えたって、ありゃナンパだろ」
恋人ということばをさらりと受け入れたところからすると、ふたりは紛れもなく恋愛関係にあるということだろう。
ならばこの彼氏らしき男の呆れっぷりも納得である。天然さというものは非常に愛らしくもある反面、恋人の立場からすればとんでもないものになるようだ。
「へ? こんなおおきな男女、ナンパなんかしな……いって、もしかして?」
「だろうな」
がさがさと懐から取り出したのは、タバコの箱らしい。しかしこの地下街のなかで吸うのは気が引けるのか、指先はただもてあそんでいるだけだ。
「げーっ。おいら、モノホンに声かけられてたんだ……」
「ちがう。お前が女に見えてただけだっ」
「うそだぁ。おいら、声かけられるような女に見えないって」
無自覚というべきなのだろうか。どことなく違和感のある口論は、なおもつづきそうだ。
「そうか、そうか。そんなに納得できないか」
けれど無駄な時間を過ごす趣味はないらしい。早々に男は、進展の見られないやりとりを放棄する。
そのまま何もない空間を眺めて、ため息をひとつ。
「バカには、身体で教えてやるしかないんだな」
疲れ切った口調とは裏腹に、その表情はニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。
その数分後、ふたりは窓すらない狭い一室に閉じこもっていた。
まだ外にはあたたかな陽光が満ちている時間。どうしてせっかくのデートを、どこに出かけるでもなくそんな場所にいるのだろうか。
「なんで! せっかくこの服、着てきたのにっ」
ブーツすらいまだに脱がないところをみると、その疑問はやはり共通するものがあるらしい。せっかくおしゃれをしてきたというのに、連れてこられた場所はよほど心外なのだろう。
早春の午後、確かに外で楽しみたいのがふつうの心理というものだ。
「バカか。そんなカッコしてきたからだろ」
「だって、ホワイトデーなんだよっ」
「まったく。本当にバカなんだから……」
しかしながら相手をする男の態度は、ひどくそっけない。さっさとジャケットを脱ぎ捨てて、ひとりソファへと座り込むやいなや、タバコへと火をつける。宙を舞った上着は、ばさりとベッドへと投げ出されていた。
「だいたいバカって、なにさ!」
ようやくあきらめたのか、どこかピントのずれた文句が追いかけてくる。
「自覚のねぇようなヤツは、バカだろうが」
「だから、どこがどうしてっ」
これだからこそ、バカっていうんだ……。
かすかに頭に感じる痛みは、精神的なものだけではないだろう。噛みついてくる声は、防音設備があるからよいようなものの、とてつもなく室内に響いていた。
一口だけ吸ったタバコを灰皿に置き、ついでにメガネも外し、男は素となった目線だけでベッドサイドへと誘導する。重ね着したシャツの鍛えられた体つきのせいか、怜悧すぎる印象はすでにそこにはない。
「どうだ。まるっきり、女だろ」
姿見というには、あまりにおおきな鏡の前。
並び立ったふたりは身長差も適度にあり、険悪な表情を除けば、どう見ても似合いのカップルでしかなかった。
「わかっただろ? 声かけられるワケ」
「おいらには、おいらとしか見えないっ」
けれど彼の説得は、どうにも血ののぼった相手には通用しないらしい。そっぽを向いた顔は、愛らしさゆえに凶悪で冷たいものだった。
いくらいとしい恋人のものとはいえ、そんな貌ばかりを見せられて落ち着いていられるわけがない。わめきたてられるのにも厭きたのだろう、男はぐっと相手の顎を持ち上げた。
「じゃあ訊くがな」
「なにを!」
「ぱっと見ただけでわかるカマっぷりで、俺とデートするつもりだったのか?」
首をそらして逃れることすらできない状況。その辛辣ともいえる追及に、さしもの相手もぐっと息を詰まらせた。絡まされた視線は、それでもほどかれる様子はない。
いつまでも恋人同士の時間を無為に過ごすつもりなどないのだろう。
「前は、結城先輩にしてもらったから……」
「 ―― やっぱ、あいつ。いっぺんシメてやらないとな」
脳裏に浮かんだ、なんとも表現しがたい笑顔の悪友に、男の頬がひきつりをみせる。
その表情をどう判断したのか。桜色に彩られた唇が、おずおずとまた開かれる。
「喜んでくれたよって言ったら、あの、その」
「また着てやればって、そそのかされたのな」
「う……。で、服もらっちゃったから」
フォローのつもりで告げられた内容は、まったくその用をなさなかった。
確かにコートまである冬服では、それなりに値も張りそうだ。渡されたからには、着ずにはいられなかったのだろう。
「この間は、よろこんでくれたじゃんか……」
キスすらせずに固定していた指を外してやれば、そのまま顔は伏せられる。すっかりうなだれてしまった相手の姿に、ほんの少しだけ男の眉がしかめられた。
彼とて、うれしくないわけではないのだろう。自分と楽しく過ごすひとときのための変装なのだ。だからこそ、一月前はふたり幸せに過ごしたはずである。
多分にその日の想い出が、今日の相手の行動を後押ししたのだろう。
しかしそうであろうとも、自分の忠告を無視されるのはいただけない。
恋人である彼の心境は、そんなところだろうか。
「ほら、もっかい鏡みやがれ。どうだ?」
「だから、おいらにはおいらにしか見えないってば!」
「 ―― じゃ、訂正。性別は不詳だな?」
それでスカート履いてたら、女性と考えるのが常識的判断というものだ。
内心でのそんな呆れは、けれどわざわざ気取らせてやる気もないらしい。
「こうでもしなきゃ、わからねぇよ。お前の性別なんか」
「え? ぎゃっ!」
淡々とした口調とともに、彼の手はばさっとスカートをまくりあげた。色気のない悲鳴と同じく色気のない下着。そこにうかぶふくらみは、決して女性にはありえないものだ。
「まあ襲ってみたら、こんなものつきじゃあ、あっちが驚くだろうがな」
「当たり前でしょうが! おろしてってばっ」
「だからバカだっていうんだ」
恥ずかしさにじたばたする身体を、男は背後から押さえ込む。あっさりとはいかないが、歴然とした体格差で抵抗を封じていく。
そうして捕らえきった相手の全身を、鏡へと向けた。
むろんただ辱めたいわけではない。
「それでもいいと思うやつが、ゼロなわけじゃないぜ」
耳朶を噛むようにして、低めの声で脅しをかける。
いや、脅しではない。腕に抱いた相手を鏡越しに改めて眺めれば、確かに男のなかにも欲望がわきあがっている。メガネというフィルターを失った瞳に、熱の色がうかぶ。
「誰にでも抱かれたいわけじゃ、ないだろう?」
ビクリと跳ねた身体に気をよくしたのか、スカートを放した手は、下がりくる布地の内側にある太股をなであげた。
「まさかおまえだって、わざわざ変態扱いされたいわけじゃないだろうが」
「あ、あたり前……っ!」
ゆるゆると動く手は片方だけ脚を離れ、パステルカラーのニットのなかへと滑り込んでいた。やわらかな肌の質感を味わいながら、脇腹から鎖骨へとのぼっていく手つきは、けれど相手にとっては的確な愛撫ほかならない。
性別を隠す細い首筋を噛み、痕を残す。スカートの内側に残された手は、徐々に高まっていく熱を感じ取っている。
鏡に映る男の相貌は、うっすらと笑んでいた。
「おいらは、あんただから……」
「なら、約束しろ。絶対にひとりのときに、あの服は着るな」
すでに怒りを忘れて手の中に落ちつつあるのは、彼の愛しい獲物。
苦しげにあがる息のなか、必死に告げる姿はあまりにもいじらしい。
恋人のこんな姿を、他人にかすかにでも見せることなど、誰がができるだろうか。想像ですら許し難いはずだ。
だからこそ、声をかけられているだけで不快になる。言葉を交わしているなど論外だ。
それが目の前にあるならば、相手を殴り飛ばせばいい。しかし目の届かないところでの出来事など、どうにもできない。
そんな輩についていく相手でないことは、彼とてわかってはいる。こうして啼いてくれるのも、自分の手であるからだとも。
しかしそれでも心臓に悪いのは確かだ。愛していればこそ募る想い。それが不安だけでないことは、多分に自覚のいたるところだろう。
「ったく、本当はちゃんと出かけるつもりだったんだからな」
激しい手つきとは裏腹に、独り言のような口調は、どことなく苦々しげだ。
チョコレートにはクッキー。しかし女装に対応する返礼は
―― 。
予想外の楽しみには、それ以上の楽しみで。そんな予定を狂わせられたのは、どうやら彼のほうだったらしい。
「するっ。するから!」
そんな男の内心など、煽られつづけている相手には、すでに理解できる内容ではない。
照明すら落とさなかった、明るい室内。頬紅に彩られた頬を流れるのは、透明なしずくだ。
行き場のない熱があふれているのだろうか。その上気した頬を眺める男は、その掌にも涙を感じていた。
「約束、する! だ、から……」
「バカは口で言っても、わかんねぇだろ」
鏡を通して絡まる視線は、互いだけを求める力を宿している。
けれどただ闇雲にあげられる誓いに、価値など見いだせようか。
後ろから抱きかかえる男は、元凶の布地をまくりあげた。
「ちゃんと身体に教えてやるよ」
耳元に吹き込まれた声は、やさしいくせにひどく熱い。
身震いした相手の息がぐっと詰まる。それを全身で感じ取りながら、スカートを留めた手はそのままに、彼は背後から一気に貫いていた。
次の瞬間。白濁が真正面の鏡をどろりと伝い落ちていった。
残されたのは、尾を引く嬌声と激しい息づかい。
「ちゃんと、覚えやがれ……」
なおさらにかすれた低い声は、ただ一言だけを注ぐ。
あとは崩れ落ちそうな身体を支え、ひたすらに律動をくりかえすだけだ。
想いの丈をぶつけるには都合のよい、しかし本来は見つめあうことのできない、背後からの体位。けれど今日は、すべてを鏡が映しだしている。
自分にしか見ることのできない姿、そして表情に、男は落ち着く間すら与える余裕を失っていた。
白く濡れた鏡面に映れば、あたかも自分たちがそれにまみれている錯覚すら覚える。そして、すぐに落ちてしまう着衣は、囚われている相手の性別を隠してしまう。
「……女、ヤッてるみてえ」
「おいらは、男、だってばっ!」
思わずこぼれた嗤いに、切れ切れの口調はそれでも強く主張してくる。あの待ち合わせのときの、きょときょととしたこどもっぽさはどこにもない。
振り返った顔は、透明な涙だけに濡れた頬を惜しげもなくさらしていた。
「そうだな。おまえは、おまえさ」
互いに首を伸ばして、今日初めてのくちづけをかわす。
「男に、ホワイトデーもねぇか……」
「え? あ、あっ!」
問いかけなど、いまは必要ない。ただ同じ頂点を極めれば、イイだけだ。
「あの、礼は……また、今度 ―― っ!」
その言葉は、声になったのだろうか。
二つの情熱がはじけ飛んだ証に、ふたたび彼らは白くしろく、デコレートされていくのだった。
上掛けすらめくられないままの状態。使われもしなかったベッドが、ようやくひとつの身体を受け止め、静かに沈んだ。
横倒しにさせた人間自身も隣へと転がれば、さすがにぎしっとスプリングが軋む。
その音に重ねるように、吐息をひとつ。妙に色あせたオレンジのカバーは、肌触りが悪いにもかかわらず、意外なほど疲労を受け止めてくれていた。
その状態で、どれほどの時間が過ぎたころだろうか。
「もしかして、先輩さぁ」
ぽつりつぶやかれたことばに、男は閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げる。首だけで声の主をみやれば、相手は天井を見上げたままだ。
その姿にいぶかしげに眉をひそめる間もなく、口紅のおちた唇はちいさく開かれる。
「妬いた?」
形はあくまでも問いかけ、けれど確信しているのだろう。つづけて起きたのは、ふふっという笑い声だ。そして視線がようやく流される。
「 ―― だったら、なんだ?」
「別に」
自分の行動の大半がその感情に基づいていたことに、気づいていなかったわけではないのだろう。男の声はこれまでになく硬かった。それでもまっすぐに向けているまなざしは、少しも恥じてはいない。互いが本気をぶつけあう間柄だと信じている故のものだろう。
そして返された短い答えも、きっとそれをわかっているからだ。マスカラなどなくとも十分に長いまつげに彩られた目もまた、やわらかに細められて、互いの瞳と唇は自然に重ね合わされていた。
「で、今日の予定は?」
「……やっぱおまえ、バカだわ」
ほどけた緊迫感が問わせたのだろうか。口紅のなごりを舐めとってやりながらも、その質問の純粋さに男はすっかり呆れていた。
「うん……ちょっと、そうかも」
「ちょっとじゃねぇよ」
今回の行為自体が、その格好をした恋人の姿を誰にも見せないためだということを、すでに忘れているらしい。どうにも物覚えの悪い相手に対して、情熱的な彼は苛立ちを隠せない。けれどあえて忠告し直すほどの親切心もまだ持ち得ないようだ。しらけた視線は、どこまでも愛らしくそして惑わせる相手への、わずかな抵抗なのだろう。
「そっかぁ……中止ね」
けれど罪なほど天然な相手だ。確認の目的は、ふつうと少々異なっていたようだ。
「だったら、ちょっと寝てもいい?」
すでに睡魔に半分ほど冒されているのか。とろりとした調子は、蜜のように甘く濡れている。
恋人以外誰にも聞かせることのないはずの、情後特有の声音。
それは独占を主張する者に、新たな欲望を認識させるもの、他ならない。
「ああ ―― 少しだけだぞ」
けれど、密やかなため息をそっと口の中に隠して、男の腕はそっと伸ばされたのだった。
≫≫≫ おまけ【別窓】
044:バレンタイン ≪≪≪ ≫≫≫ 075:ひとでなしの恋【R-18】
これぞ本当に、ホワイトデー(笑)
モメないとうっとおしい…いや、もめてもか……。
ラストを追加。あまり意味はなかったかも。
≪≪≪ブラウザ・クローズ≪≪≪