ローゼル栽培の楽しみ
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「クレオパトラが愛用したハイビスカス」「紅茶で飲めば、お肌つるつる」、種袋には、そう書いてある。半信半疑に思えてもローゼルが、かなり不思議な食材であることは確かだ。木の実のように見えて1年草の実であり、種を食べるのではなく、種を取り巻くガクの部分を食用にする。10分ほど煮だすと思いもよらない鮮やかな赤色のハイビスカスティーが出来上がる。飲んでみると、美しい見かけとは違い酸味が強くて大人向きだ。甘みのあるケーキなどと合う。お好みで砂糖や蜂蜜を加えれば飲みやすい。ヘルシーを心がける私の日常は、板チョコを友にストレートでいただく。
10年ほど前、ワインの友人Uさんからドライのローゼル数粒をいただきローゼルと出会った。その翌春に近くで苗を見つけて栽培したが、11月下旬に開花したのち寒さで枯れて収穫には及ばず、翌年のリベンジも失敗に終わった。次の年、種を取り寄せて5月初めにまき、鉢と菜園に植え付け、9月10日、庭で初めてピンク色の可愛い花を見つけた。その後は早起きして花を数えるのが楽しみとなった。花が落ちてからは実がどんどん膨らみ、開花1ヵ月後には、指で挟むとガクの先端が少し開くようになり10月中旬に収穫時期がはじまる。そのまま放置すると11月中旬には枝の先端や、傷を負った枝の実から腐りはじめたり、虫に食われたりするので、通常は11月上旬に収穫を終える。
育てるのはそう難しくない。菜園の場合は肥料を施さず、ただ植え付けるだけでいい。注意すべきは水不足と風だ。夏の日照りが続いて枯らしたことがある。台風などの風雨にも弱い。根が浅いわりに背丈より高く伸び、脇枝がたくさん出るので、よく傾いたり倒れたりする。実をつけるころには、下の枝は重くなって折れたりもする。それぞれ対策のしようはあるが手がまわらず、なりゆきに任せている。
ローゼル栽培10年目を迎えた今年は、これまでで最多の本数となった。収穫量が増えるよう少しでも早めに発芽させるため4月下旬にまくと、気温が低くて発芽率が悪い。以前に本数が足りず姉から苗を融通してもらったこともある。昨年の実の種をまくのだが、万一のため、購入した種もまく。今回は双方の発芽が順調で苗が30本を超えた。多すぎるが1つの命も見捨てるのは忍びがたく、庭に10本、菜園に15本、妻の実家の庭にも10本と全部を植え付けた。9月下旬には、わが家の庭はローゼルの花園に変わった。菜園では意図して道路側に植えたので、散歩の方々にも楽しんでいただけた。
この菜園に植えたのは4年目だが、今年は本数が格別多いからか、収穫のころ見知らぬ方から「見たことがないけど、その実をどうするの?」などと何人にも尋ねられた。育て親として子たちに関心を寄せられるのはうれしい。そのつど一通り説明したのち、お試し用にと実のついた枝を2、3本ずつ差し上げた。隣の畑を耕す方からも「いつも何だろうと気になってたけど、どうやって食べるの?」と言われ、数本差し上げた。翌朝、娘さん夫婦が焼いたローゼル入りのケーキを持参され、更にリクエストをいただいた。
今年の収穫は9月下旬、水不足で枯れそうな木(草)からはじまり、10月中旬になると成熟した実を選んで収穫した。あとは地面に近い枝、腐りかけた実のついた枝、隣の作物に近い枝、幹が細めの木という順になる。実のつき方は、1本20個から200個ほどまで様々で、収穫総数は大小合わせて2,000個を超えた。ハサミで収穫するのだが、実に棘があるので指先には要注意。収穫した実をAB2ランクに選別する。未熟者、傷ついた者はBランクで自家用にし、Aランクを皆さんに差し上げていて、「産直で買ったものより大粒だった」と喜ばれている。今年は郵送で毎年送る友人や、ワインサロンでの友人などレギュラーにも複数回お渡しできた。それでも余裕があり、初めて妻の遠方の友人にまで手を伸ばした。
自家用分は、次のように扱っている。いずれにしても、まずガクを外す。初めてのとき手で剝がしたら、指先が赤く染まってしまった。方法はいろいろあるようだが、試行錯誤して至った手順は、@実の枝に付いた先とガクの付け根とのほぼ中間に包丁を当てて下部を切断するA実に対し縦に刃を入れ、左右にこじるようにしてガクを外しながら種を取り外す。連日これを繰り返すと、さすがに老人の目と手先や手首に疲労がたまる。
小さな未熟者たちは煮詰めてペースト状にし、いつでも料理ソースやジャムなどに変身できるよう冷凍保存する。大きめの未熟者はティーにしたり、食事中にバラして酸味調味料のように利用する。野菜サラダやポテサラのトッピングとか、油っ気のある肉魚などを食べる合間にちょっとかじると、酸味のおかげで食欲が一段と増す。天ぷらもカリっと揚げると酸味があって珍味だ。SDGsの精神に則り、ティーの出し殻も捨てずに潰し蜂蜜を加えて煮詰め、毎朝プレーンヨーグルトにかけて食べている。最後に残ったAランクの者は日干しにした。晩秋でも4日ほど干せば完了し、1年間いつでもまた楽しめる。
いま、乾燥したローゼルを乾燥剤入りの缶に収め、一連の作業を終えた。すべての実を活かし切った充実感がある。初秋のローゼルの花には癒された。赤い実がついた枝は、生け花にも活用される。ハイビスカスティーは身と心を温め、美容と健康にも良さそうだ。そのうえローゼルのおかげで、友人や地域の見知らぬ人たちとのコミュニケーションも深まった。クレオパトラのような肌にならなくても、皆さんの「美味しかった」「感激しました」「幸せです」など温かなお言葉に支えられて、また来年も、規模は落としてチャレンジしたい。
2021.11.28
ローゼル(写真集)
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