おすすめの本




「ちょっと今から仕事やめてくる」  北川恵海著
 読み終わって「この優しい物語をすべての働く人たちに」という文章に納得。まさに「スカっとできて最後は泣ける“すべての働く人たちに贈る、人生応援ストーリー”」です。
 先の展開が気になり、一気に読んでしまう小説でした。しかも読み終わったときに思わず歯を見せてニカッっと笑いたくなってしまいます。
 何となく就職したブラック企業でこき使われて心身共に衰弱した隆が、無意識に線路に飛び込もうとした瞬間、隆の身体は凄い力でグイッと引き戻されます。「久しぶりやな!俺や、ヤマモト!」これが、隆とヤマモトの出会いです。
 同級生を自称する彼に心を開き、助言をもらい、仕事も順調に進めていく隆ですが、同級生の山元はニューヨークにいることがわかります。
 その後、仕事のトラブルで再び心身共に衰弱した隆が、ネットで知ったのは、ヤマモトが3年前に自殺していたということ。そして、その自殺したヤマモトが自分の前にあらわれているということ。
 ヤマモトとは誰なのか。なぜ自分にこんなにも親身になって寄り添ってくれるのか。自分はどうするべきなのか。「ちょっと今から仕事やめてくるわ」
 『人生って、それほど悪いもんじゃないだろ?』







「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?  身近な疑問からはじめる会計学」  
                                          山田真哉著
「食い逃げされてもバイトは雇うな  禁じられた数字〈上〉」  山田真哉著
 この本は面白かったです。会計学の本を読んで「面白い」というのも変かもしれませんが、理系の人間にとって5/100と50000/1000000は違うという考え方はまさに「面白い」発想です。「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」に始まり「『食い逃げされてもバイトは雇うな』なんて大間違い」まで続くシリーズの中で1番好きな本です。
「『食い逃げされてもバイトは雇うな』なんて大間違い  禁じられた数字〈下〉」
                                          山田真哉著
 「食い逃げされてもバイトは雇うな」が好きな人にとっては衝撃的なタイトルでしたが、数字を扱うことを生業にしている人間にとっては、当たり前の内容で、よく使う(やってしまう)ことでもあります。数字にだまされないように読んでおくことをおすすめします。
「女子大生会計士の事件簿〈DX.1〉  ベンチャーの王子様」  山田真哉著
 史上最年少で公認会計士二次試験に合格した女子大生会計士藤原萌実(萌さん)と大学3年の時に会計士を目指して勉強を始め、7年目にして公認会計士二次試験に合格した会計士補(J1)柿本一麻(カッキー)。萌実はありとあらゆる手段を用いて会社の実情を探るとともに、様々な不正を次々と暴いていきます。元々専門学校TACの情報誌「TACNEWS」誌上に連載されたものだそうで、1話1話が短く簡潔で大変読みやすい経済小説です。
「女子大生会計士の事件簿〈DX.2〉  騒がしい探偵や怪盗たち」  山田真哉著
 DX.1の最終話で一麻にも後輩ができ、いよいよ2年目に突入かと思ったら、新任の頃の話に逆戻り。萌実と一麻の出会いから始まります。この本の第1話が「TACNEWS]連載第1回の作品なんだそうです。今回も一麻は萌実に振り回され、こき使われます。第6話の「<12月の祝祭>事件」(ルミナリエでの話)は少し雰囲気が変わります。作者の思い入れの強い作品だそうで、藤原家の家族愛が感じられます。
「女子大生会計士の事件簿〈DX.3〉  神様のゲームセンター」  山田真哉著
 DX.3はDX.1の続きで、一麻は2年目に突入。DX.1の最終話で出てきたプリンス・在原純平も後輩として登場します。商業高校を卒業後、監査法人に入っていた萌実に、大学に行くことをすすめた今川斎社長も登場。萌実の自由奔放に見える行動の裏にある深い理由が毎回最後に明かされます。
「女子大生会計士の事件簿〈DX.4〉  企業買収ラプソディー」  山田真哉著
 DX.4には、一麻の高校時代のクラスメイト・沖田奏子や大学時代の先輩・明智と一麻が思いを寄せていたヒロコ、萌実の妹・朱葉など2人に近い人物が登場しますが、1番はやはり萌実の姉・花澄の恋人で萌実の幼なじみの山部赤矢の登場でしょう。「企業買収ラプソディー」では、監査法人としての仕事の枠を超えた働きをみせます。
「女子大生会計士の事件簿〈DX.5〉  とびっきり推理なバースデー」  
                                          山田真哉著
 DX.5はまさに村咲紫編といってもいいもので、紫の活躍や紫に翻弄される一麻が描かれていますが、その中で、一麻が自分の本当の気持ちを確認していくという内容になっています。そんな中で重要なのが、萌実の憧れの前任の主査で、突然姿が見えなくなった氷高元美。萌実と元美の関係もまた、DX.5の大切な要素です。
「女子大生会計士の事件簿〈DX.6〉  ラストダンスは私に」  山田真哉著
 DX.6は「『女子大生会計士の事件簿』のウラ設定を全部出しました」的な内容になっています。女子大生・萌実としての友人・樋口双葉や一麻の大学時代の恋人・彌彦天香と天香の妹・朱鷺が登場。また、萌実の出身校である芙蘭商業高校の簿記部についても触れられています。また、仕事で忙しい萌実は(当然)大学を4年で卒業できません。それで大学はどうするのか、仕事はどうするのかということで一麻の存在がクローズアップされるのです。ただ1つ残念なのは、この本の最終話によって、DX.2で感じられた藤原家の「家族愛」が「お笑い」に変わってしまったように感じられたことです。
「女子大生会計士、はじめました  藤原萌実と謎のプレジデント」  山田真哉著
 この本に収録された内容は、「TACNEWS」以外に初出されたものが多く、「女子大生会計士の事件簿」とは少し様子が違います。中でも、「<逆粉飾の殺人>事件」では、殺人が起き、それを萌実が解決するというサスペンスになっています。また、「<女子大生会計士、はじめました>事件」は、会計士の萌実が女子大生になるまでが描かれています。
 ちなみにこの本は、「女子大生会計士の事件簿」の<DX4>と<DX5>の間で発行されています。
「あいるさん、これは経費ですか?  東京芸能会計事務所」  山田真哉著
 「女子大生会計士の事件簿」が好きな人にとっては待望の小説です。美人で天才的な東京芸能会計事務所所長天王洲あいると、憧れのアイドル烏山千歳の後をつけ、東京芸能事務所と間違えて就職した天然の竜ヶ水隼人の2人が様々な謎を解き明かしていきます。この本では天王洲あいるの正体が解き明かされます。
「結婚指輪は経費ですか?  東京芸能会計事務所」  山田真哉著
 普通に小説として十分楽しめます。山田真哉の小説はあちこちにちりばめられたものがどこかでちゃんと回収されるという展開で、思わずまた読み返してしまうというおもしろさがあります。さて、この先天王洲あいると竜ヶ水隼人の仲はどうなっていくのでしょうか。




「風呂ソムリエ 天天コーポレーション入浴剤開発室」  青木祐子著
 「天天コーポレーション」シリーズ第1弾。今回は天天コーポレーション研究所受付嬢・砂川ゆいみと入浴剤開発室の紅一点・鏡美月の物語です。
 砂川ゆいみはお風呂が大好き。ゆいみ行きつけのスーパー銭湯『藍の湯』で鏡美月と知り合います。元彼と分かれた理由もお風呂というゆいみ。ガラッパと温泉が大好きで水着と裸は平気なのに下着姿を恥ずかしがる美月。自宅2階の仕事部屋から続くオープンテラスに露天ジェットバスを備え付けるほどの風呂好きで、入浴剤を作るのが夢の御曹司で営業部の円城格馬。九州の幻の温泉を再現したい美月。美月と出会った温泉を再現したい格馬。そんな3人の物語がテンポ良く進むのでとても読みやすいです。
 画策女の有本マリナ。今回は男女の関係でいろいろ画策します。
 個人的には、格馬と小枝子さんがいつ再会するのかが、とても楽しみです。
「これは経費で落ちません! ~経理部の森若さん~」  青木祐子著
 「天天コーポレーション」シリーズ第2弾。今回は天天コーポレーション経理部・森若沙名子の物語です。
 実は私はこの本のタイトルに惹かれて読み始めたので、この本がシリーズものだと気が付いたのは、読み始めてしばらくたってからでした。ですので「風呂ソムリエ」 よりも先にこちらを読んだのですが、やはり「風呂ソムリエ」 から読むことをおすすめします。
 営業部のエース・山田太陽が持ち込んだ「4800円、たこ焼き代」と書かれた領収書。これを見て森若さんは「これは経費で落ちません!」・・・とは言いません。ずっとこんな調子で、言いたいことをぐっとこらえて物語は進みます。でも、森若さんはさりげなく、かつ有能なんです。今回も、物語はテンポ良く進みます。
 森若さんと山田太陽、そこに絡む画策女・有本マリナ。でも、画策は画策。真面目で有能な森若さんにはかないません。 




「限界集落株式会社」  黒野伸一著
「脱・限界集落株式会社」  黒野伸一著
「経済特区自由村」  黒野伸一著
「本日は遺言日和」  黒野伸一著
 小さなイベント会社「弥生プランニング」の新米社員の川内美月が半ばやけっぱちな気分で提案した企画「遺言ツアー」が、社長の「面白いからやってみろ」に一言で実現することに。
 参加者は唯一まともそうな前田久恵。娘が勝手に申し込んだ斉藤幸助とその娘の新庄典子。酔っぱらいの横沢篤弘。そして19歳の小泉太陽の5人(4人+1人)。個性は揃いの参加者に振り回されながらも成長していく美月と参加者たちの姿が記されています。
この本を読みながら、読者も遺言の意味について考えさせられるのではないでしょうか。
 ちなみにこの本は『2泊3日遺言ツアー』 (ポプラ文庫)を改題したものです。




「君の膵臓をたべたい」 住野よる著
 物語は「僕」という一人称で進みます。ある日、高校生の僕は病院で1冊の文庫本を拾います。カバーを外すとそこには「共病文庫」と書かれた手書きの文字。それは、クラスメイトである山内桜良が密かに綴っていた日記帳でした。そこには、自分が膵臓の病気で「あと数年で死んじゃう」と書かれていました。「書いてあるのは本当、私は膵臓が使えなくなって、あとちょっとで死にます、うん」と話す桜良。その翌日から桜良の病気のことを家族以外で唯一知る人間ということで2人の関係が始まります。性格も趣味も方向性も全く違う2人がお互いを認めお互いを必要とするまでの物語といったところでしょうか。
 「クラスメイトであった山内桜良の葬儀は、生前の彼女にはまるで似つかわしくない曇天の日にとり行われた。」という書き出しで始まる以上、奇跡は起きないのだなとは分かっていますが、病を患った彼女にさえ、平等に残酷な現実をつきつける…まさに、すべての予想を裏切る結末です。
 図書館の内容紹介などでは、「とびきりのラストシーンに泣かされる」と書かれていますが、すべての予想を裏切る結末は突然訪れます。そして、桜良の母から聞かされた真実。胸が熱くなります。





「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」  七月隆文著
 一目惚れをした。ぼく「南山高寿」と彼女「福寿愛美」の30年のうち、わずか40日間の切なくも美しい物語。「彼女の秘密を知ったとき、きっと最初から読み返したくなる。」ってどういうこと、って思っていましたが、彼女の秘密を知ってから何度も何度も読み返しながら読み進めることになります。そして、1つ1つの出来事に納得するのです。そしてタイトルの意味が理解できるのです。エピローグからプロローグにつながり、また読み返してしまう。そんな小説です。高寿の「でもさ、それでもぼくは・・・・・・きみのことが好きだから」と、愛美の「今のあなたに会いたいからなんだよ」という言葉が2人の気持ちをよく表していると思います。




「美亜へ贈る真珠―梶尾真治短篇傑作選 ロマンチック篇」  梶尾真治著
 表題の「美亜へ贈る真珠」をはじめ「詩帆が去る夏」「梨湖という虚像」「玲子の箱宇宙」「〝ヒト〟はかつて尼奈を…」「時尼に関する覚え書」「江里の〝時〟の時」と、女性名をタイトルに織りこんだ抒情ロマンスSF7篇を収録した傑作編ですが、今回は「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」 と比較される「時尼に関する覚え書」についてです。
 この物語は、私「保仁」と「時尼(じにい)」の48年間の物語。「ぼくは明日・・・」はそのうちの40日間にクローズアップしているのに対して、「時尼に・・・」は大きな流れを物語としています。そのためか、「ぼくは明日・・・」のように何度も読み返すということは少なかったように思います。ただ私は、「保仁」と「時尼」の関係よりも「保仁」と「仁」の関係の方が気になって、そちらに関しては何度か読み直しました。この「保仁」と「仁」の関係は、私に広瀬正の「マイナス・ゼロ」 を思い出させました。




「侠飯(おとこめし)」  福澤徹三著
 就職活動がうまくいかない三流大学生若水良太は、ヤクザどうしの銃撃戦に巻きこまれてしまう。危ないところを助けられたが、助けてくれたのは柳刃組組長の柳刃竜一と組員の火野丈治。その柳刃たちが部屋に居座ってしまう。居候の柳刃は部屋をきれいに掃除させ、冷蔵庫や包丁を替え、キッチンを占領しては料理を作る。恐怖と美味に混乱する良太。任侠×グルメ×就職指南の異色料理小説。登場する料理はまさに「男メシ」。最後まで読み応えがあります。
 「仕事そのものには、ぜったいにこだわりが必要だ。面倒なことを避けて通る奴は成長しない。あえて面倒なことにこだわる姿勢が創意工夫を生み、他者との差を作る」(P124),「すくなくとも、創意工夫がない奴をまじめとはいわんよ。勉強不足のくせに頭が固くて、融通が利かないってだけだ」(P125),「アイデアは情報と情報の組合せだ」(P126),「見たくないものから目をそむけてると、視野がせばまって単純な発想しかできない。自分を善人だと思いこむのは、そういう奴だ」「自分を善人だと思っている奴は反省しない。常に自分が正しいからな。なにかで成功したときは、自分の才覚のおかげだと思いこむ。反対に失敗したときは、他人や世の中のせいだ。それじゃ永遠に進歩しないし、物事の本質は見えない」(P145)など柳刃の印象に残る言葉がちりばめられています。