高校生におすすめの本








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「神様の御用人」  浅葉なつ・著
 神話が好きで、「古事記」や「日本書紀」,「風土記」さらには民間に伝わる伝説の地を訪れるのが好きな上に神社も好きとなれば、この本を読むしかないでしょうということで読んでみました。するとこれが、期待以上の内容。
 神様や神社に興味のある人はもちろんのこと、興味のない人でも物語として十分楽しめます。また、中にちりばめられた様々な知識・雑学もなるほどと感心するものがたくさんあります。
 第1弾では神様たちのパシリとなって御用を聞いて回る“御用人”代理となった24歳のフリーター萩原良彦と最初の依頼神「方位神」であるモフモフの狐神・黄金との出会いが描かれています。今回「宣之言書」(のりとごとのしょ,御用帳)に浮き出た神様は「方位神」のほか「一言主大神」(ひとことぬしのおおかみ),「大御霊龍王」(おおみたまりゅうおう),「大年神」(おおとしのかみ)。御用人代理の良彦は黄金と共に無理難題に取り組みます。
「神様の御用人2」  浅葉なつ・著
 今回良彦が振り回される御用を聞くのは、大国主神の国造りに際し、天乃羅摩船(あめのかがみのふね)に乗って波の彼方より来訪した「少彦名神」(すくなびこなのかみ),いわゆる貧乏神の「窮鬼」(きゅうき),「泣沢女神」(なきさわめのかみ),須佐之男命の娘でありかつ大国主神の正妻「須勢理毘売」(すせりびめ)の4柱。なんと大国主神自身も登場します。
 第二弾では、良彦の友人である超現実主義者の権禰宜・藤波孝太郎が勤める大主神社の宮司の娘にして「天眼」の持ち主である吉田穂乃香が登場。穂乃香を想う「泣沢女神」の話が語られます。
 良彦の成長と穂乃香の変化。今回も読み応え十分です。
「神様の御用人3」  浅葉なつ・著
 神様とそのパシリ御用人・良彦の繋がりと絆を描く物語の第三弾。
 今回は「天棚機姫神」(あめたなばたつひめのかみ),「大山祇の稲の精」(おおやまづみのいねのせい),「高龗神」(たかおかみのかみ),「田道間守命」(たじまもりのみこと)の4柱。
 大山積神と賭けをすることになったモフモフの狐神・黄金の言葉『人の子が精霊に勝てるわけがあるまい』『そもそも賭にならぬという話じゃ』『・・・いや、やはり御用人が勝つ方に賭けよう』『肩を持っているわけではない。ただ、あいつならやりかねんと思ったのだ』『たとえ相撲に勝てなくとも、勝負には勝つやもしれん』『あやつは、そういう奴なのだ』が読者の気持ちそのものなのだと思います。「あの平凡で、これといった特徴もない人の子が、一体どんな手法で御用を叶えていくのか、少しだけ楽しみになっている」のだと。
 良彦と黄金の信頼関係、良彦と穂乃香の成長が感じられる第三弾です。そうそう、穂乃香の同級生・高岡遥斗によると、穂乃香は「学校一かわいい」といわれているそうです。
「神様の御用人4」  浅葉なつ・著
 過去3巻は4つの短編で1冊という形式でしたが、4巻めにして初めての長編です。そして、まさに『新しい神話の誕生』です。
 「あとがき」には「今まで『良彦とゆかいな仲間たち』だったのに、4巻になったら急に『歴史ミステリー~良彦と神々の記憶~』みたいな、いつもよりちょっと重めに仕上がってしまった今作」とありますが、一気に読み進めてしまう上に読み応え十分です。
 今回、「宣之言書」に浮き出た神様は「天道根命」(あめのみちねのみこと)。ただ、いつもと違うのは、薄墨の神名が一瞬だけ緑青に光ったこと。
 「天道根命」と、「名草戸畔」(なぐさとべ)の話に良彦のかつての野球仲間の「大野達也」と姉の「奈々実」がかかわって、そこに「大国主神」はどう関わるのか。また良彦と穂乃香の関係はどうなるのか。そこにかかわる「須勢理毘売」。ところであの緑青の光は何?と今回は内容が盛りだくさん。でも、一番の読み応えは「天道根命」と「名草戸畔」の物語でしょうね。ぜひ、壮大な神話の世界を味わって下さい。
 わたしは、「名草戸畔 古代紀国の女王伝説」(なかひらまい著) も買って読もうと決心したのでした。
「神様の御用人5」  浅葉なつ・著
 第5巻はまた4つの短編に戻りますが、そのうち、第4話はプチ新しい神話といえるのではないでしょうか。
 晴れて御用人“代理”から“本採用”になった良彦ですが、穂乃香の活躍が目立ってきます。今回登場するのは、「邇邇芸命」(ににぎのみこと),「倭建命」(やまとたけるのみこと),いわゆる土地神様の「大地主神」(おおとこぬしのかみ),関西地方では親しみを込めて「えべっさん」と呼ばれるエビス神の「蛭児大神」(ひるこのおおかみ)の4柱。第1話では、邇邇芸命の妻「木花之佐久夜毘売」(このはなのさくやびめ)も登場、この木花之佐久夜毘売が、穂乃香の前に現れるのです。第4話では、「宣之言書」に出た神名は「蛭児大神」ですが、本当に困っているのは蛭児大神の眷属である「松葉」です。どれも、神の願いをただ叶えるのではなく、問題の根源となる事象を解決してゆく良彦と穂乃香の活躍が描かれ、それぞれの神との信頼を深めていきます。
 いつもながら、何度でも読んでしまいます。
 ところで、第3話では、孝太郎の超現実主義者的行動が、面白く書かれています。「オカルト話は面白がり、ホラー映画は演出の手法にダメ出しをし、心霊写真には最近のCG技術を評価する。パワーを得ようとご神木に触る人には、木が傷むのでさわらない方がいいと言い、御神水を求める人を見れば、生水は飲む前に煮沸した方がいいと真面目な顔で告げ、身体の不調を霊障だろうかと考える人には、近所の優秀な病院を紹介する。神社という、ある種非日常的な空間にやってくる人が持つ無意識の願望のようなものを、ことごとく粉砕するクラッシャーでもあるのだ。そのくせ畏れるべき神様はいると断言するのだから、少々性質が悪い。」(P170,171)思わず笑ってしまいました。
「神様の御用人6」  浅葉なつ・著
 第6巻はまさかの将門。まあ、過去には「窮鬼」なども登場しているので、すべての神が対象なんだと思いますが、そうなると、「天穂日命」(あめのほひのみこと)を祖先とし、出雲との繋がりがある「菅原道真」の登場が待たれます(私の勝手な希望ですが…)。
 ということで、何やら思惑のありそうな孝太郎に連れられて、上京した良彦と黄金。京都に生まれて二十数年、初めて東京の地を踏む良彦の前に現れたのは、1人の青年に取り憑く落ち武者。そして「宣之言書」に刻まれた「平将門」。
 将門の依頼を解決し、いよいよ穂乃香とその兄(孝太郎曰く「我が大主神社宮司の正真正銘の長男」)吉田怜司との物語になるのかと思ったところに登場する「経津主神」(ふつぬしのかみ)と「宣之言書」に浮かび上がった「建御雷之男神」(たけみかづちのおのかみ)。
 第3話では、「宗像三女神」が登場。「宣之言書」に現れたのは宗像三女神の長女「田心姫神」(たごりひめのかみ)。この第3話では、長女「田心姫神」、次女「市杵嶋姫神」(いちきしまひめのかみ)、末女「湍津姫神」(たぎつひめのかみ)の三女神の性格の違い((田心姫神はいかにも長女らしく、湍津姫神は今回の依頼を楽しんでいるように生き生きと、市杵嶋姫神は今回の主役として)がよく描かれています。田心姫神からの依頼は「(今は女人禁制となっている)沖ノ島に巫女がいた痕跡」を探すこと。毎回、神様の依頼を良彦はどう解決するんだろうと予想しながら読み進め、その解決策に感心させられることが多いのですが、今回は古事記や日本書紀の記述や歴史的事実から創り上げた作者の発想に大いに感心させられました。まさに『新しい神話』第3弾です。
 綾子とその婚約者の岡沢の会話「宗像三女神の化生の順番って、古事記と日本書紀で違うんだよ。日本書紀なんて、本文と、引用されてる三つの文書で全部バラバラ。鎮座地に至っては、日本書紀には第二の一書にしか記載がない。だから、一体誰が長女で次女で末女なのか、誰がどこに鎮座していたのか、当時の巫女だったら知ってたかも。もっとも、伝承はいろいろあって、はじめは一柱の神様だったっていう話もあるんだけど…」「宗像三女神って、確か田心姫神と、湍津姫神と、市杵嶋姫神だよね? その生まれた順番や、祀っている場所が違ってたりするんだ?」「うん。神社では日本書紀本文の記述に合わせて、化生順を公式に決めたらしいけどね。ほら、一応あれが正史だし。ちなみに呼び方も違ったりするよ。古事記だと田心姫神は多紀理毘売命(たきりぴめのみこと)っていう名前だったり」(P271,272)や、田心姫神の話「そして私も、サナにひとつ秘密を打ち明けたことがある」「人の子の間で、神の名前というのは変化するもの。今でこそ私は田心姫と呼ばれているが、以前の名は多紀理毘売という。この名を知っている巫女は、サナだけだ」「サナは、我らに仕えた最後の巫女だったのだ。だからこそ余計に情が湧いているのかもしれぬ。彼女がこの地を去ったのは、確か人の子が七世紀と呼ぶ頃か。以降、沖ノ島に巫女は渡っておらぬ」(P284,285)がポイントでしょうか。
 田心姫神の依頼の解決と同時に、市杵嶋姫神が長いこと抱えてきた心の重りを、見事に解き放った良彦。須佐之男命の登場で、次回作も楽しみでたまりません。
「神様の御用人7」 浅葉なつ・著
 第7巻は『古事記への挑戦状』といったところでしょうか。第4巻以来の長編で、読み応えがあります。作者自身があとがきで、「今回の物語は、三貴子の一柱でありながら、月読命だけ記紀に記述がほとんどないことに疑問を感じ、何か事情があって伏せられているのかもしれない、という発想だけで出来上がった話でした」と書いていますが、書かれていないからこそ作者が自由に創作できるのでしょうが、この作品はそれらを超越した内容になっています。
 今回登場するのは、荒魂を失い、朝を迎えるごとに記憶を失ってしまう「月読命」(つくよみのみこと)。彼の御用は、こんな自分を支えてくれる実弟「須佐之男命」(すさのおのみこと)に恩返しがしたいため、須佐之男命が望むものを探ってほしいというものでした。しかし、その遂行中に須佐之男命に見つかり「恩返しなど不要」と言い切られてしまいます。そこで、「御用」を「月読命の荒魂を探すこと」に切り替えますが、これにより良彦は禁断の事実に足を踏み入れることになります。
 一方、穂乃香は青白く輝く完璧な真円の月を描く同級生の松下望と仲良くなり、お互いの秘密を共有するようになります。
 事情を知っているからこそ良彦と距離をとる黄金と、あえて良彦を手伝う大国主神。
 『瑠璃色の月が昇るとき――竹取物語・異聞より――』のタイトルの絵を描いた望と、青い満月の絵しか描かない画家・羽田野唯司。
 「月読命」の話と「竹取物語・異聞」の繋がりに気が付いたとき、背中がぞくぞくっとしました。
 「瑠璃色の満月が昇るとき、きっとまた会える……」
 それにしても、古事記の内容からここまで大胆に物語を作り出すとは…。個人的には、第5巻に登場した邇邇芸命と木花之佐久夜毘売の間に生まれた三柱、火照命(海佐知毘古),火須勢理命,火遠理命(山佐知毘古)のうち、海佐知毘古と山佐知毘古に挟まれ記紀に記述がほとんどない火須勢理命についての物語も期待してしまいます。
「神様の御用人8」 浅葉なつ・著
 第8巻は「案山子」と「狸」と…えっ???
 失礼しました。今回登場するのは、神としての引退を望む「久延毘古命」(くえびこのみこと)とできるだけ多くの「阿波狸合戦」の話を集めてほしいと願う半透明の「金長大明神」(きんちょうだいみょうじん)と自分が誰であるかを見失って顔を描けないでいる「八幡大神」(はちまんおおかみ)。
 古事記には、大国主神の国造りに際し、天乃羅摩船に乗って波の彼方より小さな神「少彦名神」が現れます。当時大国主神はその神の名がわからず、蟇蛙に尋ねたところ、「久延毘古命ならばわかるかもしれない」と言うので、久延毘古命を呼んで尋ねると「その神は少彦名神である」と答えたと書かれています。またそこには「久延毘古とは『山田のそほど』のことであり、歩くことはできないが、あまねく天下のことを知っている神である」とも書かれています。このことから久延毘古命は知恵の神、また「そほど」とは「案山子」の古名であることから、農業の神,田の神ともいわれています。
 金長大明神とは伝説上の「阿波狸合戦」の主人公である金長狸。金長は江戸時代後期の弘化5年(1848年)正一位を与えられています。染物屋を営む茂右衛門が自ら京都の吉田神祇管領所へ出向き、正一位を授かって来たといわれています。ここの神祇管領長上とは、吉田神道を継承する吉田家当主が代々名乗った称号で、この吉田家の当主が吉田神社の宮司を務めています。そして、この吉田神社が大主神社のモデルとなっているであろう神社なのです。…と、予備知識はここまでにしておいて…
 第1話は、神としての引退を望む久延毘古命と、それに大反対の眷属、梟の富久と蟇蛙の謡。そして宣之言書が御用の受理を示したのは「久延毘古命を引退させぬこと」。ここから良彦の活躍始まるのですが、この第1話は、現代の我々の生き方にも大いに考えさせられます。知識はすごく大事。でも、知識だけでなく、経験も大事です。もちろん失敗の経験も。「知恵があっても、知識があっても、たぶんわからないことがある」(P71)実際に経験すること、失敗することって子育てや教育の中で、すごく大切ですよね。それからもう1つ。就職活動で悩む妹・晴南に告げた良彦の言葉「……自分の心と、よく会話しろって。それから、ちゃんと悩むこと。選択すべき結論は、呆れるほどすんなり出てきて、とんとん拍子に事が運ぶ……って、知恵の神様が言ってた」(P87)悩んでいる人へのアドバイスとして最高ですね。
 第2話と第3話は、もう何度も読み返しながら読み進めました。それほど読み応えがあります。様々にちりばめられた話が1つにまとまってゆく。素晴らしいの一言です。第2話はまさに「・大和屋金長伝」です。
「神様の御用人9」 浅葉なつ・著
 これまでは、1話完結または1巻完結でしたが、今回は初めて「つづく」の文字が。そう、今回は第10巻に続くのです。ですから、第9巻,10巻をともに手元に置いて読むことをおすすめします。
 大地そのものである「国之常立神」(くにのとこたちのかみ)の眷属(けんぞく)である二体の龍、東の黒龍と西の金龍。この二柱の間の遺恨を中心に話は進められます。二体の龍と、人間との関わり、そしてその関わりを何やら知っていそうな『はぐれ狐』。日本各地で頻発する地震に何か心当たりがありそうな黄金。
 『大建て替え』をしようとしている荒脛巾神(あらはばきのかみ)・黒龍を金龍は止めることができるのか。坂上田村麻呂と阿弖流為(あてるい)の関係とは。命をかけて黄金を助けようとする良彦。その良彦の力になろうとする穂乃香。
 黄金の過去と正体、そして黄金のいう『大神』(「宣之言書」に御用を出している神)の正体が今明らかとなります。
「神様の御用人10」 浅葉なつ・著
 これまでも「本を買ったら一気読み」の「神様の御用人」でしたが、第9巻10巻をまだ読んでいないのであれば、2巻まとめて一気読みがおすすめです。
 黒龍に飲み込まれた黄金を救出すべく、黒龍に立ち向かって瀕死の重傷となった良彦。日本各地で地震が頻発するなか、討伐派と穏健派に分かれる神。「これは神の問題だが、神にもできぬことがあるのだ」という須佐之男命のことばに「――人間なら。人間ならできるのか?」と問いかける良彦。神の手では救えない。神にもできないことがある。そのことを見てきたのは神様の御用人である自分だ。「お前に救えるか?」「オレ以外の誰がやるんだよ」
 坂上田村麻呂と阿弖流為の友情、田村麻呂と荒脛巾神の約束、黄金の深い後悔を知った良彦は、固い決心をして立ち上がる。「荒脛巾神も助けたい」

 これまで、ちりばめられてきたすべてのことが見事に回収されてゆく展開で、どんどん物語に引き込まれていきます。
 第9巻に「『神様の御用人』《黄金編》堂々完結。」とあったので、まだまだ続くことを期待していたのですが、これで終わりです。ただ、あとがきに「番外編を書こうと思っている」とあるので、番外編を期待しましょう。 
「神様の御用人 ~継いでゆく者~」 浅葉なつ・著
 書き下ろし番外編小説3編と、「神様の御用人 回顧録」です。そして、新シリーズの製作が決定しました。
 番外編の3編は、表題の「継いでゆく者」が良彦の祖父萩原敏益の御用人としての最後の仕事の話。依頼神は「久久紀若室葛根神」(くくきわかむろつなねのかみ)。敏益と久久紀若室葛根神、それに「大年神」(おおとしのかみ)と敏益の幼なじみであり「洋食 ふじた」の主人・木村とその店の常連・城嶋が織りなす物語。「なくなる」のではなく「受け継がれていく」ものとは。
 「永遠の相槌」は良彦や穂乃香たちのその後の話。依頼神はあの三日月宗近を刀工「三条小鍛治宗近命」(さんじょうこかじむねちかのみこと)。一言で言えば人と動物の愛情物語でしょうか。読み終えたときに、爽やかな風が通り過ぎてゆくような物語です。
 「ありふれた日常」は、良彦や穂乃香たちのその後の話であり、かつ新シリーズの序章でもあります。良彦や穂乃香はどうなってゆくのか、桜士朗と青藍のコンビがどのような活躍をするのか。新シリーズもとても楽しみです。







「座敷童子の代理人」  仁科裕貴著
 新しい「神様の御用人」が発売される前に何を読もうかと手に取ったのがこの本。米子まで行って、ゲゲゲの鬼太郎や猫むすめたちに名刺をもらったことがある私だからでしょうか、一気に読んでしまいました。
 編集者から最後通牒を受けた崖っぷちの妖怪小説家・緒方司貴が訪れたのは、子供の頃泊まったことのある遠野の旅館「迷家荘」・・・だが、いきなり迷ってしまう。桜の木の下(上?)で出会った妖怪少年によって妖怪を見ることや妖怪と会話ができるようになった司貴は、人間と妖怪の通訳をすることになります。妖怪がらみの問題を妖怪たちと共に解決していく中で、妖怪たちと心を通わせていく司貴。そんな話を読み進めながら・・・油断していました。この話を読んで「ほっこり」していた私は油断していたのです。まさか最後にこうくるとは。どうなるのかは読んでのお楽しみです。
「座敷童子の代理人2」  仁科裕貴著
 「迷家荘」に住み込みの従業員→番頭として戻ってきたしがない妖怪作家の緒方司貴。引っ越し当日緒方の元に送り届けられた可愛い子狸の妖怪。引っ越し先で待ち受けていた六角牛王と羊太夫の対立。迷家荘の若女将・白沢和紗に届いた白装束の女性。その女性・綾姫が和紗の体に取り憑いて始まる羽衣探し。と次々起こる問題を座敷童子や河童、妖狐たちと解決していきます。
 ところで、今回は座敷童子についての秘密が明らかに。そのヒントは分かっていました。六角牛王の「儂らもすっかり古きものとなった。故に、たくさんの呪縛に囚われておる。記憶であったり、慣習であったり、誤解や思い込みであったりとな……。おぬしからすれば当然の指摘であっても、受け止められんほど狭量かもしれんが」「だが儂は思うのだ。おぬしらの強みはそこにあるとな。代替わりをする妖怪だからこそ、常に瑞々しい感性を保っていられる。だからこそ座敷童子は、人とあやかしの架け橋たりえるのだとな」という言葉がずっと気になっていたからです。それでも今回も最後にあっと驚いてしまいました。
 瀬織津姫の登場など「神様の御用人」との垣根がだんだん低くなっていきそうですが、何度も読み返してしまう本です。
「座敷童子の代理人3」  仁科裕貴著
 緒方司貴が中学入学までの4年間を過ごした伯父夫妻の家で出会った座敷童子少女・律。司貴のことを「緒方司貴の“ニセモノ”」と言い切る律がひと悶着を起こします。
 つづいてあらわれたのが半妖の“さとり”少女・柚木静香。それに好々爺のぬらりひょんとその手勢までもが迷家荘に居着くことに。
 遠野物語をモチーフに「天若日子」(あめのわかひこ)と「天探女」(あめのさぐめ)と「天邪鬼」,「蘇民将来」と「須佐之男命」と「牛頭天王」,「源義経」と「武蔵坊弁慶」,義経の幼名「牛若丸」と「牛頭天王」の話がからんで、物語はふくらみます。
 伯父夫妻と律,静香親子,座敷童子の親子、それに司貴と座敷童子を中心とした新しい家族。大きな歴史の流れと4つの家族。それに座敷童子の秘密を知る遠野市長・皆本紀明が加わって、物語にどんどん引き込まれます。
「座敷童子の代理人4」  仁科裕貴著
 裏表紙に書かれている「旅館舞台の映画撮影にあわせて、『迷家荘』に住み込みで働き始めた新人女優・舞原玲奈。人を引きつける魅力を持つ彼女には大きな謎がある。かつて鬼の頭領とまで謳われた有名な鬼・酒呑童子に呪われ、取り憑かれているのだ。」を読んでから、この小説を読むと、頭の中に「???」が…。「酒呑童子に呪われ、取り憑かれている?」どうみても、酒呑童子が舞原玲奈を優しく見守っているとしか思えない…というところから物語は始まります。
 第4巻は、「酒呑童子」に関する壮大な物語。「浦島太郎」にみられる「外魂信仰」と「玉手箱」の意味。この物語では様々な地方に伝わる伝説をつないで、「朝廷から見た酒呑童子」とは異なる酒呑童子の姿が見られます。
 今回も、緒方司貴と座敷童子を中心に、河童や妖狐、空太、柚木静香、遠野市長らが大活躍。映画界の重鎮・大沢昭雄監督や大物女優の高峰千鶴子も見逃せません。
 そして今回のポイントを握るのは、沓掛観音窟の主・音羽姫(遠野では乙姫)。本当に読み応えのある1冊でした。でも、物語はこのままで終わりません。
 最後に白沢和紗からこの物語の核心を突く衝撃的な質問が…第5巻が待ち遠しいです。 
「座敷童子の代理人5」 仁科裕貴著
 白沢和紗からの衝撃的な質問に答えようとした緒方司貴の体が・・・。そして、司貴の夢に現れた「マヨイガ」と、「ハクタク」と名のる白いお面の女。そんなときに、迷家荘自慢の温泉が止まってしまいます。こんなときに頼りになる河童の姿も見えません。座敷童子や妖狐、空太も見あたりません。それどころか司貴は妖怪たちの影一つ見つけ出すことが出来なかったのです。
 鍋倉山に現れた「九尾の繭」。それにかかわる「白面金毛九尾の狐」と「殺生石」の伝説。そこに和紗の母「白沢紡」の影が・・・。九尾と遠野妖怪の確執から事件は次第に遠野全体を巻き込んでいることに気付きます。「酒呑童子」や「閻魔」の力を借りて問題解決に挑む司貴。元座敷童子と「八幡権現」の関係など、第5巻も読み応え十分。しかも、これまでの様々な出来事が見事に伏線になっているのです。
 司貴に力を与えてくれる「妖怪たちとの絆」。「誰かのために一丸となって動くとき、俺たちはどんなときよりも強くなる」と。そして最後には読者に「こうきたか」と思わせる結果が待っています。
 「この地に生きる全ての命が願ったもの、その正体は・・・」
「座敷童子の代理人6」 仁科裕貴著
 今回、最初に登場するのは、なんと戦国末期に実在した人物「鱒沢左馬助(ますざわさまのすけ:鱒沢佐馬助広勝)」。地元では「不義不忠の輩」といわれ、小説の中でも「戦国時代の大悪人」と紹介されていますが、鱒沢家は広勝の子、忠右衛門広恒を最期に滅んでいるので、「歴史は結果論であり、勝者によって書き換えられる」がごとく、左馬助の功績は闇に葬られた可能性もあります。この小説に出てくる「鱒沢左馬助」は、「おちゃめで、冗談が大好き、それでいて武芸に優れている『落ち武者』」として描かれています。もっとも、地元の妖怪たちからは「狼少年」のように扱われていますが・・・。さて鱒沢左馬助の汚名返上となったのでしょうか。もっとも、左馬助が「裏切り者」でなければ、この小説は成り立ちませんが。
 さて、今回迷家荘にやってきたのは、近頃アイドル的人気の陰陽師・久我凪人。そしてその弟・久我綾斗。この久我凪人、陰陽師でありながら、実に現実的。しかし、「鎌鼬」にをきっかけに壮大な話へと展開していきます。そこには綾斗の秘密や遠野物語にも描かれた悲しい歴史が・・・。第6巻も読み応え十分。今回も1日で読破してしまいました。
 そして最後に現れた陰陽師。ここで、「<遠野・陰陽師 編>開幕!」の意味が分かります。 
「座敷童子の代理人7」 仁科裕貴著
 第7巻にはこれまでに登場した神・人・妖怪が数多く登場するので、第6巻まで読んでから第7巻を読むことをおすすめします。
 今回「迷家荘」にやってきたのは緒方司貴の担当編集者・進藤久臣と日本で最も有名な妖怪小説家・烏丸天明。その烏丸天明が持ち込んだ「河童の腕のミイラ」が原因で「迷家荘市場最悪の事件が幕を開ける-」のです。
 河童の腕のミイラをきっかけに悪夢を見るようになった進藤と烏丸。やがてその悪夢の中の怪物が黒い獣となって目の前に現れます。死を覚悟したときに進藤を助けたのは緒方司貴。そこから妙見菩薩・薬師如来の夕霧と御門流陰陽道宗家陰陽頭の胡蝶と関わることになります。そしてすべてが解決したと思ったときに起きた殺人事件。
 物語は八百比丘尼の物語を中心に壮大なものとなっています。新たな解釈も含めて読み応え十分。
 座敷童子も自分の使命を見つけたようで、今後の展開が楽しみです。
 …ところで司貴の新しい小説はいつ完成するのだろうか。
「座敷童子の代理人8」 仁科裕貴著
 迷家荘の蔵から発見された1枚の「供養絵額」。そこに件(くだん)のくだ子、絵を描いた外川仕候(実在の人物です)、さらにトイレの花子さんの残留思念を読み取った本宮健吾がからんで話は進みます。
 外川仕候と供養絵額に込められたくだ子の想いを紐解き、くだ子が自らの悲願を果たして消えたとき、新たに遠野全体を巻き込む大騒動が勃発。それは、くだ子を信奉する土蜘蛛衆。その土蜘蛛に襲われる妖狐。そこに届いたくだ子からの手紙・・・。
 宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)は敵なのか味方なのか。六角牛王までもがまさかの敵?宇迦之御魂神と葛葉狐の関係は?葛葉狐と安倍晴明の関係は?六角牛王と八幡権現。源義経と源義家。土蜘蛛との戦いの中で、様々なことをたたみかけるように話が展開していきます。一気読み間違いなし。
 まだ交際していないと思っていた緒方司貴ともうすでに交際していると思っていた白沢和紗。2人の勘違いにもほっこりします。









「招き猫神社のテンテコ舞いな日々」  有間カオル著
 新しい「神様の御用人」「座敷童子の代理人」が発売される前に何を読もうかと手に取ったのがこの本。神様や妖怪は出てきませんが(化け猫は出てきますが)、一気読み。
 ビジネスパートナーに裏切られ、起業した会社が倒産した岩倉和己。仕事を失い、借金返済のために貯金をも失った和己が麻布のマンションを引き払い、再起を賭けて身を寄せたのが、東京のはずれにあり、叔父の持つなんちゃって神社の「招き猫神社」。そしてそこに住み着いていた3匹の妖猫「虎(本名景虎)」「Gray She」「Gray He」。
 招き猫神社と和己の日常と亜子と虎と招き猫神社の非日常。それらが絡み合って物語を作り出しています。
 松川さんの「奇跡は神様ではなく人の優しさが起こしてくれると知っていますよ」という言葉の意味がよく分かる内容です。
「招き猫神社のテンテコ舞いな日々2」  有間カオル著
 相変わらずの「招き猫神社と和己の日常」と「亜子と虎と招き猫神社の非日常」。
 「招き猫神社になくてはならない存在になっていく和己」と「徐々に明らかになっていく亜子と虎の関係」。
 新たな登場人物である二次元キャラとの挙式を申し込む宇都宮清志と結婚詐欺師?の菊池優花、礼儀正しい寂しげな少年鈴木史也、和己の友人であり戦友であり和己を裏切った元ビジネスパートナーの篠原恭介に笹川愛子やG7を初めとする1巻からの登場人物が物語に厚みを増していきます。
 「日常」のなかの登場人物たちの成長してゆく姿が描かれており、第1巻よりもグレードアップした物語になっています。
「招き猫神社のテンテコ舞いな日々3」  有間カオル著
 東京の郊外にある『招き猫神社』(正式名称は『あこ神社』と言う)で、管理人として細々と暮らしている青年・岩倉和己。神社の所有者である伯父の家に年賀の挨拶に訪れた和己は、伯父の養子である瑞原真由莉(旧姓・隈川)から伯父が入院したことを知らされる。「父が亡くなったら、アンタには神社から出て行ってもらうから」と言い放ち思い切り扉を閉める真由莉。
 伯父が重体だと知り、急いで見舞いのために入院先の病院を訪れた和己は真由莉から、伯父が「和己に神社を譲る」と遺言を書いていることを聞かされる。伯父から神社を譲ってもらうためにあらゆる手段を用いたとののしられた和己は「相続を辞退する」と伝える。そのとき、真由莉から「神社を潰して、土地は売るつもり」と言われ慌てる和己。
 母からもののしられた和己は思わず「俺はここを買い取るんだ!」と叫んでしまう。そこから一千万円を工面する和己の戦いが始まる。
 招き猫神社にゆかりのある人々に助けられながら奮闘する和己。そこに、迷い猫のミケ(ミケの寿命を言い当てる虎も重要です)とその飼い主の赤堀、DQNの指宿友路、真柴製作所の社長夫婦とその娘の真柴清子らが加わって、物語は進んでいきます。 









「水族館ガール」  木宮条太郎著
 「アクアリウムにようこそ」 の改題です。私はこちらを読みました。
 千葉湾岸市の観光事業課に勤めはじめて3年。突然「市立水族館 アクアパーク」へ
1年間の出向を命じられた嶋由香が一人前半人前のイルカトレーナーとして成長していく姿と、飼育には人一倍の情熱を持ちながら、人間とのコミュニケーションは極めて下手な先輩梶良平との恋の行方を描いた作品です。読みやすく、水族館での仕事についてもわかりやすく書いてあるのですが、2人の夢の部分が必要ないと感じるのは私だけでしょうか。
 水族館での仕事に興味があるのなら、この本と「水族館で働くことになりました」 (日高トモキチ著)をセットで読むことをおすすめします。「調餌」「給餌」「掃除」!
「水族館ガール2」  木宮条太郎著
 海遊ミュージアムの岬館長の誘いにより人事交流プログラムで海遊ミュージアムに出向してきた梶良平。アクアパークに1人残された嶋由香。2人の成長を描いた第2巻ですが、アクアパークの吉崎と海遊ミュージアムの鬼塚館長代行が姉妹であったり、由香と海遊ミュージアム企画室の咲子が先輩後輩の中であったり、吉崎と鬼塚かコンビでシンクロナイズドスイミングをやっていたりとご都合主義満載のおかげで2人の前にある困難は次々と解決。大変読みやすい内容になっています。サクサクと読み進めることができるので、あまり本を読み慣れていない人にもおすすめです。
 今回の話に登場する「久間製作所」のモデルは香川県にある「日プラ」です。この会社、本当に素晴らしい会社ですので、1度調べてみるのも良いでしょう。
「水族館ガール3」  木宮条太郎著
 アクアパークから海遊ミュージアムへ出向中の梶良平は出向終了後、すぐに内海館長から長期出張(海遊ミュージアム滞在)を命じられてしまいます。一方、嶋由香もアクアパークの新プロジェクトリーダーに任命されます。そこにはアクアパークの将来を見据えた館長の深謀遠慮が…。
 この「水族館ガール」は第1巻から、水族館の役割など作者の主張がちりばめられていましたが、今回は、水族館のあるべき姿や動物の保護のあり方などが色濃くなっています。読んでいて考えさせられるテーマといえるでしょう。須磨海浜水族館で取材をして書かれた小説のようなので、現場の方々の考えが表現されているのかもしれません。読んでみる価値はあるでしょう。







「受験のシンデレラ」  和田秀樹著
 この小説は、和田氏本人が監督した映画「受験のシンデレラ」 (脚本:武田樹里)をもとに和田氏本人が書き下ろした小説です。私は映画(ビデオ)を見てから小説を読みました。
 東大合格率9割を誇るミチター・ゼミナールの経営者であり「受験界のカリスマ」と呼ばれていた五十嵐透と経済的な事情で高校中退を余儀なくされた遠藤真紀。五十嵐はある日、親友である東大病院の小宮淳一郎から、がんで余命1年半という宣告を受けます。「世の中、金」と言っていたのに、どんなにお金を積んでも治すことができない病気になってしまった五十嵐と真紀が出会い、五十嵐はミチター・ゼミナールを開いた当初の気持ちを思い出します。そして残りの人生で、彼のあらゆる受験テクニックを駆使して、真紀を東京大学に合格させようとするのです。
 「人生は変えられる。夢はきっと叶うんだ。」というメッセージが込められた映画であり、小説なのですが、人生を変え、夢を叶えるのは真紀だけではなく、五十嵐もだと感じました。結果が分かっているにもかかわらず、ラストは泣けます。ポイントは「次の授業のための500円」ですね。
 あとがきに「展開される受験計画の内容や、がん緩和ケアの実態など、もう少し詳しく描きたかった」「その欲求不満を少しでも解消したくて本書を書いた」とありますが、五十嵐透の心情を書くことによって、作者自身が、公立高校に通う学生=貧乏人として見下しているような感じがしてしまいました。最後に真紀が東大病院の病室に駆け込むシーン。あのときの病室はこういう事だったのかということは小説を読んでよく分かりました。受験に至るまでの参考書・問題集が具体的に書かれていたり、どのように勉強すればよいかということが丁寧に書かれているので、受験生というよりも、高校生全体におすすめです。 末期がんの患者も、がん緩和ケアによって、最後まで人間らしく生活できるということもこの小説を読んで(映画を見て)初めて知りました。
 映画の最後で流れる真紀の大学生活のシーンが印象的です。





「数学ガール」  結城浩・著
数学ガール フェルマーの最終定理」  結城浩・著
「数学ガール ゲーデルの不完全性定理」  結城浩・著
「数学ガール 乱択アルゴリズム」  結城浩・著
{数学ガール ガロア理論」  結城浩・著
「数学ガールの秘密ノート 式とグラフ」  結城浩・著
「数学ガールの秘密ノート 整数で遊ぼう」  結城浩・著
「数学ガールの秘密ノート 丸い三角関数」  結城浩・著
数学ガールの秘密ノート 数列の広場」  結城浩・著
「数学ガールの秘密ノート 微分を追いかけて」  結城浩・著
「数学ガールの誕生 理想の数学