菜園生活の四季
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フリルレッド |
アイスプラント |
パプリカ2種 |
ラディッキオ |
ずぶの素人が無農薬野菜の栽培にのめりこみ、早5年を超える。食べていただいた方々から「作業が大変でしょう」とよく言われる。大変ではあるが、プロセスは変化に満ち、新鮮な発見や驚きがあり、工夫や手をかけた結果が形に表れるので興味が尽きず、ここまで続けられた。年間の菜園生活を振り返ってみる。作業内容は、作物によって違うが、まず土作りし、種まき・間引き、苗の植え付けから、成長に応じて支柱立て、わき芽掻き、枝の誘引、水遣り、追肥を重ね、一定期間収穫したのち、後片付けをする。その間、絶えず雑草と闘い続ける。作業には夏場は早朝のみ、春秋は原則として午後に、隔日で日々2、3時間ほどを費やすが、猫の手も借りず不慣れなので、はかばかしくない。
土は、あいにく粘土質のため乾くとカチカチになり、そのうえ地下は雑草に恵まれている。強敵ヤブガラシが菜園の四辺から地下茎で侵攻し、地下深くにはスギナの基地があちこちに配備されている。年中退治しているが、両者とも取り逃がした一片からでも再生するので、駆逐どころか毎年減りもしない。とにかく土を掘り返し苦土石灰、完熟牛ふん堆肥、化成肥料などを加えて2週間ほど放置すると、見事にふかふかのベッドに変身する。微生物やミミズの底力はすごい。これで種まきや定植の準備が整う。
イタリア野菜の苗は近くで入手しづらいので、冬の間にネットで探して種を確保しておく。英仏野菜で600件、ハーブで350件ほどもあり、フェンネルやラディッキオ(リーフチコリ)でも選択に迷うほど種類が多い。種探しは宝探し。見かけ、味わいの良さ、育てやすさが基準となる。ダメモトで毎年新たな品種にも好んで挑戦している。夏用のバジルは、ミックスバジル1袋のなかにレモンバジル、シナモンバジルなど色や形や香りの異なる12品種が入っていて、何が生えてくるかわからないので福袋のようだ。土地は限られており、作付けにあたって年間の菜園プランが必要だが、実際には難しい。作物は、おおまかには春夏ものと秋冬ものと二分されるが、個々には栽培期間が違い、微妙に時期がずれる。フェンネルなど多年草は固定される。日当たりを考えると、背が高くなるトウモロコシやオクラは北側にしたい。さらに連作障害も避けなければならない。連続して同じ場所に植えたりすると病虫害にかかるものがあるからだ。トマト・ピーマン・ナス・ジャガイモなどナス科や、カブ、キャベツ、マスタード、ルッコラなど葉ものに多いアブラナ科は要注意。あれこれ考えるとプランなど立てられなくなり、現状を眺めながら、場当たりで次の準備をすることになる。苗を衝動買いしてから、植える場所がなくウロウロすることもある。
春夏ものは、寒い時期の発芽が素人には難しいので、苗から育てることが多い。4月末のGW前から1カ月ほどは、JA店や農業屋などいくつかの苗屋さんを巡る。良い苗は実りが多いので苗選びは大切なポイントだ。珍しい品種は突然現れて短期間で品切れになる。それぞれの店は特色があり、品揃えもまちまちなので、欲しい品種を見つけるまで通う。目新しい品種に出会えたときは小躍りする。チョコレート色のパプリカ、アイスプラント、サンマルツァーノ(イタリアの料理用トマト)、タバスコペッパー、ローゼルなど。
秋冬ものは種から育てるものが多い。フェンネル、プンタレッラ、ラディッキオなどのイタリア野菜の種まきは8月前後とされているが、名古屋の猛暑はイタリアの子には厳しすぎる。昨年の反省をもとに今年は6月後半の梅雨時から9月にかけて順に時差まきをした。結果は、8月のものは発芽が少なく、6月のものは猛暑に耐えて大きく育った。ただ、早すぎたラディッキオは徒長しただけで球形にならず全滅、プンタレッラはふつう翌1月頃から食用の花茎が伸びるのに10月にもう変形の花茎が出た。フェンネルは寒くなる前に太くなり、大成功。すべて試行錯誤の日々なので、来季への貴重なヒントとなる。
これまでに好評だったグリーンマスタード、わさび菜、ルッコラ、コリアンダー、それに今年初めてのサラダマスタード・フリルレッドは、長く食べ続けられるようにと9月から3回の時差まきをした。コリアンダー以外はアブラナ科であり、早すぎるものは防虫ネットをかけてもアブラムシなどの餌食になった。秋は種まきが1週間遅れると生育が1カ月遅れるといわれるように、種まきのタイミングもなかなか難しい。「まかぬ種は生えぬ」に従い、とにかくまいてみている。葉ものは種を多めにまいて間引きしていく。間引きは、一定間隔に最も元気な子を残し、その他大勢を消す作業だ。どの子も自分が種をまいてこの世に生を受けたのだから、心が痛む。やがて選ばれた子が伸び伸びと育つのを眺めると、罪の意識を忘れてしまう。
秋冬の霜よけ防寒対策として、最近は葉ものに寒冷紗とか不織布をかけている。トンネル支柱と被覆資材が一体となった蛇腹式セットがお手軽だ。だが、雪が積もるとお手上げで、重さに耐えかねて支柱が折れたり、ドミノのように倒れたりする。
年間を通じて、しくじりが絶えない。成長不良で収穫なしとか、成長しても実つきが不十分とか、虫に食われた不良な収穫物はよくある。たくさん実がついたパプリカの枝が強風で折れたり、収穫を前にして連作障害か病原菌により隣接するサンマルツァーノ2株が順に青枯れしたり、落花生がモグラかネズミに根を噛み切られて突然死したこともある。今年初めてハイビスカス・ティーのため栽培したローゼル3本は、晩秋の開花を前に、つぼみのまま力尽きた。私自身のボケによる失敗も数限りない。多品種栽培と菜園の整理不足のために、種まきで発芽前に同区画へ別の種を重ねてまいたり、地中で生育中のジャガイモやコンニャクイモを誤って掘り返したりすることがある。追肥のときも、作物によって施す間隔が違うので、前回はいつだったか忘れて過剰に与えたり、不足したりする。収穫も、夏場は対象の品種が多く生育も早いので、全体に目が行き届かず収穫し忘れる。収穫して小袋に詰めたまま菜園に置き忘れることも度々ある。
近ごろ肥料を運んだり、支柱を立てたり、枯れ木を片付けたり、力仕事が少々きつくなった。ずっと背を曲げて行う作業も多い。作業の少ない真冬でも、コリアンダーなど冷気のなかでの収穫作業などは残る。もうあと何年も続けられないだろうが、野菜栽培は奥が深く、今度こそリベンジをと思うと止められない。何よりも新鮮なものや、完熟したものは食べて美味しい。食べていただく方々の笑顔を支えにというより、自分自身の楽しみのために、来年も「大変な」作業にチャレンジしたい。菜園の地中では、冬眠した蛙やツクシの子も再会を待っていてくれるのだから……。
2012.12.28
(エッセイ風) キッチンガーデンの楽しみ 愛しのプンタレッラ 自家製タバスコの試み 生野菜&ハーブ栽培 菜園のニューフェースたち 腰痛と菜園生活