アーティチョークとともに

 

 

 

 5月になって菜園で作業をしていると、通りすがりの方々からよく声をかけられる。「あのいくつも大きく上に伸びたものは何ですか?」「何にするんですか?」「花が咲くんですか?」「食べられるんですか?」「どこを食べるんですか?」「どうやって食べるんですか?」。全体が大きく、背丈を超える高さになるので確かに異様で、あまり見かけない。これがアーティチョーク。名前の由来は「巨大なアザミ」から。和名では朝鮮薊(チョウセンアザミ)という。いま菜園にはグリーン種とパープル種、トゲありとトゲなしを含めて5株ある。そのアザミに似た巨大なつぼみが人目を惹いている。

 

 40年前、初めての海外旅行で欧州の市場に山積みされているのを見て、どのようにして食べるのか、どんな味かと興味を持った。その後、英国やイタリアの田舎で実際に育っている姿も目に焼き付いた。10年余り前、プンタレッラなど各種イタリア野菜を興味本位で育てはじめた頃から菜園に加わった。種はネットで入手し、9月に蒔いた。米粒ほどの大きさで発芽率は高い。寒い冬も無事越して4月頃から急成長し、5月には2、3個のつぼみが出た。6月には大きな紫色の花に初めて対面した。

 

 多年草で冬を越せるので毎年育てていたが、6年前に菜園を現地に移転したため、やり直した。広めの場所を要するが、育てるのはさほど難しくない。ただ、夏の水不足、病害、アブラムシなどにより枯れ死することがあり、毎年補充している。無農薬のため絶えず歯ブラシで葉磨きをしてアブラムシを退治するのは骨が折れる。最近では、近くのJA店でも初秋に苗がわずかながら売られるようになったため助かる。夏には根元から新芽が出るので、9月に根分けをすれば増やせるわけだが、分離して根付かせるのが難しい。収穫時期も微妙で試行錯誤している。大きくして採ると固くなる。花が咲く前で少し早めの方が食べ頃だ。

 

 どの部分を、どのように食べるか。ネットでは各種レシピが登場するが、わが家はシンプルだ。@下処理をせず丸ごと、ガクが外れるようになるまで30分ほど茹でるAオリーブオイル+醤油+黒コショウでソースを作り、外したガクの根元の部分にソースをつけ、根元の内側の柔らかい部分を歯でしごいて食べるBガクを全部外すと芯の部分が残り、その上の毛のようなものを取り除いて芯の部分(アーティチョークハート)を食べるのだが、そのままより、バターで少し焼くと美味しい。味はソラマメとかエビイモなどでんぷん質の味わいで、ほのかな甘みと特有の苦みも少しあり、大人がクセになる珍味だ。生でカルパッチョとか、酢漬けやオリーブオイル漬け、フリットなども試みたが、手間がかかるため、わが家では定着しない。

 

 花も非凡だ。いま菜園にはつぼみが大小30個ほどついている。小さいものはそのまま残して6月後半に花を愛でる。何とも華やかで紫色が菜園に渋く輝く。プンタレッラエンダイブの小さな花々とともに初夏の紫トリオを形成している。咲きはじめの上部の青紫が少し見えたときはうれしくて覗き込み、満開時には圧倒されて近づきがたい。料亭で、小さなつぼみや花が活けられていたことがある。生け花用に栽培したり、花屋さんに置かれたりして人気がある。多くの人には、食べ物としてよりも花の方が馴染み深いかもしれない。

 

 イタリアンの店で思いがけずアーティチョークの料理が出ると旧知の友のように懐かしい。この時季、名古屋駅前の「ディーン&デルーカ」で、外国産だが生のオリーブオイル漬けを見るとつい手が出てしまう。イタリアの青空市場で、つぼみのガクや茎を切り離してハートの部分だけを取り出す店員の巧みで素早いしぐさなど、欧州の旅の思い出が蘇ってくるからだ。スペインの市場内にある小店で初めて新鮮なアーティチョークを食べたときのことも思い出す。小さく真っ黒に焦げたものが出され、オリーブオイルと塩をつけてガクの部分の珍味を味わい、カヴァ(スパークリングワイン)とよく合った。ところが一番美味しいはずのハートの部分を、無知ゆえに残したまま店を出てしまった。アーティチョークはあまり日持ちがしないので、採りたてがベストだ。いま自ら栽培し収穫し、かつて失ったハートを取り返している。食べていただいて、もっと多くの方々のグルメ心をつかめれば、とも思いながら……。

 

   2023.5.15

 

 

 

(エッセイ風) キッチンガーデンの楽しみ  愛しのプンタレッラ  自家製タバスコの試み  生野菜&ハーブ栽培  菜園生活の四季  ローゼル栽培の楽しみ

  菜園のニューフェースたち  腰痛と菜園生活  菜園生活の転機  新たな再園生活 「危険な暑さ」と菜園生活 令和元年の菜園生活 禍中の平穏

 

サイトマップ